| まさかこんなフェラーリが存在したとは |
イタリアに唯一残るフェラーリのポリスカー、そして唯一「個人で運転することが許可されている」ポリスカー、1962年モデルのフェラーリ250GTEが売りに出されてちょっとした話題に。
これは当時のイタリア大統領がかのエンツォ・フェラーリに直接掛け合い、ローマ警察に2台寄付させた車両のうちの一台で、ローマ警察で当時最も有名だった警察官、アルマンド・スパタフォーラ氏の要望によって実現したものだそう。
ちょっと日本では馴染みが薄い経緯ではありますが、欧州では、特定組織の特定人物を「英雄」として扱うことで組織や国の士気を高めるという傾向があり、当時もそういった背景があったのかもしれません(共産主義的な国に多いような気はする)。
フェラーリ250GTEはこんなクルマ
なお、二台納車されたうちの一台は数週間もたたないうちに廃車になったとされ、やはり当時のフェラーリは一般人には運転が難しいシロモノであったということがわかりますね(エンツォ・フェラーリはさぞや怒ったに違いない)。
フェラーリ250GTE(250GT 2+2)は1959年に生産が開始された”フェラーリ初の”量産4シーターで、エンジンは3リッターV12(ティーポ128F)。
トランスミッションは5速(4速+オーバードライブ)、出力は240馬力、最高速度は230km/h。
250GTクーペに比較すると全長が300ミリ長く、全幅は60ミリ広く、逆に全高は50ミリ”低く”。
デザインはピニンファリーナによるもので、当時は大変な人気があったといい、250GT(クーペ含む)の総生産台数の2/3がこの250GT 2+2であったと言われます。
全長は4700ミリ、全幅1710ミリ、全高1340ミリ、そして車体重量は1280kg。
フェラーリ250GTE「ポリスカー」はこういった背景を持っている
1960年代はじめには犯罪者とのカーチェイスが多く、ローマ警察は当時ブラックのアルファロメオ1900をパトカーとして採用していたそうですが(ニックネームは”パンテラ”)、犯罪者の方もどんどん速い車に乗るようになり、そこで警察もさらにスポーティーなアルファロメオ・ジュリア1600へとスイッチ。
それでも犯罪者はさらに速い車を用意するようになってイタチごっこが続き、そこでアルマンド・スパタフォーラ氏が「犯罪者どもを捕まえるにはどうしたらいいか」と尋ねられたところ、即座に「フェラーリを導入する以外にありますまい」と答えたそうです。
そこでローマ警察は大統領経由にてフェラーリ250GTEを2台獲得することに成功しますが、フェラーリは簡単に運転できるシロモノではなく、よってアルマンド・スパタフォーラ氏含む4名がフェラーリにてトレーニングを受けて正式にフェラーリ・パイロットに就任することに。
その後、このシャシーナンバー3999は6年間活躍し、とくにアルマンド・スパタフォーラ氏の検挙率はめざましく、これによって彼はさらに名をあげた、と記録されています。
これが当時の写真だそうですが(めっちゃゴッドファーザーっぽい・・・)、これもまたボディカラーがブラックだったので「二代目パンテラ」を襲名することに(左右フロントフェンダーにはブラックパンサーのステッカーが貼られている)。
1968年に引退した後、警察は1972年にこの250GTEを公共のオークションに出品し、これを購入したのがアルベルト・カペリ氏で、同氏はなんと購入後40年間もオリジナルコンディションのままで保存。
所有期間中は実際にこのクルマを運転してイベントに参加・展示したり、現役中のパイロットであったアルマンド・スパタフォーラ氏を招いてクラシックカーレースを走ったそうですが、そのレース「コッパ・デル・ドロミティ」ではなんと2位に入っています(本職のレーシングドライバーに混じってこの成績なので、いかにアルマンド・スパタフォーラ氏の運転技術が優れていたかがわかる。どうりで悪党も逃げることができなかったわけだ)。
さらにその後はローマにある「パトカー博物館」に請われる形で展示のために貸し出され、数々の式典に登場したという記録も残ります。
2015年には別のイタリア人オーナーへと譲渡され、その後はペブルビーチ・コンクール・デレガンスにも展示されるなどさらに「ハク」を付けることとなっていますが、やはり特筆すべきは「イタリアで唯一の、個人で運転していい」パトカーである、という事実。
どこの国でもそうですが、パトカーはもちろん、パトカー風のクルマを運転することは許されず、しかしこのフェラーリ250GTEは特別な許可証が発行され、パトライトや警察無線を装着したままで走ることができるそうです。
そういった証明書類、フェラーリによるメンテナンス履歴ほか様々な書類一式も完備されており、価格については「ASK」。
値のつけようがないほどの価値を持つフェラーリということになり、しかるべきオーナーの手に渡ってほしいと思える一台ですね。