| ジャガーXJR 15はもともとのベースがレーシングカーでもある |
その希少性、歴史的背景から今後も高い価値を維持し続けるだろう
さて、今年の夏はかつてないほど様々なオークション主催会社から様々なレアカーが競売に登場するようですが、今回もまたひとつ、珍しいクルマが競りにかけられることに。
これは1988年、1990年のル・マン24時間レースで優勝したジャガーXJR-9のストリートバージョン「XJR-15」で、生産わずか50台、27台の市販車仕様のうちの1台となっています。
この個体は空力試験などに使用された、「ジャパン・スタディー・カー」だと紹介されており(この存在は知らなかった)、その後2015年にXJR-15のエキスパートであるビスポーク・モータースによってファクトリー仕様にレストアされ、さらに直近4年の間にメカニズムおよび外観のリフレッシュが行われた、とのこと。
ジャガーXJR15とは?
現在のジャガーのイメージからは想像が難しいものの、1950年代のジャガーはル・マン24時間レースで圧倒的な強さを見せ、7年間で5勝、1955年から1957年まで3年連続という驚異的な勝利を収めています。
しかし、C型、D型ジャガーの活躍を最後にジャガーはモータースポーツ活動を休止し、ル・マン24時間レースからも遠ざかることに。
そして時は流れて1980年代、スコットランドのレーシングカードライバー兼エンジニアであったトム・ウォーキンショーが(自身がチューンした)ジャガーXJSにて目覚ましい活躍を見せ、これがジャガー会長であるジョン・イーガン氏の知るところとなり、トム・ウォーキンショー・レーシングすなわちTWRとjタガーはパートナーシップ契約を締結し、同時にレースにて勝てるレーシングカーの開発に乗り出すべく「ジャガースポーツ」を設立。
その後ジャガースポーツのレーシングカーはグループCレースでメルセデス・ベンツ、ポルシェ、トヨタらを圧倒し、1988年のル・マン24時間レース(上の画像のXJR-9が優勝)、1990年のル・マン24時間レースでも優勝を収めたほか、両年のデイトナ24時間レースでも優勝を果たすなど素晴らしい戦績を残します。
そしてこういった状況の中、トム・ウォーキンショーは世界の富裕層の自動車愛好家の間で、成功した競技用車両をベースにした超エキゾチックで超高級なロードカー、つまりル・マン24時間レースの優勝者をベースにした公道走行可能なスポーツカーの要望があることを知り、ついには1990年11月にジャガースポーツが「ル・マンを制したXJR-9とXJR-12の技術とノウハウを用いながら、より使いやすく、サーキットでも使えるロードカー」という触れ込みにてXJR-15を発表することになったわけですね。
基本的にジャガーXJR-15はレーシングカー
XJR-15の車体構造には、基本的にル・マン24時間レースをを制したXJR-9(トニー・サウスゲイト設計)と同じコンセプトを持つセントラル・モノコック・シャシー・タブを採用しているものの、XJR-15の場合だとジム・ルーターとデイブ・フラートンの設計によって新しく設計し直されたためにサイズが若干異なるといいます。
ちなみにボディはマクラーレンF1を手がけたピーター・スティーブンスによるデザインで、カーボンファイバーとケブラーの複合材をくみあわせたもの。
サスペンションは4輪ともXJR-9を踏襲し、フロントはダブルウィッシュボーンと水平プッシュロッドスプリング式ダンパーが採用され、ブレーキシステムはAPレーシング製4ピストンキャリパーが用いられています。
450馬力を発生する6.0LドライサンプV型12気筒エンジンはグループC仕様とほぼ変わらず、コスワース製の鍛造クランクシャフトとコンロッド、アルミピストン、ザイテック製の電子制御シーケンシャル燃料噴射装置などを装備。
トランスミッションはTWRに設計による6速トランスアクスル(ストレートカットギア)で、AP製トリプルプレートカーボンクラッチを経由して後輪を駆動します。
ちなみにですが、もともとがレーシングカーということもあって「速く走ること」しか考えておらず、発売したのもジャガーのモータースポーツ部門であり(市販車に関する配慮が不足していたのか)、時速100キロ以下で走るとオーバーヒートする、というウワサも。
ただ、XJR-15の車体重量はわずか1050kg、最高速度は346km/h、そしてレースで実証された信頼性、優れたパワーウェイトレシオも相まって驚異的なパフォーマンスを発生したとされています。
ちなみに新車時の価格は100万ドルだったそうですが、今回のオークションでは最低で120万ドル、最高では140万ドル(約1億8700万円)というエスティメイトが出されており、つまりはそれだけ高い評価がなされている、ということもわかりますね。
参考までに、「ジャガースポーツ」からはこのXJR 15が1990年に発表されており、しかし本家「ジャガー」からも似たようなスーパースポーツであるXJ220が1998年に発表され1991年からデリバリーされているのですが、ジャガーにとってこのXJR15の存在は寝耳に水つまり「聞いていなかった」ようで、ジャガースポーツが「ジャガーXJ220と正面からバッティングする」クルマを発売してきたことに対しては強い憤りを感じたといい、これがもとでTWRとジャガーとの仲が険悪になったという話もあるもよう。
このジャガーXJR-15はニスモのエンジニアによってテストされる
今回オークションに登場するシリアルナンバー018は50台のうち27台が生産されたロードバージョンのうちのそのまた一台で、そのためトランスミッションはレース用の6速ではなく公道用の5速マニュアルが積まれており、元ニスモのエンジニアがエアロダイナミクスの研究やハイブリッド・エネルギー回生システムのテストに使用していた「ジャパン・スタディー・カー」と呼ばれる車両なのだそう。※日産のレーシングカー、R390はこのジャガーXJR-15をベースに開発されている
なお、日産がテストを行った際にはいくつかのモディファイが行われたようですが、2015年にはXJR-15のエキスパートであるビスポーク・モータースによってオリジナルの状態に戻されており、その後の走行距離は1000マイル以下、そして17インチサイズのOZ製ホイールには新品のピレリPゼロが装着されている、とのこと。
さらには「ジャパン・スタディカー・プログラム」にて使用したスペアパーツとして、日産オリジナルとなるリアボディパネルとその製作に使用した金型、テスト時に装着したホイールとタイヤ、ザイテック製ECUも付属しており、身長180cmのドライバーが快適に座れるように調整されたシートクッションが1セット付属している、とも紹介されています。
そのほかには過去4年間に行われたメンテナンス詳細が記されたサービスインボイスも付属し、その中にはもともとのダークブルーにペイントするための塗装費用(15,000ドル)やプロテクションフィルムの施工、油脂類類の交換、エアコンガスのリチャージ、カーボンクラッチの最小製、ベルト、ガスケット、スパークプラグ、タイヤの交換など、2万ドル以の項目が並んでいる、とのこと。
インテリアにはグレーレザーが貼られたレーシングシートが装着され、乗員同士が会話するためのヘッドセット(これがないとうるさくて会話できないようだ)、そのほか随所に見られるカーボンファイバーとケブラーの構造材、そしてナルディのレーシングステアリングホイールなどレーシングカーばりの装備が満載となっています。
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