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高性能スポーツカーの定番、「カーボンセラミックディスク」はその価格だけの価値はあるのか?専門家「効きは鋳鉄ローターと一緒です」

フェラーリ

| そもそもいかにブレーキが強力であっても「タイヤの性能を超える制動力」は発揮できない |

ボク的に「カーボンブレーキ最大のメリットは「ダストが出ないこと」だと考える

さて、現代のスーパーカーに必須の装備が「カーボンセラミックディスク(ブレーキ)」。

これは標準似て装備される場合もありますが、オプションにて提供されるケースも少なくはなく、そしてその場合えてして「非常に高額」です。

その金額はおおよそ150万円〜250万円くらいに設定され、クルマのオプションとしてはもっとも高額な部類に属しますが、その価値があるのかどうかを考えてみましょう。

なぜカーボンセラミックブレーキが注目されるのか

まず、ブレーキディスクの素材として一般的な鋳鉄(キャストアイアン)は非常に優秀です。

安価で成形しやすく、何より熱伝導率が高いという特徴を持ち、そもそもブレーキの基本原理は、パッドとローターの摩擦によって運動エネルギーを熱に変えることなので、この「熱特性」は非常に重要です。

「鋳鉄ディスクは熱を吸収する能力に優れており、それがパッドの保護にもつながります」

ブレンボ北米 上級エンジニア エマヌエーレ・ブルレッティ

ただし鋳鉄は重いという問題があり、そして重量はクルマにとって大敵です。

近年の車両はパワーも車重も増え、それに伴いブレーキへの要求も高まっていますが、さらにタイヤの進化も制動力を引き上げ、ブレーキへの負担をさらに大きくしています。

加えてブレーキローターは「バネ下重量」に含まれるため、車体の運動性能に大きな影響を与えるうえ、「回転質量」でもあるため、加速や制動、旋回すべてに影響を及ぼすわけですね。

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軽量化の果てに:カーボン素材の登場

軽さを追求する中で、1960年代にダンロップはコンコルド用として炭素繊維強化炭素ブレーキ(カーボンカーボン)を開発していますが、1980年代にはF1でも一般的となり、しかしこれは冷えた状態では性能を発揮できないために一般道では使えません。

そこで登場したのが、炭素繊維をケイ素カーバイドで強化したカーボンセラミック。

軽量で高温にも耐え、冷間時でも機能するため、一般車両にも使えるようになり、製造時間はカーボンカーボンが数か月かかるのに対し、カーボンセラミックは数日で済むというメリットも(ただし鋳鉄なら数時間)。

この技術を初めて市販車に導入したのは2001年のポルシェ911 GT2で、翌年にはフェラーリもブレンボとの共同開発にて「エンツォ・フェラーリ」へと初導入。2009年には独SGLカーボンと共同で開発・生産を始め、現在では最大手のひとつとなっています。

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実際の軽量効果と性能面での違い

ブレンボによれば、カーボンセラミックの密度は鋳鉄の約1/3。例としてBMW M3/M4(前世代)のローターでは、標準フロントローターが約13.9kg、カーボンセラミックは約7.7kgなので「ほぼ半分」です。

ただし、制動力そのものには差がないと専門家は指摘しているのが興味深い点で、カーボンセラミックだからといってブレーキの「機械的出力」が上がるわけではなく、体感的に“効く”と感じるのは、車両メーカーがそのようにチューニングしているためだといいます。

さらに、ブレーキ性能はタイヤのグリップ力に依存しており、つまり、どんなに高性能なブレーキでも、タイヤのグリップ以上の制動力は得られないというわけですね(たしかにそのとおりである)。

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熱特性の違いと耐久性

カーボンセラミックディスクは熱伝導率が低く、質量も小さいため、高温でも耐えられる一方で、急激な温度変化によるストレスが大きいという課題も存在し、これを冷却設計で補っているというのが現在の状況だそうですが、さらには構造が均一でないため、繊維の配列や層構造によって熱特性も異なり、そこで、ブレンボでは追加のセラミック層を設けたり、複数の層構造(5層など)を採用することで性能を調整しているのだそう。

カーボンセラミックディスクブレーキの寿命は「使い方次第」

そうなるとカーボンセラミックディスクブレーキのメリットはいったい何なのかということになりますが、それは「寿命」だというのが一般の認識です(ただ、カーボンブレーキシステムはダストを出さないので、クルマの美観を保つという意味では非常に有用だとボクは考えており、これを一番のメリットに掲げたい)。

日常使用(街乗り)であれば、カーボンセラミックローターは非常に長持ちし、パッドは交換が必要ではあるものの、ローター自体の厚みは「減ることがない」。

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ただし、サーキット走行ではまったく状況が異なり、高速からの連続したハードブレーキングでは、ローター内部の炭素繊維が「燃え尽き」てしまい、熱容量が失われます。

そうなると、たとえローターにクラックが入らなくてもパフォーマンスが低下することとなり、実際に、ポルシェはGT3 RSなどのGTモデルに今でも鋳鉄ローターを用意していて、これは「サーキットで頻繁にブレーキを使うユーザーにとって、安価で交換しやすい鋳鉄の方が現実的」という理由から。

要するに、カーボンセラミックブレーキの存在意義はユーザー次第ということになり、街乗り中心であれば高価ながらも交換不要で軽量、かつ「ダストレス」という点にその価値を見出せそう。

サーキット重視なら消耗が早く交換コストも高いため、鋳鉄の方が適しているかもしれません。

長期的に見て(カーボンセラミックディスクは)コストを回収できる可能性もありますし、何よりその技術的魅力や運動性能への影響は計り知れず、しかしそこに価値を見出すかどうかは「クルマに何を求めるのか」で、それが選択のカギになるということですね。

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参照:Motor1

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  • この記事を書いた人

JUN

2013年より当ブログを運営中。 国産スポーツカー、ポルシェ、ランボルギーニ、フェラーリ等を乗り継ぎ現在に至ります。 単なる情報の記載にとどまらず、なにかしら自分の意見を添え、加えてクルマにまつわる関連情報(保険やメンテナンスなど)を提供するなど「カーライフを豊かにする」情報発信を心がけています。 いくつかのカーメディアにも寄稿中。

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