| このようなフェラーリ275GTB/4が存在しようとは、フェラーリの歴史家もびっくりである |
それにしても、フェラーリがこの注文を受けたこと自体が「ナゾ」だと思う
さて、現存するフェラーリ275GTB/4は(そのモデル名と同じ数の)275台だと言われているそうですが、今回はそのうちの1台がRMサザビーズ主催のオークションへと登場予定。
このフェラーリ275GTB/4はカスタムカラーである「デル・リオ・ヴェルデ・メディオ」にペイントされているほか(このカラーを持つ275GTB/4は1台しかないそうだ)、多くのユニークな特徴を備えた希少な特注モデルとして紹介されています。
このフェラーリ275GTB/4はこんな特徴を持っている
そこでまず、このフェラーリ275GTB/4の特徴を整理してみると下記の通り。
- ワンオフカラーの「デル・リオ・ヴェルデ・メディオ」
- コンペティション・タイプのアウトサイド・フューエル・フィラー・キャップ
- ボラーニ製ワイヤー・ホイール
- 特別仕様のフロントグリル
- コンペティション・スタイルのドア・マウント・ミラー
- アームレスト、ドア・パネル、リア・デッキ、サイド・パネル、ダッシュボードを含むフルレザー・インテリア
- フェラーリ・クラシケの認定(レッドブック)付き
- エンジンとギアボックスのマッチングナンバー認定車
- ペッレ・オレンジ(VM 3104)のファクトリー・オリジナル・インテリア
- 16年間同じオーナーにて、空調付きガレージに保管される
- ツールキットとオーナーズマニュアル付き
- オリジナルオーナーがフェラーリへと送った手紙、雑誌の掲載記録、サービス/レストアの請求書など、豊富な資料付き
フェラーリ275GTB/4はこんなクルマ
フェラーリは1966年10月のパリモーターショーにて、275GTBのアップグレードモデルとして275GTB/4を発表することになりますが、これは最新のロングノーズスタイルに身を包んでいることが外観上の大きな特徴。
機能的にはジョアッキーノ・コロンボが開発したショートブロック 3.3リッターV型12気筒エンジンをさらに発展させた226型V12を搭載しており、4カムエンジンを搭載した初のロードゴーイング・フェラーリとなっています。
さらにこのエンジンはドライサンプ潤滑装置と6個のウェーバー40 DCN/9キャブレターを装備しており、これによって先代の275GTBよりも20馬力向上したほか、さらにはドライブシャフトをソリッド・トルク・チューブに変更した結果、初期型にてしばしば悩まされていた振動の問題を効果的に解消することが可能となったのだそう。
この275GTB/4は1968年に生産が終了するまでわずか330台しか製造されず、パワフルであると同時に希少な特別なベルリネッタとなっています(フェラーリの場合、後期モデルの生産台数が常に少なく、希少となる傾向が強い)。
今日のフェラーリ・コレクターは、フェラーリの現代的なテーラーメイド・プログラムを利用し、個人的にカスタマイズされたオーダーメイドの跳ね馬を作ることができますが、1960年代後半のバイヤーはそれほど幸運な環境に恵まれておらず、オプションの範囲が「かなり」絞られていたといいます。
そんな中でここまでのカスタムを行った例は極めて稀であり、つまりこのフェラーリ275GTB/4を新車にて購入したオーナーは「極めてフェラーリにとって重要な」人物であったということになりそうです。
このフェラーリ275GTB/4はウォール街のブローカーによってオーダーがなされる
フェラーリの専門家であるマルセル・マッシーニの調査によると、このフェラーリ275GTB/4”シャシーナンバー09831”は、オリジナル・オーナーによる豊富な当時の資料によって判明しているように、ウォール街の投資会社デラフィールド&デラフィールドに勤める株式ブローカーであったダニエル・デル・リオという人物が注文したもの。
(北米におけるフェラーリディーラーであった)ルイジ・チネッティによる注文請書と、ダニエル・デル・リオ氏からフェラーリ副社長兼インターナショナル・セールス・マネージャーのアメリゴ・マニカルディに宛てた手紙にによると、ダニエル・デル・リオ氏独自の装備のいくつかが記されており、それらはコンペティション・スタイルのアウトサイド・フューエル・フィラー・キャップ、ボラーニ製ワイヤー・ホイール、8/32アクスル・レシオ、マイル表示の計器類、競技用ミラー、専用のフロントグリル(2.5インチ前に出されており、さらにロングノーズ化している)など。
このフェラーリ275GTB/4ははフロントとリアのバンパーなしで納車されたといい、ボディカラーは美しいグリーン、インテリアはアランチョ(オレンジ色)コノリー・レザーで覆われることに。
このボディカラーはワンオフにて調合されたため「(後に)デル・リオ・ヴェルデ・メディオ」と命名されたそうですが、フェラーリの専門家によれば、「1960年代後半に、フェラーリのファクトリーが個々の顧客のためにペイントカラーを合わせ、名前を付けたというのはほとんど前代未聞」。
ダニエル・デル・リオとフェラーリとの関係性は不明ではあるものの、前代未聞を実現させてしまったところからして「フェラーリに対し、相当な影響力を持つ」人物であるのは間違いないかと思われます。
なお、オリジナルのイタリア登録証が示すように、ダニエル・デル・リオ氏はこのクルマを米国に輸送する前にイタリアで登録し、その理由としては納車後に(おそらくチネッティ・モーターズが行ったと思われる)純正のウェーバー40 DCN/17キャブレターを40 DCN/9ユニットに交換するなどの小改造を行うためだったと考えられています。
1968年9月、ダニエル・デル・リオはニューヨークのブリッジハンプトンで開催されたカンナム・レースのFCAミーティングでGTB/4を披露し、その1年後には現地『Automobile Quarterly』誌にて特集記事が組まれることに(そのコピーはファイルにて入手可能)。
そしてダニエル・デル・リオは、少なくとも1975年まではこのフェラーリ275GTB/4を所有していたと言われます。
ダニエル・デル・リオの手を離れた後、このフェラーリ275GTB/4は1982年にはニュージャージー州アッパー・サドル・リバーのポール・ライズマンに、そこからニューヨーク州カトナのゲーリー・シェービッツの手に渡ったことが書面から判断でき、1986年初頭にはニュージャージー州メンダムのジェローム・モリター博士がこの275GTB/4を入手し、その後同博士はロードアメリカ/エルクハートレイクで開催されたFCAナショナル・ミーティング&コンクールでこのクルマを披露してクラス賞を獲得することに。
2年後、ジェローム・モリター博士はこのフェラーリをイギリスのディーラー、ジョン・コリンズへと譲渡し、ジョン・コリンズは1990年代初めにこの車を日本のコレクターである加藤武雄氏に売却したという記録も。
その後加藤武雄氏はこの275GTB/4を何年か保管した後、再びアメリカ人の所有となり、1998年に前オーナーのゲーリー・シェービッツが再取得しています。
2000年3月に売りに出されたとき、このフェラーリ275GTBははフルメカニカル・レストアを受けていたとされ、当時オリジナルと思われた走行距離は約34,000マイル。
その後、少なくとも1人のオーナーの手を経て2003年にカリフォルニア州ディアブロのマニュエル・デル・アロスに売却され、彼は2004年6月にトスカーナとマラネッロで開催されたフェラーリ40周年記念ファクトリーツアーでこのクルマを走らせたことがわかっており、その2ヵ月後、この275GTB/4はカリフォルニア州カーメルのクエイル・ロッジにて毎年開催されるFCAインターナショナル・フィールド&ドライビング・コンクールで披露されています。
2007年6月には現在のオーナーによって取得されており、現在に至るまでのこの16年間、ほとんどが空調管理された倉庫に保管されていたと紹介され、2018年6月にはフェラーリ・クラシケに認定のうえ、マッチングナンバーのエンジンとギアボックスを持つことが(フェラーリによって)確認済み。
都度行われた小さな整備に加え、この275GTB/4は最近、コッパ・ベッラ・モーターズによるエンジンのリフレッシュと、ウェーバーのスペシャリストであるマイク・ピアースによるキャブレターのリビルドとチューニングを含む機械的なレストアを行ったという記録も残っており、現オーナーがいかにこの車両を大事にしていたかもわかりますね。
なお、レストアを受けたにもかかわらず、このボディカラーとインテリアは「当時のまま」だとされ、つまりは高いオリジナル性を持つということになりますが、驚くべきことにスペアホイールとウィンドウに1967年2月の適切な日付コードが表示されているという「当時のまま」の仕様も。
このフェラーリ275GTB/4は、こういった「唯一の」外観や構造を持つということになり、ローングノーズ化されたことを考慮すると「事実上のワンオフ」ということになりそうです。
その意味ではこのクルマは「プライスレス」だと言ってよく、RMサザビーズの出した「500万ドル(現在の為替レートにて約7億円)」という尋常ならざる最高落札価格にも納得ですね。
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参照:RM Sotheby's