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| わずか13kgで1,000馬力──YASAが再び世界記録を更新 |
今後のEVは「搭載するエレクトリックモーター」による「差別化」が可能に
メルセデス・ベンツ傘下の英国企業YASA(ヤサ)が、世界最強クラスの電動モーターを開発したと発表。
今回の試作ユニットは出力密度59kW/kg(79馬力/kg)を記録し、同社が今年夏に打ち立てた42kW/kg(56馬力/kg)という従来記録を大幅に更新するものです。
そして驚くべきことに、このエレクトリックモーターは重量わずか12.7kgながらも最大出力750kW=1,006馬力(1,020PS)を発生するという驚異的なスペックを誇っており、つまり幼児より軽いモーターがスーパーカー並みの出力を持つということになりますね。
そしてもちろん、このパワーユニットは「トランスミッション」「エキゾーストシステム」というガソリン車に必要なコンポーネントを必要とせず(インバーターやバッテリーは必要ではあるものの)、これまで「重量が最大の課題」とされてきた電動ハイパフォーマンスカーの未来を切り開く存在となるのかもしれません。
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メルセデスAMGが次世代EVへ採用予定
このモーターを開発したYASAは、2021年にメルセデス・ベンツが買収した英国オックスフォードシャー拠点の電動技術企業(ケーニグセグ、フェラーリもYASA製のエレクトリックモーターを自社のハイブリッドスポーツカーに組み込んでいる)。
そしてメルセデス・ベンツは、今後登場予定のAMGブランドの次世代EVセダンおよびSUVに対し、この新しいアキシャルフラックスモーターを採用する計画を進めているといい、このモーターは単なる実験モデルやサンプルではなく、実際にベンチテスト上にて稼働がなされたプロトタイプだとされ、YASAによれば 「特別なレアメタルを使用せず、量産可能な製造技術で作られている」。
つまり、これは現実の市販車に搭載できる“リアルな技術”であるということですね。
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アキシャルフラックスとは?──EVモーターの新構造
一般的なEVは「ラジアルフラックス(放射型)」モーターを採用していますが、YASAの技術は「アキシャルフラックス(軸方向型)」と呼ばれる方式。
この設計ではモーター内部のローターが薄い円盤状となっており、トルクと出力密度を飛躍的に高めることが可能です。
「これは画面の中だけにある概念ではありません。すでにダイノ(試験装置)で稼働しています。
YASAの次世代モーター設計を現実のものとする大きな一歩です。」YASA創業者兼CTO ティム・ウールマー
この構造によって同重量のモーターに比べて最大3倍の性能密度を実現することとなりますが、EVの「軽量化」と「高出力化」の両立が可能になるとされ、ある意味ではソリッドステートバッテリー以上に期待がかかる電動化技術なのかもしれません。
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出力特性──連続出力でも常識破り
なお、現実世界で重要となるのが「連続出力」。
最大出力がいかに高くとも、すぐにパワーダウンしてしまうのでは意味がなく、しかしYASA製の新しいアキシャルフラックスモーターでは「最大出力こそ1,006馬力」に加え、連続出力でも350〜400kW(約470〜600馬力)を維持可能。
これを28ポンド(約13kg)のユニットひとつで実現している点が最大の驚きです。
従来のモーターでは高出力化に伴う熱問題や重量増が避けられなかったものの、YASAの技術では冷却効率と構造設計の最適化により、極めて軽量なまま高負荷運転を持続可能としている点にも「要注目」。
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EVパフォーマンスの「未来」を塗り替える技術
このYASAモーターの登場は、EV業界における「パワーウエイトレシオ革命」とも言える出来事で、もしメルセデスAMGがこのモーターを量産車に搭載すれば、EVスーパーカーの常識──“直線は速いが重いため、コーナーでは遅い”──という認識が覆される可能性が見えてきます。
さらに、軽量・高出力という特性は航続距離にも寄与し、高性能モデルだけでなく、今後は小型軽量EVやスポーツEVにも応用可能になるとも見られており、ある意味では車体のデザインすら(そのコンパクトさに起因して)変えてしまうのかもしれません。
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【まとめ】「幼児より軽いモーター」が1,000馬力を発生する時代へ
わずか13kgのモーターで1,000馬力。
これは単なる技術デモではなく、メルセデスAMGの次世代EV戦略の核心を示すもので、「軽く、効率的で、そして圧倒的にパワフル」──YASAのアキシャルフラックスモーターは、EVが抱える最大の課題「重量と熱」を打破し、これからの電動スーパーカーの姿を根本から変える可能性も見えてきます。
さらには出力だけではなく「モーターの(構造、形式、重量面での)差別化」が可能になるという点において、ガソリンエンジンでいう「V12、V8、V6」のようなヒエラルキーが生じる可能性もあり、今までの「EV、それに搭載されるエレクトリックモーターはどれも一緒で個性がない」という考え方が大きく変わってくるのかもしれません。
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参照:YASA















