| ここまで割り切ったクルマはもう二度と登場することはないだろう |
総生産台数はわずか492台、工場が火事で焼けてしまったとも言われるが
さて、世界ラリー選手権(WRC)に参戦するために設計された最初のモデルであり、最も成功したラリーカーのうちの1台、ランチア・ストラトスHFがオークションへと登場予定。
1970年のトリノ・オートショーにて発表され、その例を見ないデザインにて見る人を驚かせたることになりますが、その生産第一号車が完成し工場の門をくぐって出てきたときには、そこに集まった従業員から喝采を浴びたという伝説のクルマでもありますね。
その中でもひときわ大きな歓声を挙げたのがランチアの広報部長サンドロ・フィオリオと、その息子でラリー部長のチェーザレ・フィオリオだったといい、というのもこの二名はランチアのウーゴ・ゴッバート常務に対しストラトスの開発そしてラリー競技への参加を強く呼びかけていたためで、(コスト削減のため、自社開発ではなく)フェラーリ製V型6気筒と5速マニュアル・ギアボックスを搭載することを条件にこのクルマの開発の了承を取り付けたと言われます。
ランチア・ストラトスHFのデザインはマルチェロ・ガンディーニ
このランチア・ストラトスHFのデザインを担当したのは当時ベルトーネに在籍していたマルチェロ・ガンディーニで、同氏はこの時期たて続けにランボルギーニ・ミウラ、そしてカウンタックをデザインしていますが、まさに恐るべき才能の持ち主でもありますね。
ストラトスHFのボディサイズは全長3710ミリ、全幅1750ミリ、全高1114ミリと非常にコンパクトで、ここへ190馬力を発生する2,418ccのV6エンジンを車体ミッドにマウント。
真横から見ると、とてつもなく短いということがよくわかると思います。
ランチア・ストラトスHFは1974年から本格的に世界ラリー選手権に参加しますが、これはフェラーリが246GTの生産を終了させるにあたってランチアへとV6エンジン500基を供給する余裕ができたためで、これによってランチアはグループ4のホモロゲーションを取得することが可能となったわけですね。
生産はベルトーネのグルジアスコ工場とランチアのチバッソ工場の双方で行われ、トータルで(1975年までに)492台が生産されたと見られています。
ラリー競技において、ランチア・ストラトスHFは、1974年から1976年にかけてマニュファクチャラーズタイトルを3連覇するという輝かしい経歴を持つほか、翌年にはプライベーターとして参戦したサンドロ・ムナーリがドライバーズ選手権を獲得し、1979年にはモンテカルロ・ラリーでも優勝を果たしています。
今回オークションにて販売されるのは本国仕様のシャーシ ナンバー"1666 "で、ストラトスが世界ラリー選手権の頂点にあった1975年5月22日にパドヴァの最初のオーナーに引き渡されることに。
ただ、この最初のオーナーは翌1976年にコントロールミスによって木に激突しシャーシに修復不可能なダメージを負ったと伝えられ、2代目オーナーに話を聞いたクラシックカー・ブローカーのアンドレア・サートリ氏によれば、このクルマは地元のランチア・ディーラーによってシリアルナンバー刻印のない新品のシャーシに作り替えられた、とも言われます(1977年1月14日の車検時には、51921/76のシリアルナンバーが刻印されていた)。
2代目オーナーがこのストラトスを手に入れたのは1986年だそうですが、1994年にはネッレミリア在住の人物に売却され、その10年後にはランチアのスペシャリストであるキースポーツのオーナーの手に渡り、2007年2月16日にはまた別のオーナーへ。
さらに2008年11月17日にはイタリアから輸出されることになりますが、その後にはモナコとドイツのオーナーの手に渡り、2008年にスイスへ、そして2018年12月29日にはグシュタードで開催されたオークションで売却されることに(そこから今までは同じオーナーのもとで保管されていたものと思われる)。
ランチア・ストラトスHFは自動車史上、けして色褪せることにない一台
ランチア・ストラトスHFは革新的なランチアのエンジニアリング、印象的なガンディーニのスタイリング、強力なフェラーリのパワープラントという魅力的な組み合わせを持ち、さらにはモータースポーツのトップレベルにおいて驚異的な成功を収めたモデル。
その生産台数の少なさからコレクターズアイテムとしての価値も高く、多くのレンダリングアーティストがそのモチーフとすることでもわかるとおり、現代においても非常に高い人気を誇っており、将来にわたりその人気が衰えることもまずないものと思われます。
この個体のボディカラーはレッドオレンジ、インテリアはハバナアルカンターラ、そしてブロンズカラーのカンパニョーロ製アルミホイールを装着しています。
ボデイサイドには「STRATOS」の文字がありますが、この文字が入る個体はかなり珍しいかもしれません。
ちなみにですが、同じ欧州でもドイツやイギリスは車名に数字とアルファベットを用いることが多く、しかしイタリアでは「名前」を与え、かつそのフォントも美しくデザインする傾向にあるもよう。
フロントウインドウは大きく湾曲したラップアラウンド、そしてシートからは「手を伸ばせばウインドウに手が当たる」くらいの距離感だと言われます。
この個体のレストア履歴などは記されていないものの、かなりコンディションは良さそうに見え、多くの入札が集まるのかもしれません。
このランチア・ストラトスのインテリアはこうなっている
そしてこちらがこのランチア・ストラトスのインテリア。
ブラックのダッシュボードにレッドカーペット、シートはハバナ(ある意味ではイタリアンスーパーカーっぽいカラーリングでもある)。
ステアリングホイールの角度はけっこう「寝て」います。
ウインドウの昇降は回転式のハンドルではなく、この「スライド式ノブ」で行うのかも。
漫画「モンキーターン」では「ちょっとしか開かない」という描写がありましたね。
ちなみにステアリングホイールはけっこう珍しい形状の変形4本スポーク。
メーターは整然と並び、イタリア語に加えて一部英語表記も見られます。
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参照:RM Sotheby's