
| アメリカとヨーロッパでは馬力の表示方法が異なる |
インペリアル馬力(hp)の方が、メトリック馬力(PS)よりもわずかに小さい
自動車の馬力表示にはメトリック馬力(仏馬力、PSあるいはCV)とインペリアル馬力(英馬力、hp)とが存在し、よって同じクルマであっても「馬力」の表記が異なることが多々あります。
そのニュースが「欧州発」なのか「米国発」なのかによって表記(数値)は異なることが多く、一般に欧州ではメトリック馬力(PS)、アメリカ(とイギリス)ではインペリアル馬力(hp)が公式な数値として採用されるのが通例です。
単位系の歴史的背景
同じ馬力でも「示される数値」が異なるのは、定義が生まれた時期の単位系の違いが原因で、基本的な計算式は同じなのですが、使用する力の単位と距離の単位が異なるため、換算するとわずかな差が生じることになるわけですね。
よって、たとえばフェラーリSF90ストラダーレだと「仏馬力では1,000馬力」「英馬力だと986馬力」という表記となるのが一つのわかりやすい例かもしれません。※日本だと多くの場合、仏馬力=メトリック馬力が用いられる
インペリアル馬力 (hp=英馬力) の定義
- 提唱者と時期:ジェームズ・ワット(James Watt)が1780年代に定義
- 意味:hp=Horsepower
- 使用単位:当時イギリスで一般的だったポンド(力)とフィート(距離)が使われる
- 定義の根拠:ワットは、33,000ポンドの重さを1フィート持ち上げるのにかかる力を1分と定義することに
- 定義:75 kgf·m/s(= 約735.5 W)
- 換算:1 hp=だいたい1.014PS
メトリック馬力 (PS) の定義
- 提唱された時期:メートル法がフランス革命後の1795年に導入されて以降に考案される
- 意味:ドイツ語の Pferdestärke(「馬の強さ」の意味)の略
- 使用単位:キログラム(力)とメートル(距離)が使われる
- 定義の根拠:75キログラムの重さを1秒で1メートル持ち上げる力として定義される
- 定義:75 kgf·m/s(= 約735.5 W)
- 換算:1 PS=だいたい0.986hp
単位換算の差
つまるところ、メトリック馬力(仏馬力、PSあるいはCV)とインペリアル馬力(英馬力、hp)のもととなる単位が「メートル法なのか、ヤード・ポンド法なのか」という差となり、これらの異なる単位系で定義されたインペリアル馬力(hp)をメトリック馬力(PS)に換算すると(あるいはその逆で計算すると)、わずかな差が生じます。
| 種類 | 記号 | 別名 | 基準とする単位系 | 定義 | ワット(W)換算値 | 採用国・地域 |
| メトリック馬力 | PS (Pferdestärke) または CV (Cheval Vapeur) | 仏馬力 | メートル法(重力単位系) | 75 kgfの重さを1秒間に1m動かす仕事率 | 約735.5 W | 日本、ヨーロッパ大陸諸国など |
| インペリアル馬力 | hp (horsepower) | 英馬力 | ヤード・ポンド法(重力単位系) | 550 lbfの重さを1秒間に1ft動かす仕事率 | 約745.7 W | イギリス、アメリカ合衆国など |
この表のとおり、インペリアル馬力(hp)の方が、メトリック馬力(PS)よりもわずかに小さいと覚えておくと良いかもしれません。
キロワット(kW)とは?
なお、最近良く見かけるようになった出力表示が「kW(キロワット=1,000 W)」。
これは主にEVなどの電動化車両において用いられることが多く、実際にレクトリックモーターの出力はkWにて定義されます。
そして上述の通り、PSやhpといった複数の馬力表示があるために「ややこしく」、さらにはガソリンエンジン(PSやhpで出力が管理される)とエレクトリックモーター(同kW)とを一つの車体に積むハイブリッドカーが増えてきたため、現在、国際的には(その車両の出力につき)kW表記へと統一する動きが生じているわけですね。※kWは国際単位系(SI)における仕事率の公式単位
現在、日本の自動車カタログ規格(JIS)や、世界の規制文書(UN/ECEなど)では「正式な出力単位は kW」と規定され、そのため、最近のカタログでは・・・。
- kW(必須)
- PS(参考として併記)
というスタイルが増加中。
参考までに、「hpとkWとの換算方法」は以下の通りで、カタログなどの出力表示が「kWのみ」だった場合、だいたい「それに1.3から1.4くらいを掛けたのが(英であろうが仏であろうが)おおよその馬力」だと考えておいてよいかと思います。
| 換算式 | 換算値(概算) | 換算値(正確) |
| hp→kW | x 0.7457 | x 0.74569987158227 |
| kW→hp | x 1.3410$ | ÷ 0.74569987158227 |
馬力の測定方法によるその他の違い
馬力には、上記の単位による違いのほかに、測定方法や測定箇所による違いも存在し、これらは”単位”ではなく”方法”の違いです。
グロス馬力 vs. ネット馬力
これは主に1972年以前のアメリカの自動車メーカーで使われていた、エンジンの付属部品の有無による違いに由来します。
- グロス馬力 (Gross Horsepower):
- 測定方法: エンジン単体(裸の状態)で測定。ウォーターポンプや排気制限など、実際に走行時にパワーを奪う付属部品を取り外した状態で計測される
- 特徴: 広告などで数字を大きく見せるために使用され、実際の走行性能とはかけ離れた数値となる
- ネット馬力 (Net Horsepower):
- 測定方法: 実際の走行時と同じ状態(ウォーターポンプ、エアクリーナー、完全な排気システムなど、全ての付属部品を装着)で測定される
- 特徴: 1972年以降、より現実に近い数値を報告するためにアメリカで導入され、グロス馬力時代に比べ、同じエンジンでも数値が劇的に低下することに(例:キャデラック・エルドラドのV8は400hpから235hpに低下)。ただし「実際の走行性能」に近い数値である
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ブレーキ馬力 vs. ホイール馬力
そしてもうひとつ、こちらは「測定する箇所による違い」。
- ブレーキ馬力 (Brake Horsepower / Crank Horsepower):
- 測定箇所: クランクシャフト(エンジン出力軸)で測定される
- 特徴: エンジンそのものの出力を示すものの、ドライブシャフトやディファレンシャル(差動装置)といった動力を伝達する過程で失われるロスは含まれない
- グロス馬力に似ているが、ブレーキ馬力は測定方法を指し、グロス/ネットは装着部品の有無を指す点で異なっている
- ホイール馬力 (Wheel Horsepower):
- 測定箇所: シャシーダイナモメーター(ローラーの上で測定する装置)を使い、駆動輪(タイヤ)で測定する
- 特徴: トランスミッション、ドライブシャフト、ディファレンシャル、タイヤなど、全ての駆動系部品を通した後の、実際に路面に伝わる最終的な出力を示している
- ネット馬力よりもさらに多くのロス(駆動系のフリクションロスなど)を考慮するため、通常、最も低い数値となる
まとめ
メトリック馬力(仏馬力=PS)とインペリアル馬力(英馬力=hp)の違いは単位系の違い、そしてグロス/ネット馬力やブレーキ/ホイール馬力の違いは測定方法や測定箇所による違い。
なお、「計測方法の違い」といえば「燃費」を思い起こしますが、こちらは現在紆余曲折を経て日本だと「WLTC」を採用していますが、かつては「JC08」を採用していたことも。
ただし米国では独自の「EPA」を採用するために同じクルマであっても燃費性能の表記に差があり、EVにおいても現在はいくつかの規格が存在しているため(WLTC・EPA・NEDC・CLTCなど)、やはり混乱してしまいますよね。
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