
| いままでの「自動車」という基準で語ることが難しい、現代に誕生したミュータントのような存在である |
そして今後、そのミュータントがどんどん市場を攻略してゆくのであろう
さて、BYD SEAL(シール)RWDへと試乗。
現在中国車は世界中の路上を埋め尽くす勢いにて増殖中ではありますが、そのため旅先で配車アプリを使用すると高い確率でやってくるのが中国車。
よって中国車に「乗る」機会そのものは少なくはなく、しかしぼくは自分では中国車を「運転」したことはなく、そこで今回、実際に購入対象となりうるのかどうか、そして中国車が売れ続ける理由とは何かを知るために「試乗せねば」と考えたわけですね。
なお、現在BYDは日本市場において3年連続のプラス成長を記録しており、直近(2026年上半期)の登録台数は前年同期比143%(2,334台)と急伸中。
新型PHEV「SEALION 6(シーライオン6)」が販売を牽引する一方、ブランドのフラッグシップセダンである「SEAL」は「テスラ・モデル3」や「欧州プレミアムDセグメント(BMW 3シリーズ/ベンツ Cクラス)」の対抗馬として高感度なガジェット好きや輸入車層から非常に高い関心を集め続けており、ここでいったいSEALとはどんなクルマなのか、そしてぼくがどう感じたのかについて記載してみたいと思います。

BYD SEALとは
SEALを語る上で外せない最大の特徴は「バッテリーメーカーとしての強みを極限まで活かした車体構造」と「欧州スポーツセダンを強く意識した高剛性シャシー」との融合です。
主要スペック・グレード比較
| 項目 | SEAL (RWD/後輪駆動) | SEAL AWD (四輪駆動) |
|---|---|---|
| 最高出力 | 312 ps (230 kW) | 529 ps (390 kW) ※前後合計 |
| 最大トルク | 360 N・m | 670 N・m ※前後合計 |
| 0-100km/h 加速 | 5.9秒 | 3.8秒 (スーパーカー級) |
| 一充電走行距離 (WLTC) | 640 km | 575 km |
| バッテリー容量 | 82.56 kWh | 82.56 kWh |
| 最小回転半径 | 5.7 m | 5.7 m |
1. ボディサイズとパッケージング
日本の道路環境ではやや大柄ですが、テスラ・モデル3やBMW 3シリーズと真っ向からぶつかる「Dセグメント・スポーツセダン」の王道サイズ。
- 全長:4,800 mm
- 全幅:1,875 mm
- 全高:1,460 mm
- ホイールベース:2,920 mm
- 車両重量:2,100 kg(RWD) / 2,210 kg(AWD)
ロングホイールベース(2,920mm)により後席の足元空間は同クラスのガソリン車セダンを圧倒する広さが確保されていますが、流線型の「オーシャン・エステティック」デザインを採用し、空気抵抗係数(Cd値)は0.219という世界トップクラスの空力性能を誇ります。

走りを支える2つのコアテクノロジー
SEALの乗り心地の良さと高い運動性能は以下のBYD独自技術によって実現しており・・・。
① CTB(Cell to Body)テクノロジー
従来のEVのように「バッテリーパック」を床下に載せるのではなく、バッテリー自体を車体の構造物(シャシーの一部)として完全に一体化させる世界初の技術です。
- メリット:車体のねじり剛性がスポーツカー並みの「40,000 N·m/deg」まで向上。さらにバッテリーパックのトップカバーがそのまま車内のフロアパネルを兼ねるために車内の床面を低く抑え、セダンらしい低いドライビングポジションと広いヘッドクリアランスを両立可能
② ブレードバッテリー(LFP)
BYDのお家芸であるリン酸鉄リチウムイオン(LFP)バッテリーを、刀(ブレード)のように薄く細長い形状にして敷き詰めています。
- メリット:一般的な三元系(NMC)バッテリーに比べて熱安定性が極めて高く、釘刺しテストでも発火しない圧倒的な安全性を誇っており、また、充放電の繰り返しによる劣化に強く、寿命が長いことも大きな特徴で、容量は両グレード共通で82.56 kWhを搭載。

3. インテリアと先進装備
車内に乗り込むとテスラのミニマリズムとは一線を画す「プレミアム感とガジェット感の融合」が目を引くことになり・・・。
- 15.6インチ回転式ディスプレイ:ボタン1つで画面が「縦」にも「横」にもウィーンと回転する、BYD最大の特徴とも言えるナビ画面。
- 標準装備の豪華さ(オプション不要のフルパッケージ):
- 本革(ナッパレザー)スポーツシート
- 前席シートヒーター & シートベンチレーション(クーラー)
- 大型パノラミックガラスルーフ(紫外線・赤外線カット機能付き)
- Dynaudio製12スピーカープレミアムサウンドシステム
- ヘッドアップディスプレイ(HUD)
6. 充電性能とV2X(給電機能)
- 急速充電(CHAdeMO):最大105kWに対応。高出力な急速充電器を使えば約30分で30%から80%まで補給可能
- V2L(Vehicle to Load) / V2H(Vehicle to Home):災害時やアウトドアに役立つ外部給電機能を標準装備。車内のコンセントから家電を動かせるほか、自宅へ電力を供給するV2Hにも完全対応

実際にBYD SEALを運転した印象は
そこで実際にBYD SEALに乗ってみた印象ですが、内外装の質感は「まずまず」。
「中国製」ということでイメージ的に不利な部分があるかもしれませんが、「495万円」という価格のクルマとしてはまったく問題はなく、パノラミックガラスルーフ、本革ナッパレザーシート、ベンチレーション(シートヒーター/クーラー)などが「オプション追加なし」で最初から全部入りである点を考えるならばむしろ「価格の割に素晴らしい質感を持つ」クルマであると評価してよいかと思います。
なお、エクステリアでは「BYDらしさを主張する」ヘッドライトにデイタイムランニングランプが印象的で・・・。

インテリアだと「テクノロジー」「高級感」を押し出した装備とデザイン。

ドライブフィールはちょっと特殊
そして実際に運転してみた印象ですが、「日本車とも欧州車とも異なる特殊な乗り心地」。
まず「ガソリン車から乗り換えても違和感が無いよう」回生ブレーキの効きがゆるく設定されており、かつ加速についても数値から感じるよりは「おだやか」で、これもやはりガソリン車ライクな設定を行っているためだと思われます。
その一方で車内の静かさは特筆すべきレベルにあり、NVH(ノイズ、バイブレーション、ハーシュネス)が極度に抑え込まれることによって「ガソリン車には到達できない」快適性を実現しているわけですね。

つまり「EVらしくない」「EVらしい」という両方の側面を持つクルマであり、ここは「全力でEVらしさ」を表現するテスラとは全く異なる部分です。
そしてこの快適性に大きく貢献するのが「シート」そして「サスペンション」で、これらについてはクラスを超えた出来栄えを持っていると考えてよく、しかし日米欧いずれのクルマとも異なるキャラクターを持つもよう。
なお、中国のユーザーは日米欧とは異なって「自分でクルマを運転したくない」「楽に、そして快適に移動したい」「移動中はくつろぎたい」「ラウンジにいるような気分を味わいたい」という意向を強く持っており、つまり自動車に対して「自動車であること」を求めておらず、あくまでも「移動するプライベートルーム」を求めるという側面も。※よって操作系についてもほか市場とは異なって物理スイッチを好まず、タッチ式操作を好む傾向にある
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そしてこの傾向が「巨大なパノラマガラス」「大きなインフォテイメントシステム」「ゼログラビティシート」といった装備に繋がってくるわけですが、そのほかにも「外界と隔絶された空間」を作り出すことにも注力しているように思われ、これらが密接に、かつ相互に関係し採用することで「運転感覚を希薄に」しているようにも思えます。
簡単に言えばBYD SEALの運転感覚は「ゲームの画面を通じてクルマを操作している」ような印象で、シートに座っている感覚、ロードインフォーメーション、ステアリングホイールを切ったときの応答性、アクセルペダルやクラッチペダルの反応などすべてが「非現実的」。
これは日本だとあまり好まれない感覚かもしれませんが(ただ、10年後にはこれが標準になっているのかもしれない)、おそらく中国では非常に歓迎されるフィーリングだとも考えていて、こういったところが「非常に特殊」だと感じたわけですね。
参考までに、もっとも特殊だったのはステアリングホイールの操作感で、文字通り「ハンコンを操作している」ような印象を受け、センターを把握しづらく、ハンドルを切った後の「戻り」に違和感を感じたことについては記載しておきたいと思います。

BYD SEALは「買い」か
そこでこのSEALが買いかどうかということですが、結論から言うと「現段階では購入検討の候補には入らず」。
その大きな理由は「価格(495万円)」であり、たしかに装備を考慮すると魅力的ではあるものの、BYD SEALの購入時に受け取ることができる補助金は現在(2026年度・令和8年度の新車登録)の制度だと国からは一律「15万円」にとどまっていて、以前は最大45万円が交付されていたものの、経済産業省によるCEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)の評価基準が見直されたことにより、2026年4月1日以降の登録車両から一律で15万円に減額されています。
一方、テスラ・モデルY RWD(5,587,000円)だと85万円の補助金が支給されるため、補助金込みの購入金額だとテスラ・モデルYのほうが「安くなる」という逆転現象が生じてしまうわけですね。
こういった状況を考慮すると、SEALは「買ってから売るときまでのことを考えると」失うお金が非常に大きい(BYDのリセールは総じて強くない)可能性が高く、しかし試乗した限りだと「失うお金を正当化できるだけ」の所有する満足感を見いだせなかったのもまた事実。

さらに付け加えるならば、日本仕様のSEALは「本国仕様のSEALに比較すると」本領を発揮しているとはいいがたく、そしてそのいくつかは日本の「法規によって宝の持ち腐れとなっているようで、真の性能を発揮できていない状態であるとも考えられます。
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ただ、BYDにおける進化の速度は非常に速く、法規制に対してもなんらかの働きかけを行っている可能性も考えられ(ウインカーレバーをコラム右側に装備するなど、日本市場に対して真剣に取り組んでいる)、よってそう遠くない将来には「さらに優れた性能を持ち、本国同様のポテンシャルを発揮できる」SEALが(充電設備とともに)日本へと導入されることになるのかもしれません。

それにしても今回のBYD SEALは非常に評価と判断が難しいクルマでもあり、しかしこれからはこういったクルマが増えることになるとも予想していて、よってぼくら自信も「自動車」に対する考え方、そしてモノサシを随時アップデートしてゆく必要があると感じたのが今回の試乗です。
なお、現在は日米欧の自動車メーカーが中国内で存在感を失い続ける状況が続いていて、それは「中国市場の嗜好に対応するのが遅れたから」にほかなりませんが、その「贈れた」理由につき、中国人がクルマに求めるものを「軽んじた」こと、そして中国ならではの嗜好を織り込んだ中国車を(日米欧の自動車メーカーが)理解できなかったことがあるのかもしれず、しかし現在では世界中の自動車メーカーが「中国市場の好みに合わせて」クルマを設計するという時代です。
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そう考えるならば、ぼくらも中国車を「理解できないから」と排除するのではなく、理解するように務める必要があるのだとも考えられ、それこそが人間の「成長」というものなのかもしれません。
完全に余談ではありますが、古代エジプトでは「ハイエナ」が家畜を襲ったりすることで非常に困っていたといい、しかしエジプト人はハイエナを「排除する」のではなく、むしろ「受け入れて」崇拝の対象とすることでハイエナとの関係を良好なものにしようとしたといい(それが有名なアヌビス神である)、こういった「排除するのではなく受け入れる」こともぼくらは歴史から学ぶ必要がありそうですね。
とにかく、そのクルマそのものよりも、「クルマ以外」のことを多く考えさせられることとなり、その意味でも非常に参考になったとも考えています。

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