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トヨタがモデルチェンジ周期を「9年」に延長すると決定—ソフトウェア定義車両の導入、そして「ソフト更新でクルマを成長させる」戦略とは

トヨタ

| かつてトヨタは「4年ごと」にモデルチェンジを行っていたが |

好調なトヨタが仕掛ける「常識破り」の戦略転換

トヨタ自動車は5年連続で世界最大の自動車メーカーの地位を維持し、さらには注文の積み残しが続くなどビジネスは「活況」を呈しています。

その強い市場の支持を背景とし、トヨタは自動車業界の慣例を打ち破る大胆な戦略転換を計画しているとして大きな話題に。

その「戦略」とはこれまで平均5年(2000年代以降は平均7年)で実施されてきた主力モデルのフルモデルチェンジ周期を今後は平均9年にまで延長するというもの。

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参考までに、かつてのマークII(その後のマークX)はオリンピックイヤーごとに新型が登場するという「4年周期」でのモデルチェンジを行っていたものの、最新の方針だとモデルライフが「倍以上」となるわけですね。

この「9年サイクル」の対象となるのは、カローラやRAV4といった世界的なコアモデルで(つまり期間モデルであってマイナーやニッチモデルではない)、これほど長いサイクルは競争の激しい自動車業界において非常に異例のことであると捉えられています。※参考までに、フェラーリはモデルチェンジのサイクルを逆に「短く」し、生産期間を短縮することでモデルあたりの生産台数を抑えて希少価値をもたらしており、そのブランドの方向性に合わせて戦略が多様化している

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トヨタがこの戦略を取る最大の目的は、電動化への投資とソフトウェア開発により多くの時間とリソースを割くことにあるといい、ここでその内容を掘り下げてみましょう。

ハードウェアから「ソフトウェア定義型車両(SDV)」への転換

モデルサイクルを延長する背景には、自動車の価値がハードウェア(エンジンや外装)から、ソフトウェア中心の製品へとシフトしているという認識が前提にあるといい・・・。

1. ソフトウェアアップデートによる価値維持

トヨタは、モデルの寿命を延ばす代わりに、OTA(Over-The-Air、無線通信)によるソフトウェアアップデートに注力する、と宣言しています。

これにより、車両が市場に出てからでも、スマートフォンのようにパフォーマンス、効率、安全機能などが継続的に改善されることに。

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新型車を短期間で投入して車の価値が下がるのを防ぎつつ、「ソフトウェア定義型車両(SDV)」として常に最新の機能を提供し、製品の魅力を長期間維持する狙いだとされていますが、つまるところこれは「テスラと同じ手法」でもありますね(ただ、テスラはモデルチェンジの期間を定めていない)。

2. 開発リソースの集中

さらにはモデルチェンジの頻度を減らすことで設計、金型、生産ラインの変更にかかる莫大な開発コストを削減可能。

これにより生まれたリソースを、技術競争が激化しているEVやハイブリッドの開発、そして自動運転やインフォテインメントシステムを司るソフトウェア部門へ集中投下することが可能となるわけですね。

市場とディーラーが抱える期待と懸念

この「9年サイクル」戦略は、メーカー側と顧客側の双方にメリットをもたらしますが、同時に懸念も引き起こしています。

対象メリット(期待される効果)懸念点(リスク)
トヨタ開発コスト削減、電動化へのリソース集中、車両価格の安定化。競争激化する市場で陳腐化のリスク、競合他社にリードを許す可能性。
顧客リセールバリューの維持(旧型化しにくいため)、初期不良のリスク低減、長期所有の安心感。最新のデザインや技術をすぐに手に入れられない、新鮮味の欠如。
ディーラー卸売価格の安定(値崩れ防止)、長期的な注文残への対応時間の確保。モデルが古くなるにつれて割引販売が必要になり、利益率が圧迫される。
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ディーラーの懸念とトヨタの回答

加えて、一部ディーラーからは、「販売期間が長くなれば、買い手を引き付けるためにより大きな割引が必要になり、利益が減るのではないか」という懸念が表明されているとされ、しかしこれに対してトヨタは「9年間を通して平均的な卸売価格を安定させる」と述べてディーラーを安心させている、という報道も。

さらにはモデルの価値をソフトウェアで維持することにより卸売価格も柔軟に設定(変更)し、ディーラーの収益構造を守る方針を採用するとのことですが、現時点では「どうやって」という具体的なプランについては「わからない」状態です。

まとめ:「熟成した製品」を選ぶ顧客価値への適合

この戦略は、トヨタが長年にわたり築いてきた「信頼性」と「長期所有」とを重んじる顧客層の価値観に合致しています。

現に、先代4Runnerが驚異的な15年間、ランドクルーザー70系が41年間も生産されていたにもかかわらず高いリセールバリューを維持し続けているのは、トヨタ製品の「熟成された安心感」が評価されている証拠なのかもしれません。

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さらにはソフトウェアが自動車の役割を決定づける「ソフトウェア定義型車両」の時代において、さらにはインフレによって可処分所得が減少する中にあって、顧客は「最新バージョン」を買い替え続けるよりも「徹底的に洗練され、長期にわたり更新される製品」を選ぶ傾向を強めているというレポートも。

こういった環境の中、「トヨタの9年サイクル」は、目まぐるしく変化する技術競争の渦中において、「あえて急がない」という、より効率的かつ安定的な未来のモビリティを構築しようとする巨大企業ならではの戦略的な一手と言えそうです。

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参照:Nikkei Asia

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