
Image:Porsche
| 現在、ポルシェはもっとも空力を重視する自動車メーカーのひとつである |
かつてポルシェは911をして「後ろ向きに走ったほうが速い」とまで”カエル顔”の空気抵抗を揶揄されたものですが、実は1960年代後半にはミニチュアモデルを使用した実験を行い空力性能を向上させていたことが明らかに。
【この記事のポイント】
- 空力開発の救世主: 1960年代からポルシェはミニチュア模型を使い、莫大な時間とコストを節約しながら空力を最適化してきた
- 伝説の「モビー・ディック」: 1/5スケールの模型による実験が、ル・マンでの時速366kmという驚異的な記録を支えた
- 進化する技術: 現在は物理モデルに加え、時速300kmをシミュレートする最新風洞やコンピュータ解析(CFD)が融合している
なぜポルシェは「小さな模型」に情熱を注ぐのか?
ポルシェファンでなくとも、ポルシェの滑らかな曲線に目を奪われたことがある人は少なくないかもしれません。
そしてその美しさは単なるデザイン上のものだけではなく、「空気の壁」と戦い続けたエンジニアたちの執念の結晶です。
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ポルシェは1960年代後半から、実車の開発に先駆けてミニチュア模型を風洞(巨大な扇風機のような実験施設)に入れる手法を採用してきたことが知られていますが、「なぜわざわざ模型を作るのか」という問いに対し、結論から言えば「早い段階で正解を見つけ、時間とコストを劇的に削減するため」 。
ドライバーの座る位置やエンジンの配置が決まれば、わずか数週間で(実車に先駆けて)模型を作り、目に見えない空気の流れを可視化できるというわけですね 。
伝説の「935/78 モビー・ディック」を解剖する
空力開発の重要性を世界に知らしめたのが伝説のレーシングカー「ポルシェ 935/78」、通称「モビー・ディック」。
このマシンの開発では、グラスファイバー製の特別な模型が作られたのだと説明されています 。
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1/5スケール模型のスペック
| 項目 | 詳細 |
| 素材 | グラスファイバー |
| 重量 | 約6kg |
| 全長 | 96cm |
| 全幅 | 38cm |
| 全高 | 24cm |
当時ポルシェは自前の風洞を持っていなかったため、シュトゥットガルト大学の風洞を借りてテストを行っていたといい、この1/5というサイズは、当時の風洞の大きさに合わせた最適な比率だったのだそう 。
風洞実験の舞台裏:時速200kmの風と「精密な秤」
実験では、模型に時速180kmから200kmの猛烈な風を吹き付けることが可能であり、模型のホイールの下には特殊な「風洞秤(ふうどうばかり)」が設置され、これによって空気によって車体がどれだけ浮き上がろうとするか(揚力係数:Cl)、あるいはどれだけ空気抵抗を受けるか(ドラッグ係数:Cd)を垂直・水平の両方向から精密に計測することが可能となります。
この緻密な計算の結果、実車のモビー・ディックはル・マン24時間レースのミュルサンヌ・ストレートにて時速366kmという圧倒的なトップスピードを記録することに成功し、まさにこれは「ミニチュアが伝説を創った瞬間」です。
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2026年現在の空力開発:リアルとデジタルの融合
技術の進化とともに模型のサイズも変化を続け、1980年代半ばからはヴァイザッハの自社施設で1/4スケールを使用しており、現在では1/1の実物大モデルでのテストを実施中 。
特に2015年に導入された「エアロアコースティック風洞」は、床面がベルトコンベアのように動き、タイヤの回転や床下の空気の流れまで時速300kmの状況を再現できる世界最高峰の施設だとされ、現在ではこれに加えてコンピュータ上でのシミュレーション(CFD)が併用されていますが、それでも物理的な模型を使ったテストは今なおポルシェの「真実」を裏付ける重要なプロセスであり続けているのだそう。
結論:空力は「燃費」と「EV航続距離」の鍵
ポルシェがレースで磨き上げた空力技術はサーキットのみにとどまらず、ぼくらが公道で乗る市販車にも直結しています。
現在、自動車業界はEV(電気自動車)へのシフトが進んでいますが、空気抵抗をいかに減らすことができるかはバッテリーの持ち(航続距離)に直結する死活問題。
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そして「あの時」ミニチュアモデルを用いて一生懸命Cd値を削っていたエンジニアたちの努力が今の”エコで速い”スポーツカーを支えていると言っても過言ではないのかも。
次にポルシェを見かけたとき、その美しいラインの裏側に「時速200kmの風に耐えた小さな模型」があったことを思い出してみると、もっとポルシェに対して親しみが湧くかもしれませんね。
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