| 新体制下では豊田章男社長の思想を継続、しかし新しい取り組みも |
新しいトヨタは「電動化」「知能化」「多様化」を目指す
さて、トヨタは先日社長の交代を含む新しい人事を発表していますが、今回は次期社長、佐藤恒治氏が新しい体制に向けたコメント発表することに。
ここでその内容をかいつまんで紹介したいと思いますが、まず新体制のテーマは「継承と進化」。
「継承」というところだと、豊田章男社長が13年続けてきた「いいクルマづくり」「商品と地域を軸にした経営」を受け継ぐことを示しており、TNGAプラットフォームやカンパニー制の導入(トヨタは事業部をカンパニーと呼んでおり、その管理者をプレジデントと呼んでいる。加えて社内競業も禁止して体制をシンプルにしている)によって、リーマンショック(2008年)時代に比べると大幅にすべてが効率化できたといい、損益分岐台数が30%も下がったと述べています。
そして佐藤恒治次期社長はこの体制を継承し、4月からは「豊田章男経営」をベースにした経営を行う、と宣言したわけですね。
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新体制では「モビリティ・カンパニーへの変革」を目指す
この豊田章男経営において重要であったのはいいクルマを作るために「機能ではなくクルマ」を軸に考えることだそうですが、これをベースに進化を目指し、その方向は「モビリティ・カンパニーへの変革」。
さらにこれを細分化した3つのテーマを掲げていて、それは「電動化」「知能化」「多様化」だと定義しています。
そこでまず電動化について見てみると、トヨタがここで重視するのは「エネルギーセキュリティを視野に入れたクルマをつくること、そして、カーボンニュートラル社会の実現に貢献すること」。
ただし電動化といってもこれまで同様に「様々な選択肢を顧客に届ける」という”マルチパスウェイ”を軸とするようで、つまりは純EVつまりBEVだけではなくPHEVやハイブリッドも含むということになるもよう。
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ただ、PHEV、ハイブリッドについては(今回の発表の趣旨ではないので)触れられておらず、今回強調されたのは新しいBEVを開発するということ。
トヨタはEV用プラットフォームとしてE-TNGAを持ちますが、これはコストが高い上、損益分岐点が200万台と言われており、しかしどんどんEVの価格が下がっている中で200万台を販売することが至難の業となっています。
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そこでトヨタは「E-TNGAを捨てて、コストダウンを図れる新型EV(プラットフォーム)の開発に乗り出すと言われていたのですが、今回の声明においては「レクサスらしいBEVをつくる中で、トヨタが目指すBEVのあり方が見えてきた」「従来とは異なるアプローチでBEVの開発を行う」ことについて言及しています。
具体的には「2026年の発売を目標とし、バッテリー、プラットフォーム、車体などをすべてBEV最優先で考えた、次世代のEV」を発売すると述べていて、佐藤恒治次期社長はレクサスのプレジデントを務めていたので、そこで培ったノウハウを生かしたEVづくりを行うということになりそうですね。
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ただ、この次世代EVについては深く掘り下げられておらず、どういったEVなのかは全くナゾ。
しかし佐藤恒治次期社長はレクサスにおいて「フェイクMT」の開発にも携わっていたので、価格が安かったり、単に航続距離が長いというだけではなく、「走って楽しい」クルマを目指しているのかもしれません。
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加えてレクサスはアメリカにおいて「Like atracts Like」という新しい電動化のキャンペーンをスタートさせており、このコンセプトの一つは、今回の声明でも触れられている「多様化」なので、ここにヒントが隠されているとも考えられます。
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トヨタはクルマの「知能化」についても注力
そして2つ目のテーマは「知能化」。
これについては「自動車メーカー(トヨタはこれをクルマ屋と呼ぶ)にしかできない知能化」を行うと述べており、上述の「機能軸ではなくクルマ軸で語る」という考え方と関連性があると考えて良さそう。
そしてクルマ屋にしかできない知能かとは、ドライバーからのインプット、タイヤ状態など様々な情報を統合して解析し、燃費を良くしたり、乗り味を変えたり、安全運転をサポートしたり、”乗る人ひとりひとりにあわせて」クルマの価値を高めることができるとコメントしています。
これを可能とするのがソフトウェア基盤のAreneで、このAreneは、販売店との連携やアプリを通じた新しいサービスにもつながることになり、ハード(クルマ)とソフト両面からの知能化に取り組むようですね。
やはり「多様化」も欠かせない
最後となる3つ目のテーマは「多様化」だとされ、トヨタは「地域ごと、世代ごとに、お客様の多様なニーズや価値観がある」と述べていて、だからこそクルマにも様々な選択肢が必要だと主張し、「グローバル・フルラインナップ」メーカーでありながら、地域や環境に密着したクルマを作ってゆく、と改めて語っています。
たしかにトヨタのこういった「テーマ」を聞くと、それぞれに一貫した主義主張があり、各々がリンクしているということは十分にわかるのですが、ことEVや「知能化」に関しては結果が出ておらず、しかしこの「多様化」は一定の成功を収めていると考えられ、これによってトヨタは2022年に世界自動車販売台数ナンバーワンに輝くことができたのだと思われます。
参考までにですが、フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツ、そしてフォードなどのライバルは「多様化」つまり消費者の嗜好に細かく対応することをロスだと捉えており、そのため少数意見については容赦なく切り捨てる傾向にあるものの、トヨタはそこにもしっかり対応しており、この積み重ねがトヨタをトップ企業に押し上げたとも考えられます(これは非常にコストがかかる作業ではあるが、冒頭に掲げた通り、トヨタは効率化によって損益分岐点を引き下げている)。
さらにトヨタは「重点事業三本柱」も
そして今回トヨタは「重点事業三本柱」についても掲げていて、一つ目は、「次世代BEVを起点とした事業改革」。
佐藤恒治次期社長は「魅力的なBEVをより多くのお客様にお届けするには、クルマの構造を合理化し、BEVファーストの発想で、モノづくりから販売・サービスまで、事業のあり方を大きく変えていく必要があります。その変革をリードするのが、レクサスです」と語っており、トヨタの電動化はレクサスから始まるということに。
その理由は明かされていないものの、レクサスはプレミアムブランドなので、車両価格が高くとも許されるという事情があり、その価格の高さを正当化するために様々な付加価値を付与すると考えていいのかも。
さらに二つ目は、「ウーブンの取り組み強化」で、これは以前からトヨタが(ウーブンシティにて)取り組んでいる新たなモビリティ社会の創造、それを実現する社会インフラまで含めたモビリティのあり方を追求する活動です。
最後の三つ目は「アジアにおけるカーボンニュートラルの実現」で、タイ最大の民間企業CPグループとのパートナーシップを活用し、産業や国を越えた連携を通じ、電動化やモビリティの実証を進めることについてもアナウンスされています。
トヨタによる新体制発表会見動画はこちら
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参照:TOYOTA