| 正直、ステランティスの戦略は「欧州寄り」であり「柔軟性を欠く」とも考えている |
北米市場においては「他社の後塵を拝する」「消費者不在の戦略」だと受け取られても仕方がないだろう
さて、BMWは業績見通しを下方修正しフォルクスワーゲンは史上初の本国工場の閉鎖を検討するなど、いまだかつてない激動の時代を迎えているのが昨今の自動車業界です。
そして今回報じられているのが「ステランティスのクルマを扱う全便ディーラー網が、その”壊滅的な”ブランドの崩壊の責任を追求すべく、同社CEOあてに公開書簡を送付した」との報道。
ステランティスはアルファロメオ、マセラティ、フィアット、プジョー、シトロエン、そしてジープやダッジを擁する巨大な企業ですが、この公開書簡ではステランティスCEO、カルロス・タバレス氏が「無謀な短期的な意思決定」による「大惨事」を引き起こしたと批判しています。
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いま、ステランティスで何が起きているのか
このほか、ステランティス全国ディーラー協議会(NDC)による公開書簡では「古い在庫を処分し、アメリカブランドの活性化を図るために、より多くの資金を(それらブランドの復活に)割り当てるよう」要求しており、上述の「誤った判断」にてジープ、ダッジ、ラム、クライスラーなどの象徴的なアメリカブランドの「急速な劣化」が進行し、それによって市場シェアは「ほぼ半分に減少」したと述べています。
さらにディーラー協議会のケビン・ファリッシュ会長は米国におけるステランティスの厳しい状況を強調し、「株価が暴落し、工場が閉鎖され、レイオフが横行し、主要幹部が会社を去っている」というコメントも記載していますが、この原因はすべて「カルロス・タバレス氏の判断」にあるとしています。※カルロス・タバレス氏は2023年に60億円もの報酬を受け取っている
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なお、ステランティスは欧州本社ということもあってか「欧州寄り」の判断を下すことが多く、それはつまり「電動化シフトの重視」。
フォルクスワーゲン同様にステランティスはラインアップの電動化を急ぐあまりガソリン車のラインアップを軽視しているように思われ、ガソリン車の開発を停止したり販売そのものを終了させているために「ラインアップが老朽化して売れない」「高額なEV以外に売るものがなく消費者が見向きもしない」状況が出来上がっています。
たとえば(これはアメリカ市場に導入されていませんが)安価で求めやすいフィアット500(ガソリン車)を倍の価格のフィアット500e(電気自動車、日本だと553万円)に一部の国で入れ替えるなど、「どう考えても消費者がそっぽを向くであろう」選択を行っているわけですね。※実際、フィアット500eはあまりに売れず、生産が一時停止となっている
Image:Fiat
そして北米においても(ガソリン版の)ダッジ・ラムやダッジ・チャージャー/チャレンジャーを「放置」し、結果的にライバルに比較して目新しさがなくなるばかりか、長年”アメリカンマッスルの販売においてトップだった”チャージャー / チャレンジャーの販売を終了させてマスタングにその座を奪われることに。
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やはり最後まで耐えるのは重要である。カマロ、チャレンジャーの生産が終了し「北米唯一の」アメリカンマッスルとなったマスタングの販売が1.5倍に
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「もしも」ダッジがガソリン車の販売を延長するという判断を下し、チャージャー / チャレンジャーの改良を行っていたならばこの結果はまた違うものとなっていたなずですが、さらにダッジは「価格がこれまでの1.5倍くらいの」電動版チャージャーを導入するという戦略に踏み切っており、これはともするとフィアット500eの二の舞いとなりかねません。
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ダッジが電動版チャージャー「デイトナ」の価格を発表、ガソリン版に比較して大幅に高くなり「オレたちのアメリカンマッスルではなく、セレブの乗り物になった・・・」との声
Dodge | ピュアエレクトリックモデルが高額になるのは現時点では「やむをえない」 | 問題は「その金額を支払ってでも欲しい」と思わせるかどうかである さて、ダッジがエレクトリックパワートレーンを採 ...
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一方、フォードそしてGMは「より消費者が購入しやすい選択肢」としてハイブリッドやPHEVのラインアップを充実させているのものの、ダッジ含むステランティスは「ハイブリッド、PHEVを無視し、ガソリンからピュアエレクトリックとの併売、もしくはピュアエレクトリックへと切り替える」という方針を採用していて、これはアルファロメオやマセラティでも同様です。
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こういった傾向を見る限りでは、全米ディーラー協会のいう「カルロス・タバレスCEOの”柔軟性に欠ける”失策」「アメリカ人が買いたがり、実際に買うことができる(価格の)クルマがない」という主張がよく理解でき、「うまくやっている」ライバルがいるだけに、ステランティスのディーラーとしては忸怩たる思いなのだと考えられます。
Image:Dodge
ステランティスはこの書簡に異議を唱える
なお、この書簡は9月10日付で送付されたものですが、ステランティスはこれに対し早々に反応しており、「この書簡に完全に異議を唱える」と反論。
実際に「2024年上半期の、明らかに期待外れの財務結果に対処するために取った措置」を詳述したほか、「8月の売上高が7月と比較して21%増加した」「市場シェアが0.7%上昇し、ディーラー在庫が過去2か月連続で約10%減少した」とコメントしています。
さらに(書簡にある)ディーラーの要望を無視している」という主張に対しては「毎月会って話をし、毎週電話し、最高職位レベルで対話を行っている」と反論し、カルロス・タバレスCEOに対する公開書簡での個人攻撃をについても「公の場で個人攻撃をすることが問題に対処する最善の方法だとは考えていない」とも。
加えて投資と新製品の要請について、ステランティスは(反論したのと)同日、別のプレスリリースを発表し、ミシガン州の3つの施設に4億600万ドルを投資することを明らかにしていますが、この投資によってスターリングハイツ組立工場でのラム1500 BEVおよびREVトラックの生産設備が更新され、ウォーレントラック組立工場では電動版ジープワゴニアの生産が増強されることに(やはりピュアエレクトリック版への投資割合が多く、ハイブリッドにはシフトしないようだ)。
さらにダンディー工場では、進行中のガソリンエンジン組立に加え、バッテリートレイの生産とビーム加工のために資金が割り当てられることも明かされています。
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