| ソリッドステートバッテリーは、空飛ぶクルマや完全自動運転のように、夢に終わるようにも思われる |
それでも自動車メーカーは未来のために夢を追うしかない
さて、BMWは現在「新型バッテリー」を搭載した次世代EV”ノイエクラッセ”の発売に向け動いている状況ですが、このバッテリーパックは最大で(一回の満充電あたり)航続可能距離1,000km、1,341馬力までの対応、30%高速な急速充電、二酸化炭素排出量を大幅に削減する安価な生産プロセスの実現が可能になるといった革新的なモノ。
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ただ、BMWのトップ・バッテリー・エンジニアの一部は、こういった革新的なバッテリーを開発できる時代は終わりつつあり、これまでのバッテリーとは全く異なる「ゲームチェンジャー」的な素材や構造を採用しない限り、現在(リチウムイオンバッテリーにて)技術的にできる限界に近づいているとの見解を示していて、しかしソリッドステートバッテリーの実用化も見えてこないため、リチウムイオン電池が今後何年にもわたって業界標準として広く使われることになるだろうともコメントしています。
リチウムイオンバッテリーのエネルギー密度はピークに達している
BMWが新しく採用するのはGen6(第六世代)バッテリーとなりますが、このエネルギー、性能、寿命に関する責任者、サイモン・アーハード氏によれば「エネルギー密度の観点からは、工業化されたアプリケーションで最適なリチウムイオンバッテリーの化学反応に直面していると言えるでしょう。それはピークに達していると思います」。
要は、リチウムイオンバッテリーに関しては「できることはすべてやった」「もうこれ以上改良の余地はない」と捉えており、この次にバッテリー開発における「大きな出来事」があるとすれば、それはおそらくソリッドステート・バッテリーであると考えているようですね。
実際のところ、BMWはミュンヘンにセル・マニュファクチャリング・コンピテンス・センターを開設してソリッドステートバッテリー技術の研究開発を行っており、ヨーロッパの優秀な研究者との連携により、バッテリー開発に関するミニ・シリコンバレーのようなネットワークを構築している、とも述べています。
さらに、BMWはフォードとともに、コロラド州に拠点を置くソリッドパワー社に出資していて、同社はこの技術を最初に商業化する企業となることを目指していますが、つまり、自動車用の量産型ソリッドステートバッテリーとして最初に登場するのはフォードかBMWになる可能性があると目されています。
ただ、もちろんこの技術について、ゼネラルモーターズ、ホンダ、フォルクスワーゲン、ヒュンダイ、トヨタ、日産など、他の多くの自動車メーカーも研究中であることは既報のとおりでもありますね。
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ソリッドステートバッテリーは「聖杯」
BMWはソリッドステートバッテリーの実用化を待たず、今後数年間にわたり、リチウムイオンバッテリー(第6世代)を軸としてこれまでで最大の電動化を推進してゆきますが、世界中のさまざまな工場で生産される第6世代バッテリーを搭載した電気自動車を発売することに。
この第6世代バッテリーは円筒形を持ち、高さを自由に変更することができるという特徴を持ち、すでにテスラが導入を発表している他、リマックも同様のバッテリーセルを採用すると発表しているもので、そしてBMWのエンジニアによると「これが現在の限界」「リチウムイオンバッテリーの究極形」ということになるのかもしれません。
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ただ、「コストをさほど気にしなければ」電極に新素材を使用した高性能バッテリーを採用することもできるようで、ポルシェは非常に高額ながらも高性能な新型バッテリーを限定モデルに採用する、とも発表したことも(電極に高価な素材を使用するらしい。ただしそれに見合うリターンがあるのかはわからない)。
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しかしやはりこれもリチウムイオンバッテリーの亜種であることにかわりはなく、全固体電池つまりソリッドステートバッテリーこそが未来だというのはいずれの自動車メーカーの一致した認識だと思われ、しかしこれは「長い間、実現すると言われながらも未だ実現できていない技術」のひとつ。
早ければ(ソリッドステートバッテリーは)2019年頃には実用化がなされていたはずで、その後も2022年、いや2025年といった感じで実用化がズルズルと伸びているのが現状ですが、もし実現できれば、リチウムイオン電池よりもはるかに大きなエネルギー密度を持つため、電気自動車を小さく、そして軽く作ることが可能となります(バッテリースペースの制約が減るので、パッケージングの自由度も向上する)。
ソリッドステートバッテリーは、従来のリチウムイオン電池のような液体ではなく、固体材料を電池セル内の電解質として使用しており、充電時間の短縮、信頼性の向上、そして最も重要な安全性の向上にも貢献するという点でも期待がかかっていますが、全固体電池は、リチウムイオン電池よりもはるかに燃えにくいため、EVの火災が「理論上」発生しなくなるとも言われているようですね(これは嬉しいことである)。
ただしその実用化は困難を極めており、いずれのバッテリーメーカー、自動車メーカーも「80%くらい」まで行きながら、そこから先に進むことができずにいて、これは「空飛ぶクルマ」や「自動運転」のように、結局は実現できない技術となってしまう可能性があり、そのため一部では「聖杯」「ユニコーン」と表現されることあるようですね。
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ただ、BMWのエンジニアによると、「ソリッドステートバッテリーの実用化が遅れたのは、リチウムイオンバッテリーの開発余力があったので、そちらを各社とも優先していた」からだとコメントしており、しかしもうリチウムイオンバッテリーの改良余地が残されていない今、否が応でもソリッドステートバッテリーの開発に全力を振り分けざるをえない状況であるとも述べています(自動車メーカーとしては”今”を見なくてはならないが、同時に”未来”にも備えねばならない)。
よって今後はソリッドステートバッテリーの開発が加速するという見方を示しているものの、「現在、そして今後3〜5〜8年以内というタームだと、我々はリチウムイオン電池技術に頼ることになる。そして、2030年以降には、ようやく実用的な全固体電池が登場することになるでしょう」とも語っており、やはりソリッドステートバッテリーの実用化にはあと10年程を要することになりそうです。
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参照:InsideEVs