
| 意外と中国のお役所は真面目に仕事をしているようだ |
この記事のハイライト
- 「隠れたハンドル」への規制強化: 中国工業情報化部(MIIT)が事故やバッテリー火災などの緊急時に、電力供給が途絶えても「工具なしで、機械的に(物理的に)」ドアを開けられることを義務付ける国家基準案を公表
- 背景に相次ぐ悲劇: シャオミ(Xiaomi)の「SU7」をはじめとするEVの衝突炎上事故で、「ドアが開かずに救助が遅れた」という事態が頻発。これを受け、デザイン優先の「フラッシュハンドル(格納式)」に対する安全性の懸念が背景に
- 厳しい数値規定と視認性: 外部ハンドルには500ニュートン(約50kg)の強度と、指をかけられる明確なスペース(60mm×20mm×25mm以上)を要求。内部ハンドルには直感的に操作できるマークや説明の表示も求められる
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なぜ今、規制が必要なのか?「ハイテク」が「安全」を阻む現状
近年のEV(特に中国ブランドやテスラ)では、空力性能の向上と先進的なデザインのためにドアパネルと一体化する「フラッシュ(格納式)ドアハンドル」が主流となっています。
しかし、これが緊急時に牙を剥くケースが相次いでおり、特に2025年に発生したシャオミSU7の衝突事故では、炎上する車内から運転手が脱出できず、周囲の救助者もハンドルを操作できなかったことがSNSで大きな議論を呼び、今回の規制の決定打になったと言われています。
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- 課題: 衝突でバッテリーが破損し電力が失われると、電子制御のハンドルが飛び出さず、外から救助者がドアを開けることができない
- 衝撃のデータ: 調査によると、側面衝突テストにおいて、電子式ハンドルの作動成功率は67%にとどまったのに対し、機械式は98%という高い信頼性を示している
新基準案の主な内容:外部と内部で異なる要件
今回の基準案(『自動車ドアハンドル安全技術条件』)では、テールゲートを除くすべてのサイドドアに以下の要件を求めています。※これにより、完全にフラットで「予備の物理的引っかかり」がないハンドルデザインは、事実上の禁止、あるいは大幅な設計変更を余儀なくされる
| 項目 | 外部ドアハンドル | 内部ドアハンドル |
| 開閉方式 | 機械的(物理的)なリリースが必須 | 少なくとも1つは機械的に開くこと |
| 操作スペース | 60mm×20mm×25mm以上の隙間を確保 | 遮蔽物がなく、座席から視認できること |
| 強度規定 | 500N(約50kg)の力に耐えること | 200N(ボタン式等は別途規定) |
| 視認性/表示 | 不要 | 操作が直感的でない場合、6mm以上の図解や文字による指示が必須 |
これを見る限りだと、「内側」からも機械式オープナーを備える必要があるということになり、近年のクルマに多い「ボタンを押すと電動にてドアロックが解除される」構造もアウトということになりそうです。
ちなみに最近のフェラーリは「内側」だと中国の新しい規定に触れそうですが・・・。
「外側」はフラッシュ形状ではあるものの、これは電動ではなく「中に押し込むことで」機械的に開くことができるため「セーフ」なのだと思われます。※ただし隙間はないので当局がどうはんだんするのかはわからない
導入のタイムライン:いつから変わる?
この基準案は現在、2025年12月23日までパブリックコメント(公衆意見)を受け付けています。
- 新車(新規型式): 規制発効から13ヶ月後より適用
- 既存車(生産継続モデル): 規制発効から25ヶ月後より適用
つまり、2026年から2027年にかけて、中国市場で販売されるすべてのEV・ガソリン車において、現在のような「完全に隠れたハンドル」は姿を消し、「見た目はスマートだが、実は指を引っ掛けて物理的に開けられる」ハイブリッドな設計が標準になると予想され、「フラッシュマウントではあるものの、ドアハンドルの下に指を入れるスペースがある」構造が主流になってゆくのかもしれません。
結論:デザインの「先進性」から「信頼性」への回帰
中国のこの動きは、世界最大のEV市場における「共通ルール」となり、テスラやニオ(NIO)、そして日本のトヨタやホンダといったメーカーも、中国市場で販売を続ける限り、この安全基準に合わせた設計変更が必要です。
「ハイテクでかっこいい」ことよりも、「いざという時に確実に命を守れる」こと。
中国の決断は、行き過ぎたデジタル化にブレーキをかけ、自動車本来の「道具としての信頼性」を再定義するものと言え、ぼくら消費者にとっては好ましいものだとも捉える反面、自動車メーカーにとっては大きな負担となり、そして今後「中国が作ってゆくスタンダード」が増えるにつれ、各メーカーともそれに振り回されることとなりそうですね。
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参照:CarNewsChina
















