| これまで中古市場に出てこなかった「もう一台のマクラーレンF1 HDF」がついに登場 |
なおヘッドライトはBMW Zからの流用加工品
さて、モンタレー・カーウイーク会期中に催されるオークションへと「非常に珍しい」マクラーレンF1が出品予定。
マクラーレンF1のロードカーそのものが64台しか生産されていないので大変に希少なのですが、この個体はマクラーレンによってハイダウンフォースキット(High Down Force Kit)が組み込まれた「マクラーレンF1 HDF」と呼ばれるもので、これは2台しか(記録上)作られていないうえ、この個体はマクラーレンF1の生産における最後の一台であり、マクラーレンF1のロードカーとしては唯一の”改良型”ヘッドライトを装着し、かつ過去10年間公開されておらず、そして今回はじめて公に売りに出されることになったという、「これで最高落札価格の記録を更新しないわけはない」という一台。※エスティメートは表示されていないが、とんでもない価格にまで上昇するのは間違いない
マクラーレンF1は自動車史上における「ビッグ3」
なお、マクラーレンF1は20世紀を代表する名車だと言われており、フェラーリ250GTO、そして(1930年代の)アルファロメオ8C 2900と並んで「ビッグ3」とも呼ばれるクルマ。
これを持たずして真のカーコレクションは完成しないと言われるほどで、テスラCEO、イーロン・マスクCEOは「最初の会社が数億ドルで買収された時、私は(カリフォルニア州)パロアルトに家を購入するか、マクラーレンF1を買うか考えたが、答えはすぐに出た。もちろん購入したのはマクラーレンF1だ」とコメントしているほど。※あまり報じられないが、イーロン・マスク氏は相当なコレクションを持っているようだ
マクラーレンF1はゴードン・マレー氏の設計によって誕生していますが、マクラーレン、そしてゴードン・マレー氏も市販車の製造販売経験がなく、しかし1988年にミラノで飛行機を待っていた際、マクラーレン会長のロン・デニス氏らとのたわいもない雑談からはじまって、「世界で最もクレイジーなスーパーカーをつくろう」という話にまで発展し、そこからわずか4年で実現しまったスーパーカー。
細部への徹底的なこだわりと革新的な設計プロセスによって、マクラーレンが掲げた高い目標をすべて達成した妥協のないクルマに仕上がり、その完成度の高さ、ポテンシャルの高さはに自動車業界に旋風を巻き起こすことに。
その「常識はずれっぷり」といえばやはり1995年のル・マン24時間レースにおける総合優勝以外にて語ることはできず、その性能や信頼性の高さは「急遽、そして不本意ながらもル・マン24時間レースに参戦し、ロードカーとして設計されたにもかかわらず、ル・マン専用に設計されたレーシングカーを抑えて優勝してしまった」ことからもわかるかと思います(しかも優勝した個体は試作車を流用しスペアパーツで組み上げられ、ほぼぶっつけ本番でレースを走っている)。
さらにマクラーレンF1は、アクティブ・エアロダイナミクス、エンジンルームの熱を反射させるための金箔、ファクトリーとの通信によって遠隔で問題を診断できるモデムシステムなどを備えた最初のクルマでもあり、手書きで書かれたオーナーズマニュアル、ケンウッドが特注した世界最小・最軽量の6連ディスクCDプレーヤー(マクラーレンF1が走行するGにも耐えることができる)、チタンで作られたファルコム製ツールキットなど走行性能以外の部分にもこだわりが発揮され、当時のクルマとしては規格外の約1億円というプライスタグを提げていたものの(当然ながらこの価格でも赤字ダダ漏れだったという)、購入者の誰一人としてその価格に納得しないものはいなかったとも。
そんなマクラーレンF1にも改良点があった
ただ、そんな完全無欠なマクラーレンF1ですが、納車が進むにつて「ヘッドライトが暗い」という問題がクローズアップされるようになり、そこでこの個体はBMW Z1から移植したヘッドライトユニットを収め、それにあわせてハウジングを(通常のF1に比較し)やや短くしているのだそう。
そしてこのヘッドライトを持つのはシャシーナンバー059のこのクルマのみだといい、この番号はル・マン24時間レースにて優勝したマクラーレンF1のカーナンバーと奇しくも同じであり、(レーシングバージョンも含めると)97台めのF1に相当するのだそう。
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最初のオーナーはイギリスのリンカンシャー州ボストンに住むジョン・スタッドホルム氏(タイプライターのカセットを製造するダイナミック・カセット・インターナショナル社の創立者)ですが、このシャシーナンバー059のマクラーレンF1はなんと「3台めのF1」。
同氏はそれまでにもシャシーナンバー017のF1、そしてレーシングカーのF1 GTRも所有しており、そしてこのシャシーナンバー059が同氏にとって「最後のF1」となったそうですが、ボディカラーにはマグネシウムシルバー、ブラックのアルカンターラとレザー内装を持ち、1998年5月にスタッドホルム氏の名義で英国で登録され、納車から7ヶ月後にはマクラーレン・スペシャル・オペレーションズ(MSO)による整備が行われ、その際にハイ・ダウンフォース・キットと18インチサイズのホイールが装着されたことが記録に残っています。
なお、マクラーレンF1は最高の性能を発揮すべく設計・製造されていますが、その性能を維持するためにもそうとうな労力とコストを掛ける必要があり、タイヤ交換後にはサーキットを借り切り、マクラーレンの指定するレーシングドライバーの走行にてセットアップを再度行わねばならないといい、そのため整備記録そのものも膨大な量に上るのだそう。
点検前後のサーキット走行データに加え、6連CDチェンジャーに入っていたCDのタイトルやアーティスト(クイーン、エルトン・ジョン、フリートウッド・マック)までもが克明に記され、こういった整備記録を確認すると、常にこのマクラーレンF1は適切な状態に保たれていたことを証明できる、と紹介されています。
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このマクラーレンF1は2012年に2人目のオーナーへ
そしてこのマクラーレンF1は2012年に2人目のオーナーへと所有権が移され、そしてこのオーナーもまた複数のマクラーレンF1を所有するコレクターであり、保管は自身の所有する空調管理が行き届いた倉庫内にて行い、走行するのも倉庫内のみにとどまっていた、とのこと。
見ての通りコンディションは抜群であり、「新車同様」と言ってもいいレベルです(この時代のクルマでアルカンターラを使用しているのは珍しい)。
リアセンターには巨大なエアクリーナーボックス。
フロントエンドはF1 HDF専用デザインです。
リアウイングの内側にはエアインテークのようなものも。
ホイールはOZレーシング製。
このマクラーレンF1 HDFがいくらで落札されるのかはわかりませんが、もう一台のF1 HDFは21億円で落札されており、そしてこのF1 HDFのほうが付加価値が高いことを鑑みるに、当然ながら21億円を軽く上回ることになりそうですね。
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