| アルピーヌA110が優れたクルマであることは十分理解しているが |
あの伝説のクルマ「マクラーレンF1」のデザイナー、そして現在その後継とも言える「IGM T.50」を開発中のゴードン・マレー氏。
これまでにも数々のレーシングカーを製作し、実績を出してきた人物ですが、今回新型ハイパーカー、T50のベンチマークが「アルピーヌA110」であるという衝撃の事実をカーメディアに対し語っています。
このT.50は「ハイブリッドハイパーカー」と分類することができ、パワートレインにはコスワース製の3.9L/V12エンジン(レブリミットは12,100RPM)と48ボルトISG(マイルドハイブリッド)搭載にて700馬力、トランスミッションは6速マニュアル、駆動輪は後輪のみ、車体重量は980kg。
シートレイアウトはF1よろしく、ドライバーがセンターに座り、両脇にパッセンジャーが座る「3人乗り」。
そして何よりも驚きなのは、車体後部に「フロア下のエアを吸い取って排出するファン(扇風機)」がついていることです。
ゴードン・マレーはまず自らがドライバーである
こんな感じで「想像を超えた」クルマを作ってくるのがゴードン・マレー氏が「鬼才」と呼ばれるゆえんですが、そんな同氏であってもクルマを開発する際にはなんらかの「ベンチマーク」を用いる模様。
たとえばマクラーレンF1(1993年)開発の際はホンダNSXをベンチマークとしており、実際に自身でNSXを日常的にドライブしたうえで「NSXを超える」クルマを作ろうと考えたわけですね。
なお、NSXについて高い評価を与えているのはドライバビリティ、エンジン、そして何よりも「乗りやすさ」であったと言われ、実際にマクラーレンF1のためにホンダへとエンジン供給を打診したことも(これについてはホンダが断ったためにBMW製V12に)。
ただ、ゴードン・マレー氏がなにかをベンチマークとするのは「リスペクト」「模倣のため」ではなく、「それを遥かに超え、そのクルマを過去のものにするため」であり、実際にマクラーレンF1では「カーボンモノコック」「センターシート」「トランクをホイールベース内に(NSXはリアオーバーハング)」といった独自の構造を採用しています。
ちなみに、ゴードン・マレー氏は完成したマクラーレンF1をして、「マクラーレンF1が10点だとすると、ホンダNSXは7点」とも述べていますね。
マクラーレンF1設計者、ゴードン・マレーが「自分以外のだれもF1のようなクルマを作れない。だから自分で後継モデルを作る」。V12、MTで1000キロ以下
そして今回、ゴードン・マレー氏が語ったのが「T.50を開発しようと考えたとき、まずはロータス・エヴォーラをベンチマークにしようと考えたが、アルピーヌA110にその対象を変更した」。
なんでも同氏いわく、ロータス・エヴォーラは「今まで実際に自分が所有してきた中ではトップリストにある」ためにT.50設計の参考にしようと考えたものの、ちょうど1年前にアルピーヌA110が納車され、「隅から隅まで2ヶ月かけて検証した結果」、これがロータス・エヴォーラを超えるクルマであると判断することになり、よってこれをベンチマークに使用することにした模様。
スポーツカーは「基本性能」がすべて
なお、同氏はアルピーヌA110について「そのドライバビリティ実現のために、何一つトリック(電子制御)を使用しておらず、ただただ基本的な設計や性能が優れる」とコメント。
ただ、これはロータスがエヴォーラにトリックを用いていたということではなく、「同じ観点(トリックなしのスポーツカー)として見たときにアルピーヌA110が優れる」ということなのだと思われ、つまり同氏は「いわゆるハイテクマシン」ではなく、「シンプルなレーシングカー」を作るためのセオリーに従ったクルマが好みなのだと思われます。
ちなみにロータスは多くのメーカーが一目をおく会社であり、いくつかの会社が「ハンドリング」についてロータスに意見を求めたり、メルセデスAMGがハイパーカー「One」を開発する際にもロータスの協力を仰いだという話も(実際どうなったのかは続報がない)。
ロータスはつい先日、「電子制御を一切搭載しない状態で」そのエレクトリックハイパーカー「エヴァイヤ」のテストを開始しましたが、これもロータスが「基本性能を見極め、まず基本性能を追求するため」にとった手法なのかもしれません。
【動画】スゴいなこのテールランプ!市販スペックのロータス・エヴァイヤが走行テストを開始。2000馬力をトラクションコントロールなしで走らせる
そのほか、ロータスは「ひとつの部品に2つ以上の機能を兼ねさせる」ことで構造のシンプル化、パーツ点数削減を行っており、フェラーリも「ポルトフィーノ」設計の際には”ロータスを参考にした”ともコメントしていますね。
フェラーリ・ポルトフィーノの設計はロータスを参考に。その結果部品点数はカリフォルニアT比で40%減
よって、ゴードン・マレー氏の考え方、そしてロータスやアルピーヌの考え方は「ハイパワーなクルマを、電子制御によってコントロールし、速く走らせる(ある意味ではポテンシャルを押さえつけているとも言える)」のではなく、「電子制御がなくとも速く走れるクルマ(ポテンシャルを開放しており、持てるもの全てを引き出すという点では効率性に優れる)」ということなのかもしれませんね。
なおアルピーヌA110については実際に運転した印象、そしてそれ以前に構造や採用されるコンポーネント、その結果達成された軽量性には驚かされ、「ポルシェ718ケイマンを購入したことを後悔させられた」1台。
実際に買い替えも検討したものの、ディーラーが遠方にしかないことで購入を見送っている(保留している)段階です。
【試乗:アルピーヌA110】ポルシェ718ケイマンのライバルではなくまったくの「別モノ」。実際に運転してわかったその真実
ちなみに(前トップギアのパーソナリティ)ジェームズ・メイも自身でアルピーヌA110を購入し、高い評価を与えていますね。
アルピーヌA110を購入したジェームズ・メイ。「スープラは気になるクルマだ」なお残りの人生を1台の車で過ごすならBMW 320iを選ぶとコメント
なお、スバルはBRZのマイナーチェンジに際してアルピーヌA110を帯同させており、ベンチマークとして活用している様子も報じられています。
Gordon has taken delivery of his new @AlpineCarsUK #A110
— Gordon Murray Design (@PlanetGMD) 2018年8月30日
Could this be the replacement for his Smart Roadster? pic.twitter.com/YwBM0OY9uU