| もはやバッテリーパックの価格は「それ単体のコスト」では語られなくなってきている |
原油同様、「需要と供給」によって価格が決定される”変動相場”に
さて、2015年くらいには「数年もすればバッテリーの価格が(大量生産によって)大きく下がり、EVの価格が(同レベルの)ガソリン車よりも安くなる」というムーアの法則的な観測が主流であったものの、実際にはそうはならず、むしろ需要の高まりによって「バッテリーコストが期待ほど下がらない」というのが現在の状況です。
EVの価格が2026年までにガソリン車と同じになる可能性がある?
ただし最新の報告によると、ついにEVの価格がガソリン車に並ぶ可能性があるといい、ブルームバーグNEFの新しい調査によると、リチウムイオンバッテリーの価格が7年ぶりに最も大きな下落を記録したことが明らかに。
「(あくまでも一般的に)EVのコストにおける60%を占めるというバッテリー価格」が下がることで、電気自動車(EV)の価格がより手頃になり、内燃機関車(ICE)と同等の価格になる可能性が浮上していると述べていますが、しかしこの価格の均等化が実現するかどうかは「EVの普及状況や政府の政策に依存する」。
リチウムイオンバッテリーの価格が下がった理由は、セルの供給過剰と、製造に使用される原材料や部品の価格低下だとされ、今回公開された調査内容においては”電気自動車、バス、商用車”を含む343のデータポイントをカバーしています。
さらにこの調査では「EVが内燃機関車と同じくらい手頃な価格になるかどうかが、広範なEV普及の試金石となる」と述べており、現在の傾向が続けば、上述のとおり2026年までにEVとガソリン車の価格均等化が実現する可能性があるわけですが、現在、バッテリーパックの平均価格は1kWhあたり115ドルで、これは昨年から20%の下落です。
価格均等化を実現するためには、バッテリー価格が1kWhあたり100ドルに下がる必要があるとされ、ブルームバーグは「中国ではすでに一部のEVがガソリン車よりも安く販売されており、これは価格均等化がすでに達成されつつあることを示している」とも。※ただしこれは過剰に生産されたEVの在庫処分や、政府からのEV製造奨励金の影響も考えられる
さらにこの調査では、バッテリー価格が2026年までに1kWhあたり100ドルを下回り、2030年までには69ドルにまで下がると予測していますが、これらの予測には地政学的およびマクロ経済的要因が影響を与える可能性があるとされ、EVセルの生産は依然として車両の販売状況に大きく依存しており、最近はEVの販売成長の鈍化に伴い、セルの供給過剰が発生しています。
ただ、この「EV販売鈍化」が続けば、バッテリーサプライヤーの倒産や生産規模縮小によってバッテリーセルの供給が絞られてしまい、そうなると「需要と供給が釣り合って」バッテリー価格が下がらなくなってしまう例も考えられ、ここがなんとも読みにくいところなのかもしれません。
さらにEVとガソリン車との価格均等化に影響を与える要因として”政府の政策”も無関係ではなく、たとえばヨーロッパでは政府がEVの補助金を削減しており、特にドイツでは2024年の販売が大幅に減少しています。
一方、米国ではドナルド・トランプ新大統領が、中国からの輸入品に60%の関税を課すとともに、他国からの輸入品には10%-20%の関税を課すことを”脅迫”していて、さらには7,500ドルのEV税控除を撤廃するように議会に求めており、これが成功すれば、多くの自動車メーカーに深刻な影響を与える可能性もあり、となると「EVの販売が予想以上にスローダウンする」可能性もあって、となるとバッテリーセルの価格はまた(供給が需要を上回り)大きく下がる可能性も。
さらにバッテリー価格が下がってEVの人気が出ると、これまた「バッテリー価格が下がらなく」なってしまい、ここでまたEV需要の減退がはじまるのかもしれません。
結論として、バッテリー価格の低下はEVの価格にとって良いニュースではあるものの、政府の政策やその他の経済的要因がEVとガソリン車の価格均等化の実現時期に大きな影響を与える可能性があり、もはや「バッテリーの生産量や生産コスト」のみがその価格を左右する要素ではない、というわけですね。
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