
| 需要減速が示す「EVシフトの踊り場」とは |
「EVシフト」は悲観的な予想よりも「遥かに遅れている」
世界的なEV(電気自動車)需要の減速を受け、トヨタ自動車が福岡県で計画していたEVバッテリー専用工場の建設を再び延期することを決定したとの報道。
この動きは2025年に入ってから2度目の延期であり、トヨタがEV分野で慎重な姿勢を強めていることを示しています。
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トヨタが「福岡県に建設予定であった」バッテリー工場の建設計画を延期。EV販売の下振れに伴い、EV販売目標の引き下げとともに今後の電動化計画の見直しに入る
| ただしこれはトヨタのみの事情ではなく、自動車業界全体の流れである | そしてどこまで「柔軟に状況に対応できるか」が明暗を分けるであろう さて、現在は「EV需要の低迷」に伴い各自動車メーカーとも戦略 ...
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トヨタ、福岡EV電池工場の建設を再び延期
同社は約60億円を投じて福岡県北東部の工業団地内に土地を取得していますが、契約上「3年以内」に着工する義務があったものの、需要の不透明さからスケジュールの見直しを余儀なくされた形です。
当初は2028年稼働開始を予定していたとされ、もちろん今回の延期によってその予定を遂行できる可能性が低くなっており、しかし現時点で新たなスケジュールは公表されていないまま。
EV販売の伸び悩みと、見通しの下方修正
この延期と同時に発表された2025年度第2四半期の決算報告では、トヨタはEV販売見通しを10%引き下げ、当初の27.7万台から25万台前後に「下方修正」。
2026年度末までに年間150万台のEV販売を達成するという中期目標は据え置かれたものの、市場動向次第では再調整される可能性も指摘されており、実際に「あと1年半で」EVの販売台数を25万台から150万台へと引き上げることは不可能に近いのかもしれません。
興味深いのは2025年1〜9月期のEV販売台数自体は前年比20.6%増の11万7,031台と伸びている点で、しかし想定していた成長ペースには大きく届かず、今回の「着工延期」につき、供給体制の拡大を急ぐよりも、「慎重な見極め」が優先された結果だといえそうですね。
EV減速はトヨタだけではない
世界的に見るとEV市場全体が「踊り場」を迎えており、米テスラの販売台数も伸び悩む一方、中国市場ではBYDが旺盛な需要を取り込もうとして価格競争を仕掛けるなど、需要の二極化が顕著になっているというのが現在の状況です。
欧州でもインフレやエネルギー価格上昇によってEV需要が鈍化し、各メーカーが戦略を再考して「ハイブリッド」へと舵を切っているのも既報の通り。
その中でトヨタは、急激なEVシフトよりもハイブリッド(HEV)とプラグインハイブリッド(PHEV)を軸とした多様化戦略を維持しており、これは同社が以前から掲げてきた「カーボンニュートラルはEV一択ではない」という哲学の延長線上にあるもので、今後もトヨタの軸となり続けるのは間違いないと思われます。
一方でレクサス向けEV工場は中国で前進
ただしトヨタにおけるEV戦略全体が後退したわけではなく、トヨタは2027年に中国・上海に新設するレクサス向けEV工場の準備を進めており、同工場ではLF-ZCおよびLF-ZLといった新世代EVモデルの生産を行う予定。
これは「中国市場はEVを中心に回っているから」で、つまりトヨタは「全世界で一律のEV推進」ではなく、地域やブランド特性に応じた柔軟な投資判断を取っているということがわかります。
今後の展望:「焦らず、着実に」
EV専用工場の建設を延期した背景には、「需要が確実にある状態で生産を開始する」という経営判断があり、稼働後に設備が遊休化するリスク、このバッテリーを使用して生産したEVが長期在庫化するリスクを避けるためでもあり、これは「極めて合理的な経営判断」。
今後、全固体電池の商用化や次世代プラットフォームの開発が進む中で、トヨタのEV戦略は再び大きく転換する可能性がありますが、ひとまず「焦らず、機を見て動く」——それがトヨタらしい戦略とも言えそうですね。
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参照:NIKKEI ASIA
















