| フェラーリはXXプログラムを通じ、多くの技術を開発・検証し「より優れたロードカー」の開発を行っている |
その顧客が「直接」こうやって車両の開発に参加する例は他に類を見ない
さて、フェラーリが展開する「XXプログラム」の様子を収めた動画が公開に。
このXXプログラムはフェラーリに認められた顧客のみが参加できるもので、これを通じて新しい技術の実証を行い、そこで得た知見を市販車(もしくはチャレンジ車両などのレーシングカー)にフィードバックすることを目的とするもの。
実際の走行に際し、フェラーリの顧客向けモータースポーツ支援チーム「コルセ・クリエンティ」が車両の点検や整備、そして輸送(オーナーは好きな場所に車両を保管することができる)を担当し、走行後にそれぞれのオーナーはフェラーリにそのパフォーマンスについて報告を行うという流れによって進められることになる、とされています。※参加費用は200万ポンド=現在の為替レートでは3億7500万円くらいだと言われた
フェラーリ「XX」プログラムは今年で18年
なお、XXプログラムは2005年にムジェッロで開催されたフェラーリ・フィナーリ・モンディアーリにて発表されていますが、「顧客がフェラーリの車両開発に参加する」という目的は当時強烈なインパクトを業界に与えており、それは今でもなお先駆的な試みです。
最初に発表されたXX車両はエンツォフェラーリをベースにした「FXX」で、これは顧客向けとして29台が製造され、特別に作られた30台目はミハエル・シューマッハへと贈られることに。
このFXXは公道走行ができず、特定のモータースポーツに参加することを想定していないので公式レースにも参加できないというクルマではあるものの、逆に「なにものからも制限を受けない」からこそ可能となった大胆なアクティブエアロダイナミクス、さらには改良されたF1ギアボックスを持ち、これをもって選ばれた29人が「走る実験室」を運転し、そしてその成果が市販車へと反映されるわけですね。
参考までに、ミハエル・シューマッハに贈られた車両は「リバリーの入らないブラックのボディ、レッドのラインが入るホイール、クロームではなくマット仕上げのエキゾーストパイプ、レーシングシートに刺繍されたシューマッハ専用ロゴ」といった(ほかのFXXとの)相違があるもよう。
このXXプログラムにつき、ある意味では「体験型ラグジュアリー」の先駆けだとも考えることができ、29人の顧客はいっそうフェラーリに対する忠誠心を強めることになったかと思われますが、その次に登場したのが599FXX(及び改良型の599FXX Evo)。
この車両にはバーチャルレースエンジニアと呼ばれるデータロガーが装着され、より正確なデータをフェラーリのエンジニアへと提供することが可能となっており、構造上の特徴としては「ディフューザーからリアウイングへどファンを使用してエアを送り、損失なくダウンフォースを稼ぐアクティフローシステム」を持つこと。
599FXX Evoでは可変アクティブエアロを備えるなどの改良が施され、当時ニュルブルクリンクを6分58秒16で走ったという記録が残るので、相当に速いクルマであることがわかります。※一般にこれらの技術は公式競技では許可されず、しかしXXプログラムでは成約を受けずにテストを行うことができる
そのほか、新しく設定し直されたマネッティーノ(ドライブモード)では9つの異なるトラクションコントロール、磁性流体ダンパーの細かい制御が可能になったとされ、ここで得た知見はのちのフェラーリのロードカーにも反映されており、これによってフェラーリの市販車は「しなやかな乗り心地と、リニアで安定したハンドリング」を併せ持つこととなっています(このほかにも様々な技術が市販車に転用されており、文字通りXXプログラムの参加者は新型フェラーリの開発に貢献している)。
その後2014年になるとラフェラーリベースの「FXX K」が登場し(42台が生産されたと言われる)、搭載されるV12エンジンの排気量が6リッターから6.3リッターへと拡大され、出力も800馬力にまで向上しています。※今回の動画ではその姿が見られないようだ
FXX Kではシフト時間の短縮、ブレーキパッドのアップグレード(ディスクは市販版のラフェラーリと同じ)、専用開発の19インチレーシングスリックなど多くのアップグレード内容を持ち、データ監視および遠隔測定システムが搭載されることでフェラーリのエンジニアが車両データをリアルタイムで監視できるようになったこともトピックです。
なお、見ての通りいずれのXXマシンもいわゆるレーシングカー的な過激なルックスを持たず、市販車に近い外観を持っていますが、これはフェラーリが「抵抗を発生させるような巨大なリアウイングなどのエアロパーツ」に依存しない効果的なエアロダイナミクス性能を追求しているためで、その本質は「目に見えない」内側にあると考えることも可能です。
実際のところ、フェラーリのデザインスタジオ(チェントロスティーレ)を率いるフラビオ・マンゾーニ氏は「サーキット走行専用車というと、誰もが獰猛な外観を持つマシンを連想すると思いますが、実際には獰猛である必要はありません。サーキット走行専用車がこのように美しくあることが可能だとは誰もが信じておらず、しかしエアロダイナミクスはデザイナーにとってチャンスであり、工学原理を正しく理解していれば、美しいレーシングカーを作ることも可能となるのです」とコメントしています。
たしかにフェラーリのレーシングカーが「美しい」ことについては誰も異論はないかと思いますが、「美しくあるため」にフェラーリはそうとうな努力を行っているということもわかりますね(それだけに、一部顧客がフェラーリを”醜く”改造してしまうのを許せないということもよく理解できる)。
フェラーリ「XX」車両が縦横無尽にサーキットを走行する動画はこちら
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参照:Varryx