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| 「電動化」を活用すれば、これまでに不可能であったことも”可能”に |
電動化は「代替」ではなく「拡張」──ブガッティが挑む次世代ハイパーカーの哲学
ブガッティはトゥールビヨンに「V16」という現代では類を見ないエンジンをとうさいしていますが、これは「電動化とセット」であったからこそ可能となった組み合わせであり、それを支える根本的な考え方は「従来の高性能車に対する電動化の常識を覆すもの」です。
一般的に電動化は内燃エンジンの代替と考えられがちですが、ブガッティは電動モーターを「エンジンの感動を引き出すためのツール」と捉えています。
「電動パワートレインは非常に高性能でありながら、感情を揺さぶるV16自然吸気エンジンを引き立てる存在だ。この融合が可能なのは、電動・ハイブリッドパワートレインと内燃エンジンを極めて高いレベルで統合できたからだ。」
― メイト・リマック(Bugatti Rimac CEO)
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驚異のパワートレイン構成|8.3リッターV16+電動モーター
トゥールビヨンのパワートレインは驚異的な技術が凝縮された芸術品とも言える仕上がりを持っていて、この「V16自然吸気エンジン+ハイブリッドシステム」の合計重量はわずか430kgに収まり、先代シロンのW16エンジン単体とほぼ同じ重量に抑えられています。
- 8.3リッター自然吸気V16エンジン
- 8速デュアルクラッチトランスミッション(トルクベクタリング付き)
- 最高回転数24,000rpmを誇る250kW電動モーター(後輪)
- フロントには独立制御のデュアル電動モーター&専用インバーター
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圧倒的な軽量化とパッケージングの妙
フロント電動アクスルや新型T字型バッテリーパック(25kWh)は完全に車体構造に統合され、重量配分と剛性を最適化。
さらに、サスペンションは3Dプリントによるトポロジー最適化設計が採用され、従来比で45%の軽量化を実現しており、この結果、トゥールビヨンはシロンに対し、以下のような「全方位での」進化を達成しているわけですね。
- シロンよりも軽量
- シロンよりも高いパフォーマンスを実現
- シロンよりも荷室が広い(意外と重要)
ちなみにバッテリーパックは「フロアに敷き詰める」のではなく「T字型」を採用していますが、「全長1メートル近い」V16エンジンの前にこれを収めつつもこのボディサイズ(全長4,671ミリ)を実現しているのは驚異的。
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電動アシストがもたらす「瞬時のレスポンス」
なお、トゥールビヨンに積まれるエンジンは「自然吸気」そして先代のシロンでは「クワッドターボ」。
ターボを廃することで軽量性を得た反面、自然吸気エンジンの弱点である「パワーが立ち上がるまでのタイムラグ」が生じることになりますが、トゥールビヨンでは「瞬時にトルクを供給する電動モーターが完全に補完」することになり、クワッドターボよりも「リニアに」パワーとトルクを提供するうえ、高回転域では自然吸気エンジンならではのトルク感、そしてサウンドを楽しむことが可能となるわけですね。
「内燃エンジンが全開加速できない瞬間に、電動モーターが全力で応える。その上でV16の咆哮が重なるのだから、これ以上の感動はない。」
― メイト・リマック(Bugatti Rimac CEO)
さらに、800Vシステムの電動モーターはスターターモーター、発電機、パフォーマンスアシストの3役を兼ねており、従来の12V電装系も不要になっていると説明され、これがパワートレーン全体での軽量化そしてコンパクト化に貢献しているものと考えられます。
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60kmのEV走行も可能な高効率バッテリー
新設計の25kWh T字型バッテリーは以下のような特徴を持ち、この設計によってトゥールビヨンは約60kmのEV走行距離を確保し、静粛なEVモードも楽しめる仕様になっています(この60kmというのはPHEVといえどスポーツカーではかなり長い距離であり、フェラーリ296GTBでは25km、T-ハイブリッドを積むポルシェ911カレラGTSではEVモードでの走行ができない)。
- 1,500セル以上で構成
- 高度なオイル冷却システムを搭載
- 車体剛性を担保するパーツ一部として完全に統合
パフォーマンスと美しさを両立したデザイン
これら全てを搭載しながらも、トゥールビヨンは低くコンパクトで流麗なシルエットを実現し、ブガッティ伝統の短いオーバーハングもまた健在。
これは電動化を「後から付与する」という考え方では成し遂げることができなかったもので、「電動化ありき」によってなされた設計の賜物だと考えることができ、これはもちろんピュアエレクトリックハイパーカーを実際に発売するリマックの知見が生かされたところなのかもしれません。
あるいは、ブガッティ・トゥールビヨンは「ピュアエレクトリックハイパーカーに、その感動体験をもたらすための自然吸気V16エンジンを組み込んだ」逆転の発想を持つハイパーカーであると考えることもできそうですね。
- V16自然吸気エンジン
- デュアルフロントモーター
- 強化された冷却システム
- T字型バッテリーパック
- 大型荷室
メイト・リマックCEOのメッセージ|電動化は感動を高めるために
「このパワートレインを見た時、私はチームの成果に心から誇りを感じた。我々は単に電動モーターを追加したのではなく、互いを引き立てる完璧な融合を作り上げた。
V16は魂を、電動モーターは即応性と現代の精密さをもたらす。これこそが、電動化が“運転の楽しさ”を拡張すべき姿だ。」
― メイト・リマック(Bugatti Rimac CEO)
まとめ|トゥールビヨンが提示する電動ハイパーカーの理想形
- 電動化=内燃エンジンの代替ではない
- V16自然吸気×電動パワートレインの完璧な融合
- 超軽量かつ高剛性な革新的設計
- 電動アシストで即応性と高効率を両立
- デザイン、実用性、パフォーマンスを妥協なく統合
ブガッティ・トゥールビヨンは「未来のハイパーカーはこうあるべき」という新たな哲学を世に示した一台です。
ブガッティ・リマックCEOが「トゥールビヨンに盛り込まれた電動化に対する考え方」を説明する動画はこちら
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