| フェラーリはパワーのためでもなく、環境規制のためでもなく、「税金」のためにターボカーを投入していた |
その時代の自動車は常にその時代の情勢を反映している
フェラーリ初のターボエンジン搭載車(ロードカー)、「208ターボ」が競売に登場。
当時フェラーリがターボエンジンを採用したのは、かつてポルシェが930ターボを投入したり、BMWが2002ターボを開発したように「運動性能の向上」を求めたからでもなく、現代のクルマのように環境規制に適合させるためでもなく、その理由は「税金を安く抑えるため」。
1970年代~1980年代のイタリアでは、2,000cc以下に20%、それ以上のエンジンには35%もの税金を課しており、つまり(当時のフェラーリはすべて3リッター以上だったので)購入するには非常に高い税金を支払う必要があり、これが購入の足かせになっていたと言われます。
各社ともに税金対策のため「ダウンサイジングターボ」へ
加えてポルトガルなど一部の周辺国も同様の税制を採用していたため、BMWは2.3リッターだったE30 M3を2リッター化した320iSを発売したり、マセラティは3リッターから2リッター化したメラクV6を開発したり、フェラーリも308GT4を2リッター化して208GT4とするなど(該当地域では)他に例を見ないモデルを投入していたわけですね。
そしてフェラーリは1975年に308GTBを発売し、ほぼ同時に「税金対策モデル」として2リッター版の開発にかかりますが、排気量を縮小すると当然出力も下がってしまい、(ノンターボの)208GTBの出力はわずか155馬力にとどまっていて、これはインジェクション仕様の308GTBiの214馬力、キャブ仕様の308GTBの255馬力に比較すると「フェラーリとは呼び難い」数字です。
そこでフェラーリは、ウエストゲート付きKKKターボチャージャー・ユニット、ボッシュKジェトロニック燃料噴射システム、マレリMED 804A電子点火装置を搭載した「Tipo F106D」エンジンを開発し、この2リッターV8ターボは220馬力を発生することに。
なお、ターボエンジンながらもレッドラインは7,800RPMとけっこう高く、もしかすると自然吸気エンジンよりも刺激的な走りを楽しむことができたのかもしれませんね。
このフェラーリ208ターボは完全なるオリジナル
今回オークションサイトに登場したフェラーリ208ターボは1984年式で「完全なるオリジナルコンディション(レストアや再塗装、エンジンやトランスミッションの載せ替えが行われていない)」だとされ、走行距離は61,612km。
ボディカラーはフェラーリらしいロッソコルサで、ホイールはスピードライン製の5本スポーク(165 TR 390 )、タイヤは当時のパターンそのままを復元したミシュラン製ラジアルX 220/55 VR 390。
車体デザインはもちろんピニンファリーナ。
クラシカルさと現代っぽさがいい感じでバランスしていると思います。
フェンダー、そしてドアミラーにもフェラーリのエンブレム(ドアミラーにフェラーリのエンブレムがついているのはあまり見たことがない)。
ヘッドライトはもちろん「リトラクタブル」。
このフェラーリ208ターボのインテリアはこうなっている
インテリアはタンレザーで、これもまた「フェラーリらしい」コンビネーションですね。
シートは「デイトナ」ではなく台形っぽいステッチが入っていて、これは現代のフェラーリにも受け継がれるパターンです(中央部分とサイドサポートでの素材が異なるのは、この時代のフェラーリとしては珍しい)。
トランスミッションは「オープンゲート」5速マニュアル。
一度でいいので、このオープンゲートにてシフトレバーを「ガチャガチャ」やってみたいものです。
エアコン、パワーウィンドウが装備され、CDプレーヤー付きのアルパイン製カーステレオが装着されるなど実用に耐えうる仕様となっていますが、やはり年式なりの劣化もあり、出品に際しては、助手席のシートベース前部に小さな穴が開いていること、樹脂パーツの劣化、運転席シートボルスターの軽い摩耗、パイピングのカラーリング部分の耗、スイッチ、カーペット、ドア内張りに使用感があること、助手席側ダッシュボードに隙間があって、その奥に配線が見えていることなどが記載されています。
なお、エアコンは作動しないそうですが、そのほかの電気系統は問題なく動いているとい、最新の整備は2021年3月(58,150km走行時)に実施され、この際にはオルタネーターとステアリングギアの改修、リアエキゾーストサイレンサーのシーリング、新品タイヤと新品バッテリーの装着が行われたほか、2020年12月には、エンジンオイルとフィルターの交換、クーラント、ギアボックスオイル、エアフィルター、スパークプラグ、ブレーキフルードの交換、テンショナーおよびウォーターポンプ付きのタイミングベルトの交換を含む大規模な整備が行われることに。
最後にこのクルマが走行したのは2022年6月で、その際には特に警告灯の表示などは見られず、出品に際しては工場出荷時の書類、いくつかの検査表とTÜVによるレポート、クラシックカー鑑定書、オリジナルのスペアホイールが付属する、とのこと。
オリジナルコンディションを維持していることからもわかるとおり非常によく整備され、かつ日常的なメンテナンスもしっかり行われており、(エアコン以外は)問題なく動作することからも非常に優良な物件だと考えられます。
このフェラーリ208ターボはわずか437台しか製造されておらず、さらに「フェラーリ初の市販ターボ車」ということもあってコレクション価値も非常に高そうですね。
このフェラーリ208ターボを紹介する動画はこちら
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参照:Collecting Cars