
ポルシェ、アメリカでの価格高騰を警告|現地生産は見送り
「ポルシェが現地生産」と報じられるもポルシェは公式としてこれを否定する
ドイツの高級車メーカー「ポルシェ」が、アメリカ市場での関税引き上げによって現地での販売価格を値上げせざるを得ない状況に直面しています。
ポルシェにとって、アメリカはカイエンやマカンといった人気モデルの最大市場ですが、実はポルシェ車にはアメリカ製の部品が一切使用されておらず、これが大きなリスクとなり、関税が直接的に価格に影響を与える結果になるのでは、と報じられているわけですね(車体に使用されるアメリカ製の部品の割合に応じても関税が変わる)。
現地生産検討の報道も、公式には否定
つい先日、「ポルシェCEOのオリバー・ブルーメ氏がアメリカでの最終組み立ての一部を現地化することを検討している」とブルームバーグが匿名情報をもとに報じ、この最終組み立ての内容としては「内装部品の取り付けやタイヤ装着など」という具体的なものまでが示されています。
しかしその後、ポルシェの広報担当者がロイターに対し「アメリカでの生産計画はない」と明言し、つまりポルシェは「いかなる組み立てもアメリカでは行わない」ということに。
そうなるとアメリカ国内へと車両を輸入する際には(ポルシェ車に)25%の関税が課せられていしまい、そして当然この関税分をポルシェが全て吸収することはできないため「将来的な値上げ」が予想され、いかに高い人気を誇るといえど、ポルシェの北米における販売台数が落ち込むのではないかという懸念が示されているのが現在の状況です(関税によって、ポルシェがほかの自動車メーカーに対して相対的に有利になることはなく、少なからず影響を受けることになる)。
アメリカ生産が難しい理由|ポルシェの販売台数は少なすぎる
ではなぜポルシェはアメリカでの最終組み立てを行わないのか?
ポルシェの財務責任者ヨッヘン・ブレックナー氏によると「ポルシェの販売台数では、アメリカ生産のコストを正当化できない」とのことで、たとえフォルクスワーゲンのテネシー州チャタヌーガ工場や、計画中のサウスカロライナ州ブライスウッドの工場を利用したとしても「生産コストの面で(米国内での製造は)難しい」。※工場を間借りしたとしても、設備を整えたり、工員を教育したり、パーツを輸送したりというコストを吸収できないのだと思われる
参考までに、ポルシェの大半の車両は現在もドイツで製造されていて、ただし例外として「カイエン」はスロバキアの工場で生産されており、ここではアウディQ7やフォルクスワーゲン・トゥアレグも同時に製造されています。
もう一つ参考までに、フォルクスワーゲングループは「さほど」アメリカでの生産を積極的に進めておらず、たとえばアウディはジャーマンスリーの中では「唯一」アメリカでの生産拠点を持っていないとされ、ポルシェのみではなくフォルクスワーゲングループ全体として今回の関税導入は「未曾有の危機」となりうるのかもしれません。※BMWはジャーマンスリーの中ではいち早く北米での生産を開始している
他メーカーはアメリカ生産へシフト
ポルシェとは対極的に、高関税を避けるため、メルセデス・ベンツや日産などの量販メーカーはアメリカでの生産強化を進めており、メルセデス・ベンツは2027年にアラバマ州でGLCクラスの生産を開始する予定だとされ、日産もテネシー州でローグの生産を拡大すると発表済み。
そのほかにもいくつかの自動車メーカー/ブランドがアメリカでの生産を検討していると伝えられるものの、ポルシェはその生産規模に起因して「アメリカ生産を行ったとしても、その投資額を回収できず」、さらには「メイド・イン・ジャーマニー」の品質が評価されているという「ブランドイメージ的問題」からライバルに追随することが叶わず、ポルシェならではの魅力であった「高級・低ボリューム」が裏目に出てしまったということになりそうですね。
なお、ポルシェのポジションは「微妙な位置」にあるとは以前から言われており、同じように「高級・低ボリューム」で知られるフェラーリは「いかに値上げしようとも」その顧客が離れることはなく、しかしポルシェの顧客は値上げに敏感であり、値上げによって販売が失われると指摘されたことも。※ポルシェがIPOを行う際、フェラーリを超える企業価値を実現できると主張するポルシェ上層部に対し、アナリストが「ポルシェとフェラーリとは根本的に違う」とコメントしたことがある
-
-
フェラーリの株価が最高値を更新。上場時の60ドルから9年で7.5倍、もし当時100万円分フェラーリ株を買っていたら今では750万円に。なぜフェラーリはここまで「強い」のか
| フェラーリはまだ誰も「ブランディング」を考えていない時代からブランドを高みに押し上げることを考えていた | そしてエンツォ・フェラーリの思想は「完全に」現代のフェラーリにも引き継がれている さて、 ...
続きを見る
ポルシェの苦戦は関税前から始まっていた
ポルシェの経営状況につき、実はアメリカの関税が発表される前から悪化傾向にあり、2024年の世界販売台数は前年から3%減少して310,718台へ。
特に中国市場での販売が大きく落ち込んだことが主な原因だとされ、一方アメリカ市場では過去最高となる76,167台を記録したものの「全体的な利益は減少傾向」。
ポルシェは電気自動車(EV)への投資を続ける一方で、EVの成長が予想より鈍化したため、ガソリン車(ICE)の新規開発も急遽進める方針へと転じていますが、それでも2025年の利益はさらに13億ユーロ減少する見通しであるともアナウンスがなされています。※2024年の利益は56億ユーロで、前年の73億ユーロからすでに大きく減少
-
-
ポルシェが公式に「内燃機関に対する投資の拡大」に言及。やはりEVとして開発されたモデルにガソリンエンジンを搭載し「ハイブリッド化」するようだ
| 現時点ではどのモデルが対象となるのかはわからないが、タイムライン的にはミニバン「K1」が妥当であろう | 本音を言うと718ケイマン・ボクスターをハイブリッド化してほしいものである さて、ポルシェ ...
続きを見る
まとめ|ポルシェの今後はどうなる?
関税、販売台数の減少、EV投資の回収難といった複数の課題に直面しているのが現在のポルシェですが、(電動化重視)戦略が裏目に出たことに加え、これまでポルシェの排他性として機能していた「欧州生産」が一転してネガティブ要素となり、さらに値上げによって北米での競争力を失ってしまう(メルセデス・ベンツやBMWは現地生産に対応し、あるいは対応しつつあり、ポルシェの稼ぎ頭であるカイエンやマカンの価格競争力が低下)といった負の連鎖が続いていて、”暗いトンネルの出口”が見えない状態なのかもしれません。
- ポルシェはアメリカでの高関税により価格引き上げが避けられない状況。
- 生産の一部現地化は噂されたものの、公式には生産移転を否定。
- 低販売台数(低ボリューム)と高コストに起因し、アメリカ生産は現実的ではない。
- 中国市場の減速、EV市場の鈍化により、ポルシェは苦境に立たされている。
あわせて読みたい、ポルシェ関連投稿
-
-
ポルシェ、関税戦争で業績急落 ― 2025年Q1決算の内容を受け、2025年通年見通しにおいて深刻な下方修正を行う
| ポルシェの販売下落は「止まらない」 | 世界的に落ち込むポルシェの収益 ― 中国とアメリカの影響大 さて、ポルシェAGは2025年第1四半期の決算にて深刻な業績悪化を報告していますが、その主要因は ...
続きを見る
-
-
【2025年版】プレミアムブランド価値ランキング:ポルシェが8年連続で首位、フェラーリは「ブランド強度」で2位
| ポルシェ、8年連続で世界最高の高級ブランドに | シャネルがブランド価値を急激に上昇させる ブランド評価会社、ブランド・ファイナンス(Brand Finance)によると、ポルシェは2025年も世 ...
続きを見る
-
-
ポルシェ、関税戦争で業績急落 ― 2025年Q1決算の内容を受け、2025年通年見通しにおいて深刻な下方修正を行う
| ポルシェの販売下落は「止まらない」 | 世界的に落ち込むポルシェの収益 ― 中国とアメリカの影響大 さて、ポルシェAGは2025年第1四半期の決算にて深刻な業績悪化を報告していますが、その主要因は ...
続きを見る