
| 想定外の事情によって「中国と西側諸国との」分断が進む可能性 |
EVの巨人が動いた—テスラの「脱・中国化」の緊急指令
自動車業界全体が関税、貿易戦争、地政学的な緊張によって巨大な構造変革の波にさらされていることは既報のとおりではありますが、この「脱・中国」の流れを加速させているのがEV業界の巨人であるテスラ(Tesla)です。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の最新報道によると、テスラは(すでに)今年初めにサプライヤーに対し、米国で製造されるすべての車両について、中国製の部品を段階的に排除するよう指示を出した、とのこと。
その猶予期限は長くても2年以内、可能であれば1年以内という、GMがサプライヤーに提示した期限(2027年)よりも厳しい短期間での実行を求めています。
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この動きは、コスト効率よりも「供給網の安定性」を最優先するという、現代の自動車産業の新たな鉄則を決定づけるものとなり、他社に先駆けて動き、かつより短い期間での達成を目指しているところは「さすがテスラ」といったところなのかもしれません。
テスラを突き動かす「関税の変動」と「サプライチェーンの脆弱性」
テスラがこのサプライチェーンの再編を急ぐ背景には、コロナ禍による供給網の混乱に始まり、最近さらに深刻化した政治的・経済的なリスクがあります。
1. トランプ政権下の「関税ショック」
テスラが中国依存からの脱却を加速させたのはトランプ政権による中国からの輸入品に対する高関税の再導入。
関税水準の頻繁な変動は、テスラにとって一貫した価格設定戦略を策定することを極めて困難にしますが、実際のところ、部品コストが突然25%も跳ね上がるリスクは、テスラの収益性と市場での競争力に直接影響を及ぼすこととなり、テスラはこの政治的決定に左右されない、より強靭なビジネスモデルの構築を目指しているということに。
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2. 自動車用チップの「供給中断リスク」
最近、中国とオランダの間の半導体紛争によってオランダのチップメーカー「Nexperia」の中国でのパッケージング工程が影響を受け、自動車用チップの供給中断が再燃する事態が発生していますが、こうした予期せぬ地政学的要因による部品供給のリスクはテスラ社内でサプライチェーンの多様化を加速させる必要性を強く後押ししたと報じられ、たとえサプライヤーが中国企業ではないとしても、サプライヤーの調達先が中国であることによって「コントロールできないリスク」が生じるといった現実もあるわけですね。
短期間での移行戦略—メキシコへの「移住促進」
テスラは、この困難な「脱・中国化」を乗り切るため、独自のアプローチを取っています。
3. サプライヤーのメキシコ・東南アジア移転促進
テスラは数年前から、中国のサプライヤーに対し、メキシコや東南アジアに生産拠点を移すよう奨励しており、これは米国が中国製品に課す関税を回避しつつ、既存のサプライヤーとの関係を維持しようとする戦略を示すもの。
また、中国製に依存していたLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーについても、来年からはネバダ州にある自社工場での生産を優先する方向で動いています。
4. 既に進行中の部品交換
WSJの報道によると、テスラとサプライヤーは既に一部の中国製部品を他地域で製造された部品に置き換える作業を完了させているとのこと。
しかし、プリント基板、電子制御ユニット(ECU)、一部のバッテリー部品など、中国企業が市場支配力を持つ重要部品の代替調達には、依然として大きな課題が残されているとされ、これらについては今少し時間を要することになりそうですね。
自動車産業に広がる「レジリエンス」の波
テスラが「1〜2年」という期限を設けたことは、EVという新しい産業においても、「安さ」よりも「安定性」を求める傾向が不可逆的に強まっていることを示しています。
GMが2027年という期限を設定して脱・中国化を指示したのに続くテスラの動きは、今後、他の米国の自動車メーカーにも同様の戦略を採用するよう圧力をかけることになり、こういったサプライチェーンの再編は、短期的には部品コストの上昇や、サプライヤーにとっての多大な資本支出を意味するものの、しかしテスラは長期的な価格の安定性、供給の確実性、そして政治的リスクの低減というメリットが、そのコストを上回ると判断したということに。
多くの自動車メーカーは「中国製パーツのほうが安いから」という唯一最大の理由によって中国からの供給を受け続けているのが現状だとは捉えていますが、今ここでどう動くのか(ズルズル行くのか、思い切って切り替えるのか)が「将来の収益性と安定性」を決定する要素になるのかもしれません。
その意味において、テスラとGMの動きは、過去数十年にわたるグローバルなサプライチェーンの流れを逆転させ、米国および同盟国を中心とした「地域化」へと自動車産業の地図を塗り替える、歴史的な一歩となるのでは、とも考えられます。
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