| ロードカーで”ファン”を採用するのはおそらく世界で最初 |
マクラーレンF1の設計者、イアン・ゴードン・マレー氏の立ち上げた「ゴードン・マレー・オートモーティブ」。
以前より「誰もマクラーレンF1の後継を作ることができない。だから自分が作る」と発言していましたが、チョコチョコと情報を小出しにしていたスーパーカー(ハイパーカー)、”T50”の姿、そして機能がついに公開に。
今回、ゴードン・マレー氏はT50の情報公開に際し、「市販車史上、もっともすぐれた、そして効果的なエアロダイナミクスを持つ」と述べています。
マクラーレンF1設計者、ゴードン・マレーが「自分以外のだれもF1のようなクルマを作れない。だから自分で後継モデルを作る」。V12、MTで1000キロ以下
マクラーレンF1設計者の送り出すF1後継”T.50”。3.9L/V12搭載にて700馬力、重量980kg。「いかなるスーパーカーであっても手が届かない」領域に
マクラーレンF1はこんなクルマ
マクラーレンF1は「マクラーレン初の」ロードカーで生産は1993-1998年。
ゴードン・マレー氏はホンダNSXをベンチマークとしてF1を開発した、とされています。
NSXの何がベンチマークであったかというと「その扱いやすさ」だとされ、ゴードン・マレー氏は実際にF1の出来には満足しており、「F1が10点ならばNSXは7点」とも語っていますね(なおポルシェ959やフェラーリF40は3点、とも評している)。
車体サイズは全長4,287ミリ、全幅1,820ミリ、前高1,140ミリとなっており、マクラーレン720Sや570Sと比べて「一回り」小さい数字となっています。
なお重量は1140キロとかなり軽量(カーボンモノコックシャシー採用)。
そのこだわりようはハンパなく、ロールセンター適正化、左右の重量を均等にするため「センターシートレイアウト」を採用し、さらにエンジンルーム内張りは「放熱性に優れるから」という理由だけで「金張り」に。
そして手荷物であっても前後オーバーハングにモノを載せることは許されず、したがってトランクスペースはホイールベースの間に。
軽量性を追求したために車載工具も「チタン製」なのも有名ですね。
さらに驚くべきは維持費用で、些細なことでも整備の際には本社に送ったり、タイヤ交換を行った後はマクラーレンの指定するドライバーを雇ってサーキットを借り切って走行し足回りの再調整を行う必要がある(そのため、タイヤ交換には570万円かかる)という常軌を逸したクルマ。
ゴードン・マレー氏は「鬼才」と称されることもありますが、それは常人ではとても思いつかないようなことを考えたり、考えついたとしても普通はやらないことを実際にやってしまうため。
車体設計者としてはエイドリアン・ニューウェイとならび、自動車史に残る人物だと認識しています。
なお、現代のマクラーレンが、この「F1」の後継を意識した”スピードテール”を発表済み。
これはF1同様のセンターシートレイアウトを持ち、F1が1998年に非公式ながら記録した「391km/h」を超える速度を持つハイパーカーですね。
IGM T.50はこんなクルマ
そして今回の「イアン・ゴードン・マレー(IGM)T50」ですが、今回公開された外観の画像はリアのみ。
そしてリアにはファン=扇風機が取り付けられていることがわかります。
加えて、マクラーレンF1同様のサイドウインドウ、ルーフからリアにかけてのキール(背骨)も見て取れます。
こちらがマクラーレンF1。
雰囲気的にけっこう近いということがわかり、F1オーナーはこの時点で「いてもたってもいられない」のかも。
なお、このファンの直径は40センチで、かつてゴードン・マレー氏が設計したF1マシン、BT46Bにも装着されていたものと同様の役割を果たします。
フロア下のエアを吸い出して車体を地面に貼り付けるというグラウンドエフェクトを狙ったデバイスで、一見「バカげている」ように思えますが、その効果はまさに絶大。
ちなみに、ブラバムBT46Bデビュー時には、ほかチームに真似されないよう、そしてその機能を知られないよう、出走するまで車体後部はしっかり隠されていたといい、昔のF1はこういった「ほかチームを出し抜く」ための戦いが(コース上以外で)見られたのが面白かったと思います。
構造としてはこんな感じ。
上から下から吸い込んだエアを排出する構造を持つことがわかります。
今後、T50は(アストンマーティン買収が報じられた)レーシング・ポイントの風洞実験設備を使用してテストを開発を進めるとのことですが、「ハイダウンフォースモード」ではファンと可変エアロとの働きにて30%ダウンフォースを増加させ、「ストリームラインモード」では10%ドラッグを低減させて最高速を伸ばすとされています(さらには極限まで最高速を伸ばすV-Maxモードも備わる予定)。
パワートレインはコスワース製の3.9L/V12エンジン(レブリミットは12,100RPM)と48ボルトISG(マイルドハイブリッド)搭載にて700馬力、トランスミッションは6速マニュアル、駆動輪は後輪のみ、車体重量は980kg。
シートレイアウトはもちろんドライバーがセンターに座り、両脇にパッセンジャーが座る「3人乗り」。
エアロパッケージのテストを開始するのは来年早々で、その後5月に車体全容が公開され、さらその後から実走テストに入り、2022年1月から納車開始というスケジュールだそう。
ファンカーとはなんぞ?
ブラバムBT46B(F1マシン)に採用された「ファン」について、これは上でも触れたとおり車体下部のエアを吸い出し排出することでダウンフォースを増強させるというびっくりどっきりメカで、その効果は1978年のスウェーデンGPでも実証済み(デビューウィンを飾り、その威力からほかチームの抗議にあって即刻廃止になったほど)。
もちろんこの「ファン」はゴードン・マレー氏の考案によるものですが、ゴードン・マレー氏の凄さはこういった「着眼点」、そして「パッケージング」にあると認識していて、これらは技術でカバーできるものではない(だからこそ、だれもマクラーレンF1のようなクルマをつくれない)のでしょうね。
ちなみに、 フェラーリ599XXは車体後部に二基のファンを持ちテールから排出する「アクティフロー」 なるデバイスを持ち、アリエルも「Aero-Pコンセプト」にて同様のファンを装備。
Aero-Pコンセプトの場合は「ウイングに比べて3倍のダウンフォースを獲得できる」とも発表しています。
ただ、実際にこのクルマが目の前を走っていると、路上のゴミなどを全部拾ってこちらに排出するということになるので、後続車からすると「迷惑極まりない」クルマなのかもしれません。