
Image:Nissan
| 実際のところ、ピュアエレクトリックスポーツという「すぐに上書きがなされる」存在に興味を示す人は多くない |
それでもどこかで「成功例」が出てきてもいいのではと考えているが
日本の自動車技術の最高峰であり、世界中のスポーツカーを震撼させてきた“ゴジラ”こと、日産「GT-R」。
2025年8月に惜しまれつつもR35型の生産が終了し、世界中のファンが「次期型(R36型)はどうなるのか?」と固唾をのんで見守っているという状況です。
そして「R36」GT-Rにつき、2023年のジャパンモビリティショーで公開されたEVコンセプト「ハイパーフォース」の記憶から、多くのメディアや人々が「次世代GT-Rは1000kW(1360馬力)級のモンスターEVになる」と予想していたかと思いますが、今回日産の幹部が「日産は次期R36 GT-RにおいてピュアEV(電気自動車)化のリスクを回避し、”V6ツインターボエンジン+ハイブリッド”パワートレインを採用する決断を下した」とコメント。
つまるところ今までの様々な憶測を一蹴したファイナルアンサーがここに提示されたということになりますが、ここではなぜ日産がEV化を拒みガソリンエンジンの血統を残す選択をしたのか、そして海外のEVハイパーカー市場(リマックやロータス)が直面している冷酷な現実、そして判明しつつあるR36型のスペックについて考えてみたいと思います。
今回の要点(この記事のまとめ)
- EV化の見送り: 次期R36 GT-RはピュアEVではなく、「V6ハイブリッド」での登場が極めて濃厚に
- リマックやロータスの教訓: リマック・ネヴェーラやロータス・エヴァイヤなど、数億円規模のEVハイパーカーが市場で大苦戦している現実を日産は冷静に分析
- 現行バッテリーの限界: 日産の経営陣は「現在のリチウムイオン電池技術では、GT-Rらしい過酷なサーキット走行や連続アタックを支えられない」と断言
- 伝説のVR38ブロック継承か: 北米日産の幹部らは、R35で熟成を極めた名機「VR38」のシリンダーブロックをベースにしたハイブリッド化を示唆
- 2020年代末の登場へ: 排ガス規制(ユーロ7など)をクリアしつつ、日常使いからニュル最速までを両立する「グローバルハイブリッドスーパーカー」として2028〜2030年頃の発表を目指す

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現時点で「完全電動GT-RはGT-Rとは呼べない」
「ピュアEV化を見送ること」につき、日産のグローバル・プロダクト・ストラテジー部門の責任者であるリチャード・キャンドラー氏は自動車メディア『EVO』のインタビューに対し、極めて明確に次のように語っています。
「これまでに市場に投入された電動スポーツカー(EV)が、それほど大きな成功を収めていないのは明らかです。将来的にバッテリー技術が次の飛躍(全固体電池など)を遂げれば状況は変わるでしょうが、現行のテクロノジーでは、本物の『GT-R』と呼べるパフォーマンスを持った製品を造ることは不可能です。次世代モデルでピュアEVを選択することは絶対にありません。あり得ない話です」
この発言の背景には、驚異的な馬力や加速性能を誇りながらも、買い手がつかずに苦しむ新興EVハイパーカーたちの姿があり、2000馬力級の出力を誇るリマック・ネヴェーラ(Rimac Nevera)やロータス・エヴァイヤ(Lotus Evija)は自動車としてのスペックは超一流ではあるものの、市場での需要は大きく冷え切っているというのが偽らざる状況です。
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また、米国を中心に世界中でEVシフトへの熱狂が急速にトーンダウンし、各メーカーがハイブリッド車(HEV/PHEV)の増産へ路線変更しているリアルな市場動向も日産の背中を押すことになったのだとも考えられます。

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これに加え、北米日産のチーフ・プランニング・オフィサーであるポンズ・パンディクティラ氏も過去の取材にて「EVの試作車をテストしたが、ニュルブルクリンクを1周全開走行しただけでバッテリーが空になり、長い充電時間を要した。これではGT-Rの『本物(オーセンティック)の体験』とは言えない」と語っていていて、、開発の現場でもEV化への疑問が呈されていたわけですね。
ではR36 GT-Rはどんなクルマに?
次期R36型は完全な新設計シャシーを採用することになると言われていますが、その心臓部にはファンを歓喜させる「伝統」が息づく可能性が高まっています。
「VR38」の魂を宿すハイブリッドシステム
日産の幹部陣が最も高く評価しているのがR35型に搭載されていた3.8L V6ツインターボ「VR38DETT」の強靭なシリンダーブロック。
「これほど優秀なブロックを捨て去る理由はない。ただし、最新の排ガス規制(Euro 7など)に適合させるため、シリンダーヘッドやピストン、燃焼システムは最新の技術で完全に刷新されることになるだろう」と示唆されていて、つまり実績のある堅牢な骨格に最新のエレクトロニクスを組み合わせるという手法ですね。

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予想されるR36 GT-Rのスペック(現時点の予測・目標値)
| 次期R36 GT-R(予測スペック) | 参考:R35 GT-R(最終型) | |
| パワートレイン | V型6気筒ツインターボ + 電気モーター(HEVまたはPHEV) | 3.8L V型6気筒ツインターボ(純ガソリン) |
| 最高出力 | 700 hp 〜 800 hp以上(システムトータル) | 570 hp(NISMOは600 hp) |
| 駆動方式 | 新世代 4WD(電動アタッチメント付きATTESA E-TS進化版) | 独立型トランスアクスル4WD |
| 環境適合 | Euro 7 / 各国最新の排ガス・排出量規制に完全適合 | 規制強化に伴い2025年をもって生産終了 |
| 登場時期 | 2028年までに具体策発表、2030年までの発売を目標 | 2007年登場〜2025年生産終了 |
エミッション(排出ガス)規制をクリアするために電動化(ハイブリッド化)は必須ではありますが、日産が目指すのは「モーターを主役にした静かなエコカー」ではなく、「ターボの過給遅れ(ターボラグ)をモーターの瞬発力で補い、コーナリングでのトルクベクタリングをさらに緻密に制御するためのハイブリッド」であり、どこまでも速さを追求するための脇役として電力が使われることになるものと見られます。
自動車業界のパラダイムシフト
GT-Rのこの選択は現代のスーパーカー市場における「価値の再定義」を象徴していて、少し前までは1000馬力オーバーのEVこそが未来のスーパーカーの正解だと思われていましたが、しかし、実際に数億円を支払う超富裕層やコレクターたちが求めたのは直線が速いだけのデジタルな乗り物ではなく、「エンジンの鼓動、エキゾーストノート(排気音)、ギアが変わる瞬間のダイレクトな感触」という、極めてエモーショナルな体験であったことが近年の傾向から明らかに。
リマックやロータスの苦戦は、「スペックの高さがそのまま顧客の物欲に直結するわけではない」という教訓を業界に植え付けたのだと考えてよく、しかしジャガーやアウディなど一部のブランドは「それでもBEV」へと向かっているのが興味深いところでもありますね。
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ライバルたちとのパワーゲームの行方
R36がV6ハイブリッドを採用する場合、以下のような世界トップクラスのミッドシップ・ハイブリッドスポーツが直接の競合、あるいはベンチマークになってきます。
- フェラーリ 296 GTB: V6ツインターボ+PHEV(830馬力)
- マクラーレン アルトゥーラ: V6ツインターボ+PHEV(680馬力)
- シボレー コルベット E-Ray: V8+フロントモーター(655馬力)
- ポルシェ911ターボS:フラットシックス+電動ターボ(711馬力)
GT-Rは伝統的に「フロントエンジン(あるいはトランスアクスル)の2+2シート」という日常性を担保しつつ、これらのミッドシップ2シーター勢をサーキットでねじ伏せる「マルチパフォーマンス・スーパーカー」という独自のポジションを築いてきましたが、前出のパンディクティラ氏が「GT-Rは、子供の送り迎えや買い物といった日常のドライブにも使えるEVのような扱いやすさを持ちながら、サーキットでは狂暴なパフォーマンスを発揮する存在でなければならない」と語る通り、この間口の広さこそがポルシェ911ターボに対抗しうるGT-Rの真骨頂です。
そしてもう一つ重要な要素として留意すべきは「日産はEVに関しては長年のノウハウを持っており、かつフォーミュラEにも参戦して一定の成果を残しているため、電動化技術に関してはライバルに比較して一日の長がある」ということで、これはR36 GT-Rに対してアドバンテージとして機能することになりそうですね。

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結論
日産が次期R36 GT-RでピュアEVの道を一蹴し、ハイブリッドV6の選択に踏み切ったのは、流行に流されず「GT-RがGT-Rであるための条件」を愚直に守り抜こうとする日産開発陣の意地と執念とも受け取れるメッセージ。
一時は「ガソリンの爆音を響かせるゴジラはR35で絶滅する」と絶望視されていましたが、内燃機関の未来にはまだ一筋の光が残されており、他社のEVハイパーカーの失敗を冷徹に見つめ、バッテリーの技術的限界を正確に見極めた上での「熟成のV6+電動化」。このパッケージングであれば、ぼくらが愛したあの怒濤の加速、地を這うような4WDコントロール、そして五感を刺激するメカニカルサウンドが2030年代以降も受け継がれることは間違いものと思われます。
「半分に満たない価格で、世界最高峰のスーパーカーを狩る」。R36型が再びニュルブルクリンクのパドックに姿を現し、ポルシェやフェラーリを脅かすその日が数年内にも実現することとなりそうです。
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参照:EVO











