
| 実は「1,000馬力」を発生するのは一瞬である |
欧州では「220馬力、日本だと204PS」相当の出力が車検証へと記載される
「1,000馬力超え」という圧倒的なパワーを誇る最新の電気自動車(EV)ではありますが、カタログに誇らしげに掲げられたその大出力が、実はほんの数秒間しか発揮できないことはあまり知られていない事実です。
ドイツの有力自動車専門誌『Auto Motor und Sport』などの報道によると、EVの「瞬間最高出力(ピークパワー)」と「持続可能な出力(連続出力)」には極めて大きな開きが存在するといい、例えば1,000馬力オーバーを謳うポルシェ・タイカン ターボ GTであっても、(欧州での)車検証などに記載される30分間持続可能な最高出力(定格出力)は「わずか220馬力」にとどまるのだそう。
なお、日本だと車検証には出力は記載されず、EVの場合は定格出力が記載されているそうですが、以前にテスラにて「カタログ値と定格出力とが大きく異なる」ということが話題となったことがあるため、日本の車検証に記載されるタイカン ターボGTの「定格出力」もかなり低いのかもしれません(欧州での記載方法に従っているのかも)。
いずれにせよ、欧州では実に大きなギャップが存在し、なぜこのような極端な数字の「差異」が生まれるのか、その背景にある技術的理由と国際規制の仕組みについて見てみましょう。

【この記事の要点】
- 瞬間出力と持続出力の落差:1,000馬力級のEVでも、熱対策やバッテリー負荷の影響で、最高出力を維持できるのはわずか数秒程度
- 車検証の数字が低い理由:カタログ数値は瞬間最高出力(UN GTR No. 21規準)である一方、公的書類には30分間維持可能な「連続定格出力(UN R85規準)」が記載される
- 日常走行への影響:日常の街乗りで消費する電力は数十馬力程度のため実用上の支障はなく、過度なスペック競争に対する冷静な視点が求められている
なぜEVは馬力を出し続けられないのか?
上述の通り、EVの性能スペックを語る際、ぼくらが日常的に目にするカタログ値と実際の走行で発揮し続けられるパワーとの間には大きな乖離が存在します。
カタログやプロモーションで使われる「4桁馬力」の正体は、モーター、インバーター、バッテリーが理想的な温度と充電状態にある瞬間にだけ解放される「ピークパワー」で、しかしEVがこの最高出力を長時間維持できない最大の理由は「熱(熱管理)」と「電気的負荷」にあり・・・。
- 熱によるパフォーマンス低下(サーマルスロットリング):モーターやインバーターは大電流を流すと一気に発熱し、過熱による機器の破損を防ぐため、制御システムが即座に出力を制限する
- バッテリーの温度と残量(SoC):バッテリーセルは過度な放電により急速に加熱され、バッテリーの温度が高すぎる場合やバッテリー残量が減っている状態では最高出力が出せない
- 冷却システムの限界:超高出力を抑え込むための冷却水や冷却システムの能力には物理的な限界が存在する
このように、短距離の加速(スプリント)と長距離の継続走行(マラソン)では、EVが発揮できる実力が大きく異なるというわけですね。

スペック比較と国際規制のカラクリ
EVの出力を測定・表示する際には、主に2つの異なる国際規制(国連規則)が用いられていますが、これが数字の混乱を引き起こすタネとなっていて・・・。
- UN GTR No. 21(システム最高出力):複数モーターやバッテリーの最大電力を考慮し、車両が瞬間的(数秒間)に発揮できる統合システム最高出力を測定する規格。カタログの「〇〇馬力」に使われる。
- UN Regulation 85 / ECE R85(30分間最高出力):電動パワートレインが30分間にわたって平均して維持できる最大出力を測定する規格。欧州などの車検証に記載される公的な定格出力。
主要ハイパフォーマンスEVの馬力ギャップ比較
そして「UN GTR No. 21」と「UN Regulation 85 / ECE R85」に基づいたハイパフォーマンスEVの「カタログ値」と欧州の「車検証上の数字」を比較してみるとこんな感じ。
一定の比率で差分が生じるわけではなく、車種によって異なることが分り、ECE R85に基づくならば、タイカン・ターボGTとアイオニック 5 Nの定格出力は「ほぼ同じ」ということに。
| 車種 | カタログ最高出力(ピーク時) | 30分間定格出力(ECE R85) | 差分(低下率) |
| ポルシェ タイカン Turbo GT | 1,093 hp (1,108 PS / オーバーブースト時2秒間) | 220 hp (223 PS) | 約 80% 減 |
| ヒョンデ IONIQ 5 N | 641 hp (650 PS / N Grin Boost時) | 213 hp (216 PS) | 約 67% 減 |
※いずれもGTR 21等の規定によるローンチコントロール/オーバーブースト時の最大値と、UN R85に規定された30分持続出力の比較

しかし、だからといって「30分走ったら突然亀のように遅くなる」というわけではなく、実際の公道走行では加減速を繰り返すため、冷却システムが機能していれば街乗りや高速道路の追い越しで不満を感じることはまずありえないというのが「現実」です。
ガソリン車でもあった「一瞬だけの馬力」とパワー戦争の虚構
実を言うと、「一時的に馬力を上乗せしてカタログ値を飾る」手法はEVに限った話ではなく、ガソリンエンジン車(内燃機関車)の時代から、「オーバーブースト機能」としてアクセルを全開にした数秒〜数十秒間だけ(ターボエンジンの)ブースト圧を高めてトルクや馬力を引き上げる仕組みが存在します。
たとえば、2010年代半ばに登場したフォード・フィエスタSTは、ヨーロッパだと「180馬力」とカタログに表記されていたのに対し、アメリカではオーバーブースト時の数値である「197馬力」として宣伝されていて、これも表示規制の地域差を利用した数値のゲームと言えるのかもしれません。
-
-
【ややこしい】なぜメトリック馬力(仏馬力)とインペリアル馬力(英馬力)は同じ「馬力」なのに数字が異なるのか?
| アメリカとヨーロッパでは馬力の表示方法が異なる | インペリアル馬力(hp)の方が、メトリック馬力(PS)よりもわずかに小さい 自動車の馬力表示にはメトリック馬力(仏馬力、PSあるいはCV)とイン ...
続きを見る
本当に必要な「馬力」は本当はどれくらい?
サーキットで何時間も連続でタイムアタックを行うような特殊な用途でない限り、公道での日常走行(時速100km程度での巡航)において自動車が実際に消費しているパワーは「わずか30馬力(約22kW)程度」に過ぎないと言われます。
そう考えると、4桁におよぶスペック数値の争いは、現代の自動車メーカーによるプロモーション上のパフォーマンス戦争という側面が強いことがわかり、パワーウォーズの無意味さも感じられようというものですね。

結論
EVの「1,000馬力」という数値は嘘ではありませんが、それは「いつでも・いつまでも出せるパワーではない」という点に注意が必要で・・・。
- 数値の正体:カタログ値は特定条件下の瞬間最高出力(UN GTR No. 21)であり、持続可能なパワー(UN R85)とは大きく異なる
- 購入時の心構え:車検証の控えめな馬力表示に驚く必要はなく、しかしサーキット走行や重いトレーラーの牽引など、高負荷が長く続く使い方をする場合は「連続出力(定格出力)」や熱管理性能のチェックが重要となる
カタログの派手な数字だけに惑わされず、そのスペックがどういう条件で測定されたものなのかを理解することで、より賢いクルマ選びができるようになる、ということを覚えておく必要がありそうです。
合わせて読みたい、関連投稿
-
-
【衝撃のほぼ2トン】ランボルギーニ・テメラリオの車体重量「実測値」は1,905kg、ポルシェ・マカンとほぼ同じという驚愕の真実が発覚して話題に
| PHEVだけに仕方がないが | ランボルギーニが世に送り出した最新のHPEV(ハイパフォーマンス電動車)「テメラリオ」。 ウラカンの後継として期待を集めるこのスーパーカーですが、実測された「衝撃の ...
続きを見る
-
-
フェラーリ・ポルトフィーノの登録完了、車検証上の重量は公称値の1,664kgに対して1,750kg。「乾燥重量」「車両重量」「車両総重量」の違いとは?
| いよいよフェラーリ・ポルトフィーノの納車が数日後に近づいてきた | 今でもフェラーリを1年で2台買ったという実感が全く湧かない さて、フェラーリ・ポルトフィーノの登録が完了し、無事に車検証が発行さ ...
続きを見る
-
-
ボクのトヨタ・クラウンスポーツの登録が完了、車検証ができあがる。前後重量配分は55:45、ミニJCWの64:36、アウディTTの60:40よりも理想的
| これでいよいよクラウンスポーツの納車がカウントダウン状態に | あとは任意保険の手配を行えば「納車を待つだけ」 さて、ぼくのトヨタ・クラウンスポーツが(トヨタの工場から)ディーラーに届き、そして無 ...
続きを見る
参照:Auto Motor und Sport, CARSCOOPS











