| この事故、そしてその後の回復はモータースポーツ史上もっとも有名なストーリーのひとつでもある |
この損傷を見るとニキ・ラウダが耐えねばならなかった「地獄」がありありと伝わってくる
さて、ボナムズがマイアミにて開催するオークションに出品されるとして大きな話題を呼んだ「ニキ・ラウダのヘルメット」。
ただしこれは単なるヘルメットではなく、1976年のF1ドイツGPにてニキ・ラウダがフェラーリ312T2を駆った際に着用したもので、御存知の通りそこで「モータースポーツ史上もっとも有名な」事故が起きてしまうわけですね。
このヘルメットが今まで保管されていたことも驚きですが、今回オークションに登場するとアナウンスされ、60,000ドル(現在の為替レートでは約918万円)という高額な予想落札価格が提示されたこともまた驚きです。
なお、売上金はすべてチャリティに寄付される予定であったものの、今回何らかの事情によってオークションが「取り下げられる」こととなっています。
このニキ・ラウダのヘルメットは当時の事故の凄まじさを物語る
このヘルメットはAGV製で、バイザーは焼けただれてその上のステッカーは文字が判別できないほどにまで焦げており、表面には熱のために生じた気泡、さらには多くのスポンサーロゴが(熱のためか)剥がれ落ちることに。
なお、この事故の際にはヘルメットが(衝撃で)脱げてしまったとされますが(映画「ラッシュ/プライドと友情」でもそのように描写されている)、それでもヘルメットがこれだけ焦げ、そして溶けているということは”ほんの一瞬”であっても非常に高い熱にさらされたということを意味しており、その後ライバルたちの懸命の救助活動によって救出されるまでにニキ・ラウダが耐えねばならなかった”地獄”がどれほどでああったのかを改めて思い起こさせます。
ドイツGP開催当日は雨天であり、皮肉なことにニキ・ラウダはこのレースを「安全対策の欠如のため」ボイコットすることを考えていたものの、過半数のドライバーがレース開催に賛成票を投じたためにレースの開催が決定されていますが、これまでのモータースポーツ史上においても「懸念していたレースで事故に遭う」例は少なくはなく、トップレベルのドライバーには常人には知ることができない超常的な予知能力のようなものがあるのかもしれません。
このときニキ・ラウダはポイントリーダーであり、しかしレース開催後の序盤にスピンしてバンクに衝突、さらにコース上に跳ね返って炎上し(ヘルメットの熱による損傷はこのときのものだと思われる)、その後ブレット・ルンガーに衝突され(このときにヘルメットが飛んでいった)、さらにブレット・ランガーがハラルド・アートルに衝突されることに。
病院へと返送された後には生死の境を彷徨ったほどの重症であったにもかかわらず、ニキ・ラウダは奇跡的に回復し、信じられないことにわずか2レースを欠場しただけでF1マシンのコクピットに戻り、イタリアGPでは4位に入賞しています(この事故の直後、そのレースが終了するまでにエンツォ・フェラーリはニキ・ラウダの後任ドライバーを手配しようとしたといい、つまりはそれほど絶望的な状況であったのだと思われる)。
なお、この雨のレースでのクラッシュはニキ・ラウダに大きなトラウマを残すこととなり、同年の「チャンピオンシップの行方を決する」雨の日本GPを2周走った後に(自身の選択で)リタイヤしていますが、もしリタイヤしていなければ、この年のチャンピオンはニキ・ラウダであったであろうことは想像に難くありません(ニキ・ラウダのリタイやにより、ジェームス・ハントがわずか1ポイント差でチャンピオンとなった)。
今回オークションが取り下げられた理由については不明ではありますが、おそらくはまたどこかで競売にかけられる場面があるものと思われ、”モータースポーツの安全性に対する考え方を変えるきっかけとなった”このヘルメットは、今後も複数のコレクターの手を経ながらも歴史の生き証人としてその価値を維持し続けることになりそうですね。
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参照:Bonhams