| これだけアイコン性、そして話題性の高いクルマをランチアが今まで放置し復刻しなかったことが不思議でならない |
ただし新生ランチアではストラトスの復活を示唆しており、実現すれば初代ストラトスはさらに大きな注目を集めそう
さて、ぼくの大好きなスポーツカー、ランチア・ストラトスHFストラダーレがオークションへと登場予定(有名なスポーツカーである割に、競売に登場する機会は多くない)。
ランチア・ストラトスの歴史は1970年のトリノモーターショーにて、カロッツェリア・ベルトーネが発表したドラマチックな新型ストラトス・ゼロコンセプトから始まりますが、これは大胆なウェッジシェイプ、未来的なフロントヒンジドア、ミッドマウントされたフルヴィアパワープラントなどによって大きな関心を集めます。
ただ、このストラトス・ゼロ・コンセプトは「車高わずか83センチ」というとんでもない低さを持っていて、デザイナーであるマルチェロ・ガンディーニのプロパガンダもむなしく、ランチア側の「もっと実用的なクルマを」という要求を受けてデザインが大きく変更され、競技用モデルとしてのストラトスHF、市販モデルの「ストラトスHFストラダーレ」が登場したわけですね。
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ランチア・ストラトスHFはこんなクルマ
ランチア・ストラトスHFは、1972年11月のツール・ド・コルスでデビューし、翌月にはフェラーリから供給される2.4リッターのディーノエンジンを搭載しています。
1973年末になるとランチアはストラトスHFの生産準備を進め、ベルトーネは500台のモノコック・シャシーを供給し、これによって1974年10月、ストラトスHFはついにFIAのグループ4スペシャルGTカテゴリーのホモロゲーションを取得することに成功することに。
その後5年間、このストラトスHFは、ランチアの革新的なスポーツカーとして、ラリー競技にて数百勝をあげるなど圧倒的な強さを誇り、火事にて生産工場の可動が停止するまで492台が製造されますが、その生産のうち少量がモータースポーツに参戦し、のこり大半はHFストラダーレのロードゴーイングバージョン(ストラトスHFストラダーレ)として個人顧客に販売されています。
ランチア・ストラトスは「ラリーで勝つため」だけに設計されており、そのすべてのスペックは「競技種目のレギュレーションにマッチするよう」逆算して決められたもの。
ミドシップエンジンレイアウトはその重量マスの集中と後輪のトラクション確保によってを目的に導入が決定され、そして5速マニュアル・トランスミッション、4輪ディスクブレーキ、コイルスプリング+テレスコピックショックアブソーバー、さらには完全独立ウィッシュボーンサスペンション、アンチロールバーを備えるという、当時の市販車としては「過剰」とも言える装備を誇ります。
もちろん搭載されるエンジンも並外れたハイスペックを誇り、2.4リッターのV6自然吸気エンジンにはウェーバーキャブレターが3基装着されて190ps/7,400rpmを発生しますが、さらに驚かされるのは、この数値を50年近く前に達成していた、ということですね(なんといってもフェラーリ製エンジンである)。
このランチア・ストラトスHFストラダーレはこういった経歴を持っている
ランチア・ストラトスHFの権威、トーマス・ポッパー氏によると、このストラトスHFストラダーレは492台中44台目の生産(シャシー001544)となり、1974年7月1日にベルトーネの工場にて生を受け、ボディカラーはロッソ・アランチオ(レッド・オレンジ)、インテリアは「ハバナ」のアルカンターラとレッド・カーペットという組み合わせ。
最初のオーナーはトリノ在住のジュゼッペ・カプラ氏で、1980年にこの車両を売却するまで2万キロ近くを走行したという記録が残っており、2代目オーナーのマッシモ・ロッティ氏はこのストラトスHFストラダーレをローマで登録し、その後4年間で約5万kmを走破しています。
1984年頃、彼はランチアを長期静態保存することに決め、しかし2017年になると現在の所有者であるアメリカ東海岸のコレクターへと売却しており、そこではじめてイタリア国外から持ち出されることになりますが、アメリカに到着したストラトスは、サスペンションやブレーキシステム含む徹底的なリビルドと整備が施され、それらが完了した後にはロサンゼルスにあるピーターセン自動車博物館へと貸し出されることになり、人気展覧会「スーパーカー~A Century of Spectacle and Speed(スペクタクルとスピードの世紀)」にて展示がなされています。
ここ最近だと、ギアボックスのリビルド、エンジン・アウト・サービス、そしてコスメティック・ディテールアップが施されたばかりだと紹介されており、現在の走行距離は72,553km。
重要なのは、この車がエンジン、ギアボックス、ベルトーネのボディそれぞれが「マッチングナンバー」を持つということで、つまりいずれのコンポーネントも載せ替えがなされていない、という事実です。
出品に際し、このストラトスHPストラダーレには、イタリアの登録記録、オリジナルの保険証書、オーナーズマニュアル、R.M.クラークの著書「ランチア・ストラトス1972-1985」、そしてこのモデルのために作られた様々なオーナーズマニュアル、ユーザーマニュアル、スペアパーツ、技術データブックレットのコピーが付属しており、コレクターにとっては非常に理想的な状態を保っていますが、そのため予想落札価格は60万ドルから70万ドルだと見積もられ、しかしストラトスHFストラダーレの落札価格は年々上がっており、気がつけば100万ドル、ということも容易に想像が可能です。
なお、このランチア・ストラトスは多くのデザイナーの創作意欲を掻き立てるクルマでもあり、レンダリングアーティストはもちろん、コーチビルダーやデザインハウスによるオマージュモデルやコンセプトカーが実際に多く製作されています。
そしてランチアも公式に「ストラトスHF」っぽいテールランプやリアエンドをスケッチにて示し、その(なんらかの形での)復活を示唆したという事実もあって、もしかすると「本当に復活」する可能性があるかもしれませんね。
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