| ソリッドステートバッテリーは実用化できない、もしくは実用化しても普及しない可能性が大きく、代替技術のほうが有用だと考えられる |
加えてこれまでの流れとは異なり、今後ガソリンエンジンが生き残る可能性も否定できない
さて、EVの「救世主」と見られているのがソリッドステートバッテリー(全固体電池)。
現在各自動車メーカー、そしてバッテリーメーカーが全力を挙げての研究を行っていますが、いくつかの自動車メーカーは実用化を断念し「撤退」、そして複数のバッテリーメーカーも実現の困難さについて触れています。
直近だとCATL(Contemporary Amperex Technology Company Limited)の創設者兼最高経営責任者(CEO)、ロビン・ゼン博士が「全固体電池は安全ではなく、誰もが望んでいる万能の解決策ではない」という談話を発表していて、同社はソリッドステートバッテリーの開発を日夜続けており、しかし実現に至っていないという事実があるだけに、この話には「実に重みがある」と言って良いかと思います。
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ソリッドステートバッテリーとは何なのか
そこでまずソリッドステートバッテリーについて説明してみると、まず現代のクルマ、形態電話、タブレット、ラップトップなどのほとんどの電子機器はリチウムイオン電池を使用していますが、このバッテリーにはイオンが流れる液体電解質が入っており、このイオンは充電中は一方向に流れ、放電中はもう一方の方向に流れます。
全固体電池に関する一般的な考え方は、この液体を固体に置き換えることで、これは最も基本的かつ簡素な説明であり、言葉にすると「非常に簡単」であるように思えます。
全固体電池は技術的に、採掘の際に大量のCO2を発生するリチウムに依存する必要がないものの、この「代替素材」については現在各社とも研究中となっていて、 「硫化物やセラミック、あるいは炭素、チタン酸塩、リン酸塩、金属リチウム」などが有望視されているものの、主流は金属リチウムがアノードに使用され、酸化物または硫化物のいずれかがカソードに使用される、といった構成です。
全固体電池の歴史に触れてみると、1830年代に初めてマイケル・ファラデーが固体電解質を発見しながらも実現には至らず、1986年に金堀圭一薄膜全固体電池を作成したものの、時計より大きなものに電力を供給することができなかったためこのアイデアは棚上げされることに。
その後2017年にジョン・グッドイナフ(リチウムイオン電池の父とも呼ばれる)がおそらく世界初と思われる実用的な全固体電池を発表し、彼は人生のほとんどを電池の研究に捧げることになりますが、2023年に100歳で亡くなっています。
そして2017年の全固体電池発表以降、このテクノロジーを専門とする企業が複数設立され、一部の例を挙げるとソリッドパワー、クアンタムスケープ、マラタ・マニュファクチャリング等がそれに該当します。
ソリッドステートバッテリー(全固体電池)の長所とは
そこでこのソリッドステートバッテリー(全固体電池)の長所について触れてみたいと思いますが、その前提として「全固体電池のすべての利点が科学的に証明されているわけではなく、一部はまだ理論段階にあること」には要注意。
まず、クアンタムスケープの実験によれば「ソリッドステート バッテリー パックは、1,000 回の充電サイクル後に容量の5%しか減少しない」。※現在のリチウムイオンバッテリーの許容基準は、700回の充電サイクル後での20%の損失
そしてサイエンスダイレクトによると、現在のリチウムイオンバッテリーはエネルギー密度の点でピークに達しており、これは1kgあたり350Whが上限だとされていますが、全固体電池だと最大500Whを供給でき、つまりリチウムイオンバッテリーと同じ重量のソリッドステートバッテリーを使用した場合、その航続距離は30%伸びる、ということになりますね。
ただし現実的には「リチウムイオンバッテリーと同じ重量のソリッドステートバッテリーを積む」よりも、「リチウムイオンバッテリーと同じ航続距離を実現できるだけのソリッドステートバッテリーを積む」ほうが現実的で、そのほうが車体重量を軽く収めることができ、これによって様々なメリットが生じるから。
さらに全固体電池には充電面でのメリットもあり、現在のリチウムイオンバッテリーが(10年以上の進歩を経ても)平均充電時間が依然としておよそ20~40分にとどまるのに対し、全固体電池では(同じ要領だと)10分以内に充電を完了することが可能だとされています。
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加えて全固体電池は電気自動車の(バッテリー生産から廃棄に至るまで全工程における)二酸化炭素排出量を39%削減できる可能性が指摘され、これはバッテリー密度に起因して「バッテリーサイズが小さくて済むため」、そこに使用する素材を採掘する際に排出するCO2もそのまま縮小されるから(もちろん、バッテリーの性質に関連し仕様する一部の素材、たとえば黒鉛やコバルトが減少する)。
なお、(リチウムイオンバッテリーに使用される)液体電解質は可燃性であり、熱暴走の主な原因となりますが、固体状態ではこれらの電解質は可燃性ではなく高温に耐えることができ、よって「燃える」可能性も必然的に小さくなります。
ソリッドステートバッテリー(全固体電池)の短所とは
上記のような長所を見ると、文字通り「夢のような」バッテリーであり、EVの救世主としてもてはやされることに納得ではありますが、実用化も普及もしていないことには理由があり、その原因となる「短所」を見てみましょう。
ソリッドステートバッテリーの開発が遅延している主な理由の 1 つは、「電気二重層」(EDL) と呼ばれる現象で、これは「ある種類の粒子が別の物質中に微視的に分散したもの」。
正極と固体電解質の間には電気抵抗があり、空気にさらされると電気抵抗がさらに悪化しますが、これがバッテリー全体に様々な問題を発生させると言われています。
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そして次は「コストが高い」ということで、導入(ができたとして)初期のコストが非常に高くなると想定でき、実用化されて10年以上も経過するEVのコストが(リチウムイオンバッテリー価格の高さに起因して)未だにガソリン車同等とならないことからも「ソリッドステートバッテリーのコストは当面下がらない」であろうことがわかります。
なお、従来のリチウムイオンバッテリーは寒い気候では最適に動作しませんが、全固体電池ではさらに複雑さが加わり、自動車メーカーは現在、バッテリーパックを最適な動作温度に保つために熱管理システムを使用しているものの、これらと同じシステムを固体電池システムで使用することは不可能なのだそう。
これは、樹状突起の形成を防ぐためにコンポーネントを巨大な圧力下で保管する必要があるためで、その必要圧力は250MPa以上だとされ、これを一般的な例に換算すると「胸の上に2億5,000万枚の紙幣を重ねた状態」となり、つまりは実現できそうにない圧力だということですね。
仮に加圧するとなると、給電すると電池が膨張するという性質上、充電時には大きな危険が伴い、さらには下で述べる樹状突起のために”圧力の問題”を回避できないのが現状だと言われます。
そのほか、固体リチウムは樹枝状結晶を成長させる傾向があり、これは不均一な成長であらゆる方向に向かう可能性が見られ、バッテリーの他の部分に穴を開けるほど鋭いものだとされますが、これが安全性に「深刻な影響を及ぼす」ことも指摘されている、とのこと。
加えて、事故によりバッテリーに穴が開くと、内容物が酸素と反応して人体に有毒な水酸化リチウムが生成されることも問題であり、このガスが発生すると救助隊員も車両に近づくことができないため、乗員の健康に深刻なダメージを与える可能性が高まります。
結果的にソリッドステートバッテリー(全固体電池)は有用なのか
ざっとソリッドステートバッテリー(全固体電池)のメリットとデメリットを挙げましたが、そのメリットの多くは「理論上のもの」にとどまっていて、つまり実際にクルマに積んで得られた結論でないのには注意を要するところであり、一方でデメリットは車両に積む以前から顕在化しているものなので、現時点ではここに投資することはかなりリスクが高いと言わざるを得ないといった状況です。
加えて、現在のリチウムイオンバッテリーのエネルギー密度が上限に達しているといえど、様々な(バッテリーや車両の)制御技術によって航続距離を伸ばす方法が発見されつつあり、今からさらにリチウムイオンバッテリーの性能を引き出すことができる可能性も(テスラ・モデルSの初期の航続距離は427kmだったが、今では634kmである。もちろんここにはバッテリーの進化も含まれるが、それ以外の進化も含まれている)。
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さらには今後「(ガソリンエンジン禁止を撤回し)ガソリンエンジンを許容する」という判断を行う国や地域もでてくる可能性も想定でき、ソリッドステートバッテリーに対して価値を見出す消費者がそもそも「(実用化してみたものの)それほどいなかった:ということになるのかもしれません。
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参照:CARBUZZ