| ボクはこのポルシェのレストモッダーの意見に激しく同意する |
MTが楽しいことには間違いないが、それが負担になってしまうのは本末転倒である
さて、現在は空冷時代のポルシェ911のレストモッドが大盛況という状況であり、しかしこの多くはシンガー・ヴィークル・デザインの確立したレシピに従ったものばかりです。
つまりは964や993世代の911を「初代911風へと」巻き戻すというものですが、今回オランダのKCパフォーマンスが一風変わったレストモッドを提示していて、それは「空冷世代の911にPDKを搭載する」というもの。
なお、PDKは水冷世代の911で実装された技術であり、それまでのポルシェのATといえば「トルコン式」ATであったわけですね。
993世代の911へとPDKをインストールするのは簡単ではない
よって空冷時代のポルシェ(の市販車)にはPDKが存在せず、しかしKCパフォーマンスは過去のポルシェと現代のポルシェの持つテクノロジーとを融合させることに果敢にチャレンジしますが、この挑戦を行うきっかけとなったのは「これまでポルシェのレストモッドを行ってきた経験の中で、空冷911のエンジンコントロールユニットの打ち替えを通じ、エレクトロニクス方面の知識を蓄積する機会を得たから」なのだそう。
加えて、KCパフォーマンスの共同創設者の1人であるカジミール・フォン・ホーイドンク氏は常々「古い911をハイパワー化すると、より強力なクラッチが必要になり、その場合、ほぼ例外なくペダル操作が重くなってしまい、これが911の楽しさを阻害している」と感じていたといい、様々な要因が重なって「空冷911に現代のPDKを搭載する」という難易度の高いコンバージョンへと挑むこととなったようですね。
同社は古いクルマに最新の(BMWが好んで用いる)ZF製8速オートマチックをスワップした経験を豊富に持っているといい、よって空冷911にPDKをインストールするという考え方はごく自然にでてきたものの、「エンジンとECUまるごと」スワップするのであればまだしも、空冷エンジンを残したままトランスミッションをPDKへと入れ替えるため、これをフィットさせるのは極めて複雑な作業です。
そのためには(一例として)エンジンとトランスミッションを結合するための独自のアダプタープレートを設計しフライス加工にてこれを製造することになりますが、KCパフォーマンスいわく「この設計を行うことができる工場は他にいくつかあるかもしれないが、実際にアルミニウム部品をこの精度で製造できるほど正確なCNC作業を行える工場は多くはない」。
なお、KCパフォーマンスは(ZF製8速ATのスワップを大量に行っていることでわかるとおり)BMWとの大規模ビジネスを展開しており、そのためBMWのパーツに精通しているそうですが、よって今回のPDKスワップに際してもペダルなどいくつかのパーツはBMWからの流用品。
さらに同社はエレクトロニクス分野にも明るく、このスワップではその知識がいかんなく発揮されることになりますが、電子スロットルの調整や燃料噴射と点火タイミングなどはすべて自社で行うことになり、空冷フラットシックスの性能を最大限に引き出せるようにこの調整を行うほか、物理的なセンターコンソールの変更などの作業も同時進行にて行うことに。
そうして完成した「空冷911+PDK」のシフトフィールは正確かつスムーズ極まりなく、前出のカジミール・フォン・ホーイドンク氏いわく「911GT3 RSのギアボックスを見ると、ギアがガンガン入っています。 私たちのクルマにも同じことができます」。
なお、面白いのは「内装を全く純正と同じ」に保つこともできるということで、この場合のシフトチェンジは(ステアリングホイール上に備わる)ロッカースイッチにて行うことになり、しかしもちろん「PDKシフトレバー」に換装することも可能です。
そしてこのPDKスワップはいくつかの興味深い可能性ももたらすことになり、エンジンに追加されたハードウェアによって、最新のトラクション コントロールの使用が可能になり、そのほかの最新のポルシェが持つテクノロジーが使用可能となること。
このPDKスワップは全空冷世代の911に適用が可能だそうですが、たとえば「(本来は存在しない)AWDを備える930ターボ」も現在製作中だといい、さらにはポルシェだけではなくBMW M3から移植したABSシステムを組み込むこともできるのだそう。
KCパフォーマンスは「ここまでの道のりは平坦なものではありませんでした」と語り、実際に最初のPDKスワップを行うのに要したのは1,500時間。
しかしそのおかげで「ベース技術」を確率できたため、いまではもっと少ない時間でスワップを行うことが可能となり、ずっとトータルでの作業時間が短縮された、とのこと。
「せっかくの空冷+MTをAT化するとは」という向きもあるかもしれませんが、クラッチ操作が気になって運転を楽しめないケースがあることは間違いなく(実際に、ぼくがランボルギーニ・ガヤルド購入時にMTではなくロボットクラッチを選んだのも同じ理由で、ただでさえ最低地上高や視界に気を使う必要があるスーパーカーにおいて、より神経をすり減らす要因を増やしたくなかった)、このPDKスワップは多くの支持を集めることになるのかもしれません。
私たちには、空冷世代の911を所有している顧客が何人かいますが、彼らはガレージにクルマを置いているだけで、運転することはほとんどありません。日曜日などに短いドライブをするためにクルマを運転することはあるものの、平日は決して運転しません。
彼の見解では、それは「残念」ということです。クルマは楽しむためにあるのです。
結局のところ、重要なのはドライバビリティです。 私たちと多くの(911のレストモッドを行う)企業との違いは、私たちの製品だと、顧客は毎日、一日中、どのような環境でも安心して運転することができるということです。
つまりKCパフォーマンスは「より安心し、より確実に、誰でも、どんな環境でも」空冷911を運転でき、そしてそのパフォーマンスを引き出せるようにすべくこのPDKスワップを行っているということになり、より安価かつ容易に「AT化」できるシングルクラッチ(ロボットクラッチ)を使用せず茨の道を進むのもここに理由がありそうですね。
ただ、そのコストは安くはなく、5万ユーロ(現在の為替レートにて約835万円くらい)に設定されています。
PDKをインストールしたポルシェ911(993)を紹介する動画はこちら
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