| 石油採掘のノウハウはそのままリチウム採掘にも活かせるらしい |
現在、EVそしてバッテリーを巡る環境は目まぐるしく変わっている
さて、自動車産業においては現在のところ想定よりも速く電動化が進んでいるという状況ですが、そこで気になるのが「オイルメーカー」。
いわゆる石油メジャーと言い換えることもでき、シェルやBP、シェブロン、トタル、エクソンモービルなどの会社を指していますが、自動車がガソリンを使用しなくなったり、トランスミッションが不要になってエンジン/トランスミッションオイルが要らなくなったらどうするんだろうな、と考えたりするわけですね。
もちろん石油メジャーの収益源は自動車用の燃料や油脂類だけではなく、繊維や樹脂などの化学製品もあり、燃料についても航空機や船舶等では継続して石化燃料が使用されるであろうことから「致命的」な打撃を受けるわけではないだろう、ということも理解しています。
意外なことだが石油産業はEV産業と「遠くはない」
そして今回報じられたのが「EVに欠かせないバッテリー生産において、将来的には石油メジャーがその材料を提供することになるだろう」というニュース。
現在は(おそらく)まったく関係が無いように見えるこの二者が”どうやって結びつくのか”疑問に感じると思いますが(ぼくも疑問に思う)、電気自動車の台頭は石油会社にとって存亡の危機ではなく、むしろ化石燃料コングロマリットにとっては、長期的には利益になるかもしれないのだそう。
シェブロン社のマイク・ワースCEOによると、地球からリチウムを抽出するプロセスは、石油やガスを抽出することから遠く離れておらず、同社の「コア能力(つまり採掘能力)」は、EVのバッテリー製造に不可欠な元素を掘り出すことに転用できる可能性がある、とのこと。
これによってシェブロンは将来的に成長するEV産業に加わることができるようになり、そして興味深いことにほぼ時を同じくしてエクソンモービル社のダレン・ウッズCEOもこの計画について言及していて、実際にリチウム生産を模索していることも触れています。
ただし石油会社によって考え方は様々
しかしその一方、ヨーロッパの石油会社はリチウム採掘と精製についてはまったく検討しておらず、その代わり、風力発電や太陽光発電のようなクリーン、しかし過渡的なエネルギー源に焦点を当てているのは面白く、このあたりはそれぞれの会社の「成り立ち」が影響しているのかもしれません(欧州の石油会社は商社的な背景を持つものの、アメリカの石油会社は自ら石油を掘ってきた歴史を持つとおおまかに解釈している)。
そしてシェブロンに話を戻すと、同社は以前、「風力発電や太陽光発電プロジェクトは利益をもたらさない」と明言しており、その理由は「これらのプロジェクトは投資収益が低く、競争が激しすぎるから」。
よってシェブロンはリチウム採掘に活路を見出しているということになりますが、その一方ではリチウムに代わる可能性のある物質がいくつか現れ始めており、例えば日本の科学者チームは「マグネシウム(Mg)をベースにした化合物がリチウムよりもエネルギー密度が高い可能性がある」という論文も発表済みです。
参考までに、現在のところリチウムイオンバッテリーの製造に関し、中国に大きく依存していることが問題となっており、これが原因で中国のEVメーカーに圧倒的な優位性を(日米欧の自動車メーカーが)許してしまっていて、しかし中国以外でのリチウム採掘・精製が進んだり、バッテリーにおける「脱リチウム」が進むとなると、より健全な競争がもたらされることになるのかもしれません(米国政府は中国製リチウムイオン電池への依存につき、重大な懸念を示している)。
石油会社は代替燃料(Eフューエル)に興味を示さない
なお、いつもぼくが不思議に思うのが「なぜ石油会社は代替燃料(Eフューエル)に興味を示さないのか」。
代替燃料については「ガソリンと同じように、既存の車両に使用できる」ということから大きな注目を浴びており、現在ポルシェやランボルギーニがこれに取り組んでいることが知られています。
-
ポルシェが合成燃料について語る。「環境を改善するには、新車をクリーンにするよりも既存のクルマをクリーンにする必要があります」。加えて精製プロセスも紹介
| ただしポルシェのみの取り組みでは限界があり、賛同する企業、そして国家単位の支援が必要である | ポルシェの合成燃料の工場の名は「ハルオニ=風の国」 さて、現在ポルシェはEフューエル(合成燃料)の生 ...
続きを見る
ただ、代替燃料についても課題は多く、その製造コストの高さ、そして流通網の整備が挙げられており、自動車メーカーレベルの生産量ではコストを下げることが可能な規模に至るまでの生産量を確保できず、そして製造した燃料を輸送し流通させる手段を持たないことが指摘されているわけですね。
その一方、石油会社であれば既存工場を代替燃料製造用に転用したり、既存の流通網を活用して燃料を輸送することが出来るので、現在ポルシェの抱える問題を解決できる可能性も。
それでも「石油会社は代替燃料にあまり興味を示していない」のが現実であり、その理由は明かされてはいないものの、太陽光や風力発電同様に投資効率が低く、ビジネスとして採算には乗りにくいという判断なのかもしれません。※いくつか、自動車メーカーと共同にて代替燃料を研究しているという事例はある
-
環境団体「ポルシェの進める合成燃料は、ポルシェ乗りのためのニッチな解決策にしかすぎません。リッター390円、しかも汚染性が高く、脱炭素化を遅らせる」
| 正直なところ、ボクは様々なハードルによって合成燃料は普及しないだろうと考えている | 合成燃料はどうやってもコストが下がらず、さらにガソリン並みの課税がなされると「とうてい通常の使用ができない」価 ...
続きを見る
あわせて読みたい、関連投稿
-
トヨタとエクソンが「CO2排出を75%低減できる」低炭素燃料の開発に成功!既存ガソリン車にも使用でき温室ガス削減に期待がかかるも「政府の協力なしには普及しない」
| そしてトヨタはあくまでも「純電動化」以外の道を模索し続ける | トヨタが環境のことを真剣に考えているということは理解できるが さて、トヨタとエクソンとが「ガソリンエンジン用の低炭素燃料を試験的に使 ...
続きを見る
-
EUがついに「合成燃料(Eフューエル)の使用を前提に内燃機関搭載車の継続販売を認める」ことに合意!代替燃料専用の車両カテゴリーを新設し、2035年もエンジンが存続可能に
| ただし使用できるのは代替燃料のみ、ガソリンを使用する新車は2035年以降の販売はできない | 年間1,000台以下の規模にとどまる自動車メーカーはガソリン車を継続販売可能、そして販売済みのクルマは ...
続きを見る
-
メルセデス・ベンツ「合成燃料の未来は我々には全く見えない。ピュアエレクトリックカーそのものが我々の未来であり、他の選択肢はない」
| そのブランドの得意分野やポジションによって「内燃機関継続」かどうかの判断は完全に分かれるだろう | いまだかつて、これほどまでに判断が難しい局面は自動車業界に存在しなかった さて、少し前に、EUが ...
続きを見る
参照:Automotive News