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衝撃の復権。ポルシェ史上最も物議を醸した「目玉焼き」ヘッドライトが最新911(992型)で芸術的復活を遂げる

衝撃の復権。ポルシェ史上最も物議を醸した「目玉焼き」ヘッドライトが最新911(992型)で芸術的復活を遂げる

| ついに「目玉焼き」ヘッドライトが一周回って注目を浴びる |

今までは批判の対象でしかなかった「目玉焼き」だが

「ハイウエストジーンズ」「ストーンウォッシュ」や「マレットヘア」、そしてアスレジャーと名を変えた「レオタード」など、かつて不評だったスタイルが再評価されるように、自動車デザインの世界でも「物議を醸した過去の遺産」が注目を集めることも。

その最たる例が、1997年に登場したポルシェ911(996型)の、通称「目玉焼き」(Fried Egg)、としても知られるヘッドライトです。

当時のポルシェファンから賛否両論を巻き起こしたこの異形のライトを、3Dモデリングの専門家「Simas Design Studio」が、なんと最新の992世代911に移植するという大胆なレンダリングを公開して大きな話題となっていますが、この「目玉焼き」デザインは現代の911の洗練されたボディとはたして調和するのか、そしてなぜこのデザインは「醜い」とまで言われながらも、今なお多くの人の記憶に残り続けるのか。

ここでは、そのレンダリングの「天才的な工夫」と、996型ヘッドライトが誕生した「コスト削減の闇」に迫ります。

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Image:Porsche

ポルシェ
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要約:996型ヘッドライトとは何だったのか

  • デザインの再解釈: 「目玉焼き」のハウジング形状を維持しつつ、インテーク(吸気口)として再構築することで機能性とスタイルの両立を実現
  • 反響の大きさ: 公開されたレンダリングに対し、一部の992型オーナーから「3Dプリントでキット化できないか」という問い合わせが寄せられるほど、大きな関心を集めている
  • 誕生の背景: オリジナルの996型ヘッドライトは、コスト削減のため、911とボクスター(986型)で部品を共有した結果生まれたデザインである
  • 論争の進化: 当時のインターネット文化の台頭により、この論争は急速に拡大し、ポルシェはすぐにアンバー色を排除するデザイン進化を余儀なくされた。さらに996のフェイスリフトでは「ボクスターとは異なる」”涙目”デザインを採用し差別化を図っている

詳細:デザインの天才的再構築と機能性の追加

① 996型「目玉焼き」のオリジナル問題

オリジナルの996型ヘッドライトは、ヘッドライトとターンシグナル(ウインカー)の二つの機能を一つのユニットに統合し、さらにボクスターと共通化することでコスト削減を図ったもの。

この統合されたレンズの中に見られたアンバー(オレンジ)色のインジケーター(方向指示器=ウインカー)部分が「目玉焼きの黄身」のように見えることから、当時のポルシェ純粋主義者から強烈な批判を浴び、「目玉焼きヘッドライト」と揶揄されるようになったわけですね。

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Image:Porsche

なお、批判は「その見た目の奇異さ」のみならず、ボクスターと同じデザインを採用したことにも及んでおり、ぼくの記憶だと、当時は後者のほうが大きな論争を呼ぶことになったと記憶しています(実際、ポルシェはモデルライフ後期において996のヘッドライトのデザインを変更し、ボクスターとの差別化を図っている)。

今ではそういった論調は影を潜めているものの、当時の「911純粋主義者」によるボクスターへの批判や嫌悪は凄まじく、ぼくもそのアオリをうけた一人です。

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Image:Porsche

② Simas Design Studioの「デザインの妙」

Simas Design Studioによるレンダリングは、単に996型のライトを貼り付けただけではなく、彼らはこの「目玉焼き」の形状を現代に蘇らせるために決定的なデザインの工夫を加えています。

  • 形状の維持と分割: ハウジング全体の形状は996型を踏襲しつつ、オリジナルのアンバーパッチ部分を「インテーク(吸気口)ベント」として表現
  • 機能性と美学: このインテークは、デザイン全体を分解し、形状に機能性を持たせることで、現代のポルシェらしい説得力のあるデザインに昇華させている

もしポルシェがフェイスリフトとしてこのデザインを採用したとしても、「新しいものはすべて嫌い」という少数の古参ファンを除けば、多くのファンが受け入れるのではないかと思えるほどの完成度を持っており、もしかするとどこかのショップがに提携を持ちかけ、実際に商品化してしまうかもしれません(来年のSEMAショーに展示されそうだ)。

ちなみにヘッドライト周辺にエアインテークを設けるというのはBBプレリュードやフェラーリ296GTBでも採用される手法であり、今回のレンダリングはこの手法を「涙目」をマッチさせたという秀逸なアイデアの成せる技ということに。

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「嫌われたデザイン」と誕生の裏事情

批判の根源は「コスト削減」

996型が1997年に発表された際、それは911初の水冷エンジンを搭載した全く新しいシャシーであり、そのデザインには全世代との決別を示す必要があったと言われます。

かくしてポルシェは「丸目」を廃して涙目ヘッドライトを採用したわけですが、しかしこのヘッドライトデザインへの強い批判の裏には、(上述の通り)デザインというよりも当時のポルシェの財政的な危機が関係しています。

  • デザイン共有: 996型911は、同時期に開発されていたエントリーモデルのボクスター(986型)と部品を共有
  • 純粋主義者の反発: 911と安価なボクスターが同じ目を持つこと、そしてコスト削減のためにデザインが「安っぽく」なったという認識が熱狂的な911ファンからの強い反発を生む

この背景には、それまで「どんな細部に至るまでもこだわり抜いてきたポルシェが、コスト管理(利益)のために妥協しプライドを捨てた」という「可愛さ余ってにくさ100倍」というファンならではの心理が働いていたのかもしれません。

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Image:Porsche

インターネットが生んだ炎上

996型が登場した当時、インターネットが急速に普及したことで文化的な大変革期を迎えていて、ニュースグループやフォーラムが意見交換の場として爆発的に人気を集めていたこともこの論争に輪をかけてしまい(エヴァンゲリオンが人気化したのも同様の理由で、ネットの普及によって論争や議論が活発するという、それまでのアニメにはない傾向が関係したからだという説もある)、この新しい情報共有の場によって「目玉焼き」ヘッドライトは瞬く間に論争の的となり、インフルエンザのような勢いで批判が拡大することに。

ポルシェはこれを受けて、すぐにアンバー色を廃止するなど、デザインの進化を急いだという事実もあり、いかに当時このデザインとポルシェによる「コストダウン」が反感を買ったかがわかりますね。

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Image:Porsche

結論:「醜さ」の中に潜む個性と魅力の再評価

Simas Design Studioのレンダリングは、かつて最も論争を呼んだ911のアイデンティティを現代の技術とデザインセンスで見事に「再定義」できることを示しています。

996型ヘッドライトは、ポルシェの歴史における「コストとデザインの妥協」の象徴であり、それが故に長らく中古市場で不当に評価されてきたという現実も。

しかし現代の文脈で見ると、その個性的で大胆なデザインは、他の911にはないユニークな魅力として再評価され始めているのものまた事実であり、今回の実験的なレンダリングは「レトロモッド(懐古趣味的な改造)という大きなビジネスチャンスをも感じさせ、「誰もが嫌った(ただしぼくはけっこう好きだった)」目玉焼きデザインが、現代の911オーナーにとっての「洒落たカスタマイズ」として復権する日を予感させています。

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Image:Porsche

なお、ぼく的には「目玉焼き」デザインについては高く評価していて、それは「パーツ点数が減ることで軽量化につながる」「変わろうとするポルシェの意思表示が感じられる」からであり、そのため997世代で「丸目に戻り」、そしてヘッドライトとウインカーとを分離させパーツ点数を増やしフロントオーバーハングの複雑さと重量が増してしまった997については「(デザイン的に)残念」だと感じたほど。※つまりポルシェが自身の意思を貫けず、ファンに日和ったと感じたわけである

ただしポルシェのヘッドライトは電動化世代に入って大きな進化を見せており、今後ポルシェが911や718シリーズのヘッドライトをどう変化させてゆくのかにも注目が集まります。

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参照:Simas.art(Instagram)

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