| いったいなぜこうなったのかは不明だが、このブガッティEB112はなにかと悲運なのはよくわかった |
ブガッティのセダンがたどった運命を見てみよう
さて、ドイツのスーパーカーディーラーが「同じ車を2人の個人に同時に販売してしまった」というニュース。
稀にこういった事件が報じられるようには思いますが、今回の件はいまひとつ良くわからない流れとなっていて、まず最初に販売したのはカーコレクターの「turbollection」氏に対して。
ただ、その4日後にこのスーパーカーディーラーは同じ車を別の個人に販売しており、そしてそのことをturbollection氏に伝えた、と報じられています。
いったいなぜこんなことに?
もしこの販売店が「1台のクルマを2名に同時に売り、両方から代金をもらおうとしたならば」これは立派な詐欺行為ですし、おそらくすぐに「お縄」となりそう。
仮にスーパーカーディーラーが倒産直前であり、捕まるのを覚悟でやろうとしたのであれば別ですが、どう考えてもこれはすぐに不正が発覚してしまう行為であり、よほど切羽詰まっていないと手を染めない犯罪だろう、と思います。
それでもこのディーラーは「同じ車を2名に対して販売」しているわけですが、そのほか考えられるのは「2番めの購入者のほうが高い値を付けたから」。
つまり一人目と契約した後に「別の」より高額で引き取るという購入者候補が登場し、ディーラーは一人目との契約を解除して2人目に販売したとも考えられます。
ただしこれはぼくの想像であり事実が公開されておらず、よって「真実は闇の中」。
一人目の購入者が送金したのかどうか、現在はどういった状態なのかも不明です。
なお、販売された価格は240万ユーロ(約3億2000万円)とも伝えられており、これは「セダン史上最高額」なのだそう。
近代ブガッティには「2つの会社」がある
そこで今回の珍事の当事者となったブガッティEB112について。
これは1993年にジュネーブ・モーターショーにて公開されたクルマであり、つい最近までぼくはこのクルマの存在を全く知らず、しかしこれを知ったのは、「モナコを走るスーパーカー動画」を見ていて、よくわからないブガッティが登場し、そしてこれについて調べると「EB112というクルマらしい」ということが判明したわけですね。
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なお、このブガッティEB112を企画したのは、シロンなどを発売している現在の「ブガッティ・オトモビル(フランス本社)」ではなく、過去にEB110を発売していた「アウトモビリ・ブガッティ(イタリア本社)」。
このアウトモビリ・ブガッティは(一時ロータスを所有していた)自動車愛好家にしてビジネスマン、ロマーノ・アルティオーリ氏が、ブガッティの商標権を得てイタリア・モデナに1987年に設立しており、1991年にEB110を発売しています。
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そしてこの「EB110」は、現在のブガッティ(1998年に、フォルクスワーゲンがブガッティの商標権を得てフランスはアルザスに設立)が発表した「チェントディエチ」のモデルにもなっていますね。
参考までに「EB110」はブガッティ創業者であるエットーレ・ブガッティ(個人)の生誕110周年を記念して命名されており、「チェントディエチ(イタリア語で110)は、会社としてのブガッティ(法人)創立110周年を記念した限定ハイパーカーです。
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ブガッティEB112とは?
そしてこのブガッティEB112についてですが、エットーレ・ブガッティの生誕112年にちなんだ名を持っており、EB110とは異なる客層の獲得を目指して「4ドアサルーン」ボディを持っています。
デザインはジョルジエット・ジウジアーロ、車体構造はカーボンファイバー製モノコック(セダンでこの構造は類を見ない)、ボディパネルはアルミとコンポジット素材。
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ボディ形状は往年のブガッティを想起させるもので、左右に分割されたスプリットウィンドウは「T57Sクーペ・アトランティック(アトランティーク)」をイメージしたものと思われます。
なお、アウトモビリ・ブガッティを設立したロマーノ・アルティオーリ氏は「自分の作りたいクルマよりも、そのブランドのヘリテージを重視する」人物で、たとえばロータスを所有していた時期に発売した「エリーゼ」については、軽量構造はもちろん、「Eではじまる」という伝統のネーミングを踏襲していますね。
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そしてこのブガッティEB112のフロントに収まるのは6リッターV12で、最高出力450ps、最大トルク479lb-ftを発揮し、このエンジンには6速マニュアルトランスミッション(当時のATはこのトルクに耐えることができなかったのかも)が組み合わされて四輪を駆動することになりますが、アウトモビリ・ブガッティは、EB112の0-62mph加速を4.3秒、最高速度を186mph(300km/h)と謳っています。
折悪しく販売機会を逃してしまう
このEB112については生産を前提に企画がなされ、実際に発売直前までプロジェクトが進んだと言われるものの、EB110の不振(発売がバブル後になってしまい、時期が悪かった)によってアウトモビリ・ブガッティ社の財政状態が悪化してしまい、資金繰りに困る形で1995年に経営破綻を喫しています。
よって、このEB112は公的には「発売されていない」クルマであり、存在するのはプロトタイプ2台とプリプロダクションモデル1台のみだと言われていて、プロトタイプのうち1台はジウジアーロが保管しており、今回二重に販売されたのは(ボディカラーから判断して)プリプロダクションモデルなのだと思われます。
ちなみにのちの「ブガッティ・オトモビル」も、ヴェイロンの発売後に、サルーンである「ガリビエール」の発売を計画していましたが(こちらも発売直前まで進んだようだ)、その発表が2009年つまりリーマンショック直後という間の悪さとなってしまったため、その発売が流れることに。
これは偶然としかいいようがないものの、「ブガッティのセダン(サルーン)は、発売しようとすると何かが起きてボツになる」ようですね。
参照:Turbollection, TheSupercarBlog