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125年の歴史:メルセデス・ベンツのグリル進化論 – ハニカムからハイテクまでどう変わったのか。ブランドの「顔」を辿る

125年の歴史:メルセデス・ベンツのグリル進化論 – ハニカムからハイテクまでどう変わったのか。ブランドの「顔」を辿る

Image:Mercedes-Benz

| グリルの重要性:クルマの「顔」とメルセデス・ベンツの個性 |

メルセデス・ベンツのグリルはこのように進化してきた

クルマのグリルが持つ重要性は計り知れず、それはクルマの「顔」の決定的な特徴であり、そのクルマの持つ性格や個性を規定する要素でもあります。

例えば愛らしい「フロッグアイ・スプライト」や、「ブタ鼻」とも言われたBMWの個性、あるいは近年だとアルファードやヴェルファイアに見られる「迫力」が、ヘッドライトと並びグリルによって表現されていることは明らかです。

そしてメルセデス・ベンツのような歴史と高級感を兼ね備えたブランドにおいて、グリルの役割はけして過小評価できず、過去60〜70年のメルセデス・ベンツを見れば、クルマに詳しくない人でも、そのクロームの水平スラットとボンネット上のエンブレムから、メルセデス・ベンツであると容易に識別できるかもしれません。

しかし、この象徴的な顔は一夜にして生まれたわけではなく、冷却問題との戦い、スポーツモデルとラグジュアリーモデルの差別化を経て、メルセデス・ベンツのグリルは125年の歳月をかけて進化してきたという歴史を持っており、ここでその流れを追ってみたいと思います。

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1900年:冷却問題の解決と「ハニカム」の発明

自動車黎明期、エンジニアたちが直面した最大の課題の一つが「冷却」。

1900年、メルセデス・ベンツはこの問題を解決する重要な一章を確立し、それがメルセデス・ベンツ 35 PSに採用されたハニカム(蜂の巣状)ラジエーターです。

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  • 構造: 約6mm角の小さなパイプを8,000本以上組み合わせた設計を持ち、気流を増加させ、冷却効率を大幅に向上
  • 効率: 35 PSは、それ以前のモデルと比較して冷却に必要な水量を100%削減し、わずか9リットルで効率的な冷却を実現

その後メルセデス・ベンツは1911年に、より強力なモデルに尖った形状のラジエーター導入し、表面積を増やして冷却性能をさらに向上させましたが、これは製造が複雑であったため、低出力モデルでは平らなデザインが維持されたという記録が残ります。

1931年:保護カバーとしての「グリル」の誕生

ハニカムラジエーターの登場から数十年後の1931年、メルセデスは次の時代を定義する改善をもたらすことになり、それはメルセデス・ベンツ 170 (タイプ W 15)の登場です。

このモデルで、ラジエーター本体が保護カバー、つまり、今日ぼくらがグリルと呼ぶものの裏側に初めて配置されることに。

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  • デザイン: グリルはクロームのフレームで固定され、その上部には平らなバッジと、お馴染みのボンネットマスコット(立ち上がるエンブレム)が誇らしげに配置される
  • 機能: ハニカムデザインは維持され、気流を妨げず、道路上のゴミや破片がラジエーターを詰まらせたり、穴を開けたりするのを防ぐという信頼性の役割も果すことに

このデザインは、この時代のメルセデス・ベンツモデルの均一なレシピとなり、効率的で理にかなった、印象的な顔を確立することとなるわけですね。

1954年:時代を超越した「スポーツカーフェイス」の登場

1950年代、モータースポーツでの成功と戦後の興奮を背景に、メルセデスはスポーツカー市場へと本格参入。

象徴的な300SLガルウィングと優雅な190SLには、「スポーツカーフェイス」として知られる新しいグリルデザインが採用されています。

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  • 特徴: 垂直なハニカムカバーではなく、幅広く、浅く、スラット状のグリルが特徴。中央には巨大なスリーポインテッドスターが鎮座している
  • スタイル: この開いたスラット(横桟)は最適な冷却を可能にしつつ、クロームのラインが紛れもなくメルセデスらしい、時代を超越したスタイリッシュさを表現

1972年:レンジ全体に広がる「エグゼクティブ・ルック」

1972年、後のSクラスの先駆けとなる豪華なエグゼクティブセダンである450 SELが登場し、この時、新たに様式化されたメルセデスの「エグゼクティブ・フェイス」が確立されたと認識されています。

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  • 特徴: 幅広でスラット状のグリルが採用され、モデルによって寸法は変わるものの、このデザインが小型の「ベビー・ベンツ」190EからフラッグシップのSELまで、数十年にわたり全モデルに採用される
  • 狙い: グリル一つでモデルラインナップ全体に統一された顔を提供し、どのモデルも一目でメルセデス・ベンツと識別できるように

なお、時代が進むにつれてグリルはよりシンプルになり、スラットの本数が減少し、控えめなデザインへと変遷することによって「時代が求める」エグゼクティブ・モデルにふさわしい「豪華でありながらも派手ではない」という価値観へと適合するように進化しています。

2007年:選択肢の提供とデザインの二極化

2007年は、メルセデスが2種類のグリル・バリエーションを提供した最初の年となり・・・。

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  • クラシック: 伝統主義者向けに、従来のクラシックなデザイン。
  • スポーティ: 当時台頭していた「アグレッシブなドイツ車」の雰囲気を好む顧客向けのデザイン。
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このテーマは現代まで続き、AMGモデルで人気のパナメリカーナ・グリルやダイヤモンド・スタッズ・グリルなど、多様なスタイルが提供されています。

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さらに、Gクラスのミニマルな3バーグリル(2008年)や、マイバッハの垂直スラット(2010年)など、各モデルラインが独自の個性を主張するデザインも導入され、ラインアップに応じた、そのキャラクターに相応しいデザインが導入されたのもこの時期ですね。

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更にその後になると「EQ」シリーズにてツルッとした表面を持つグリルが登場し・・・。

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それらの「AMG版、マイバッハ版、ダイヤモンドスタッズ版」など様々なバージョンも示されています。

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直近だと、新型GLCのように「全面発光する」グリル、そして・・・。

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コンセプトカーだとヴィジョン・ワンイレブンやAMG GT XXのように「フレームが光る」「情報を表示するピクセルを持つ」ものも出現しており、これらはメルセデス・ベンツのコアモデルが再び伝統的なデザインから逸脱する可能性を示唆しています。

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しかしその一方、ブランドの象徴的なイメージを維持するため、(新型GLCがそうであるように)伝統的なグリルが主要モデルで引き続き採用され続ける可能性も低くはなく、メルセデス・ベンツはグリルにおいても「革新と伝統」という両輪にて突き進むこととなりそうですね。

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参照:Jalopnik, Mercedes-Benz

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