
| 空へ伸びるドアは「見た目のカッコよさ」だけではなかった |
カウンタックには様々なソリューションが詰め込まれている
ランボルギーニの代名詞といえば、耳を刺すようなエキゾーストノート、鋭角で地を這うようなボディライン、そして天に向かって垂直に持ち上がる「シザースドア(縦開きドア)」。
一般的には「スーパーカーらしい派手な演出」と思われがちですが、実はこのドアが生まれた背景には、当時の設計者が直面した「極めて切実で実用的な課題」が存在しており、半世紀にわたってランボルギーニのブランド像を形作ってきたシザースドア誕生の真実、そしてその進化の歴史を紐解きます。
この記事の要約
- 歴史の始まりは1974年の名車「カウンタック」:伝説のデザイナー、マルチェロ・ガンディーニ氏が手掛けた極小の超低重心ボディとミドシップレイアウトが原因で生まれた構造
- 絶望的な後方視界を補う「ドアに座ってバックする」裏技:極端に低い全高と広い車幅ゆえ、ドアを上へ開けてサイドシル(ドア下の縁)に腰掛け、屋根越しに後ろを確認してバックするための苦肉の策がある種の「アイコン」に
- 歴代V12フラッグシップ機のみに許された「究極のアイデンティティ」:カウンタックからディアブロ、ムルシエラゴ、アヴェンタドール、そして最新PHEV「レヴエルト」まで継承される、そしてV12モデルのみに許される絶対的シンボル

すべては「カウンタック」から始まった:誕生の歴史と実用的メリット
1974年に登場した「カウンタック(Countach)」は、市販車として世界で初めてシザースドアを採用したモデルとして知られていますが、デザインを手掛けたのはベルトーネ時代の名匠マルチェロ・ガンディーニ氏。
このカウンタックは空力と運動性能を突き詰めた結果、車高が極端に低く、車幅が極めて広い「クサビ型(ウェッジシェイプ)ボディ」を採用しており、このパッケージングが2つの大きな問題を引き起こることとなるわけですね。
1. 狭い駐車場での乗降性とドア開閉の限界
まず、車幅が広く(LP400では1,890ミリ)ドア自体も大型だったため、一般的な横開きのドア(ヒンジドア)では、隣に車や壁がある場所でドアを十分に開けることができなかったという問題があり、しかしフロントの固定ヒンジを軸にスイングしながら垂直に跳ね上がるシザースドアであれば「車体上方へとドアが開くため、これが”横方向のスペースをほとんど必要としない”革新的な解決策となったという理由が存在します。

2. ミドシップならではの構造的制約
そしてもうひとつの理由が「縦置きミドシップ」。
カウンタックLP400では全長4,140ミリという「とんでもなく短い」車体にV12エンジンを”縦に”押し込んでおり、そのためコクピット全体がフロントに移動しているのですが、これに伴って「ドア」も前に移動させる必要が生じます。
そしてドアが前に移動した場合、通常の「横開き」ドアだとヒンジを(構造上)取り付けることができないという問題も生じてしまい(取り付けることは可能ではあるが、その場合だとドアが”後ろに”移動してしまう)、これを解決するのが「ダンパーによって上に開く」ドアであったというわけですね(ドア開口部が広くなり、頭上にもスペースが生じて乗降が容易になるという副次的メリットもある)。

さらにカウンタックでは(後述する)後方支配の悪さをいくばくか改善する「ペリスコープ(潜望鏡)」なる小窓がルーフに取り付けられたり・・・。

そのドア形状に起因して「通常の昇降式サイドウインドウを取り付けることができない」という問題を解決するための分割式サイドウインドウを導入するなど、様々な、そして画期的なソリューションが盛り込まれ、やはり「ガンディーには天才であった」と改めて唸らされることに(デザインを思いつくだけではなく、それを実用性や車体構造、製造工程と結びつけることができる人物であった)。※このサイドウインドウ形状により、ウインドウをルーフに向けて傾斜させ、極端にルーフ面積を小さくすることも可能となっている
-
-
ランボルギーニ・ミウラやカウンタック、そして様々な「時代に先んじた」クルマを世に送り出した伝説のデザイナー、マルチェロ・ガンディーニが亡くなる。享年85歳
| マルチェロ・ガンディーニほど多くのデザイナーに影響を与えた人物は他にいないだろう | その影響力はときにライバルを動かすまでの威力を誇る さて、イタリア国営メディアが報じたところによると、ランボル ...
続きを見る

参考までに、ディアブロ(全長4,460ミリ)の「ドアとフロントフェンダー」とのバランスを見るに、やはり「横開きドア」用のヒンジを取り付けることが難しいということがわかりますね。※ドア開口部を後ろにずらせば「可能」ではあるが、そうなると開口部の面積が狭くなり、足を室内に入れることが難しくなって乗降が困難になる

なお、アヴェンタドールでは全長が4,780ミリに、レヴエルトだと全長4,947ミリへと「拡大」しており、これに伴って”構造的には”横開きドアを採用できるようには思えるものの、これら世代ではその必然性というよりも、ブランディング上の理由にて「シザースドア」を採用しているのだと思われます。
参考までに、アヴェンタドール以降、このシザースドアは「垂直に」ではなく、やや横方向へと「斜め上に」開くように変更されていますね。

「ドアに座って後方確認」という伝説のバック走行
話をカウンタックに戻すと、その最大の問題点は「後方視界がほぼゼロ」だったことであるとされ、ミッドシップに搭載された巨大なV12エンジンと小さなリアウィンドウに起因して、ルームミラーで後ろを確認することは「ほぼ不可能」。
そこでドライバーたちが編み出したのが、「シザースドアを上に全開にし、太いサイドシルに腰をかけて身を乗り出し、屋根越しに後ろを見ながらバックする」という独特のスタイル(カウンタックリバース)で、この後方視界補正のための荒技こそがカウンタックの伝説の一部として語り継がれることとなっています。
ただ、これについては設計当初から「想定していた」わけではないのだと思われ、「意図しなかった」産物ということになりそうですね。

シザースドアのメリット・デメリット:実用性としては本当に優れているのか?
見た目のインパクトと歴史的経緯の一方で、構造的な複雑さゆえのメリットとデメリットが混在し・・・。
| 比較項目 | メリット | デメリット・課題 |
| 乗降性・省スペース性 | 車体の横方向にスペースがない狭い場所でも開閉可能。さらに「前のほうから」ガバっと開き、頭上も大きく開くために乗降が容易 | 天井の低いガレージや立体駐車場では天井に干渉するリスクがある |
| デザイン・演出効果 | ドアを開けた瞬間に圧倒的な特別感と「劇場的演出」を生み出す | 通常のドアよりもヒンジやダンパーの構造が複雑で重量増につながる(クラシックモデルではダンパーの経年劣化がたびたび問題となる) |
| 操作性 | 開閉のための「横方向」のスペースをさほど要さず。、狭い場所では横開きドアのように「ドアを迂回して」車内に入らなくてもいい | 慣れていないと「横方向に」どれだけ開閉スペースが必要なのかわからない。なおドアを閉める際に高い位置へ手を伸ばして引く力が必要となる |
単に便利なドアを作ることが目的ならば、構造がシンプルで軽量な横開きドアの方が理にかなっていて、しかしランボルギーニにとって重要だったのは「乗る前の瞬間からドライバーを高揚させる特別感」であったのだと思われ、それは現代のランボルギーニの(フラップ式エンジンスターターなど)随所にも引き継がれている部分でもありますね。

-
-
速さよりも「演出」を。ランボルギーニが戦闘機風”フラップ式”スタートボタンを絶対に捨てない納得の理由がデザイン部門責任者によって語られる
Life in the FAST LANE. | なぜランボルギーニは「走りに直結せず、重量が増えるだけ」のこのフラップを採用し続けるのか | 「効率」を重視するフェラーリやマクラーレンでは「絶対に」 ...
続きを見る
なぜ「すべてのランボルギーニ」にシザースドアが採用されないのか?
ランボルギーニのこれまで、あるいは近年のラインナップを見渡すと、すべての車種にシザースドアが採用されているわけではありません。
- シザースドア採用モデル:カウンタック、ディアブロ、ムルシエラゴ、アヴェンタドール、レヴエルト(歴代V12フラッグシップ)
- 通常ドア採用モデル:ガヤルド、ウラカン、テメラリオ(V10/V8ベイビーランボ)、ウルス(SUV)
同社がエントリーモデルやSUVにシザードアを採用しない最大の理由は、「V12フラッグシップモデルだけの絶対的な階級意識(ディスティンクション)を保つため」で、V12エンジンを積んだ最上位モデルだけにこのドアを許すことにより、ブランド内での明確な差別化を図り、フラッグシップの価値を高め続けているというわけですね。
参考までに、ウラカン / アヴェンタドール世代までは、ドアミラーやステアリングホイール、インテリアの各種スイッチなど、ほかメーカーであれば「ラインアップ間で当たり前のように共有する」パーツであっても「(ランボルギーニでは)V12モデルとほかモデルとの間では共有を許さない」ほどのこだわりを見せていて、いかにランボルギーニにとって「V12モデルが特別」であるかがわかります。

関連情報:他社の「特殊ドア」との違いとアフターパーツ文化
自動車の歴史において、上に開くドアにはいくつかの種類が存在し、シザースドアとの構造的な違いを知ることで、より深くスーパーカーのデザインを楽しめるかもしれません
- シザースドア(Scissors Doors):フロント固定ヒンジでまっすぐ垂直(ハサミのよう)に跳ね上がる。主にランボルギーニV12モデルが採用。
- ガルウィングドア(Gullwing Doors):ルーフ(天井)中央にヒンジがあり、鴎の翼のように上へ開く。メルセデス・ベンツ300SLやSLS AMG等。
- バタフライドア(Butterfly Doors):Aピラー沿いの斜めヒンジにより、前方に回転しながら外側へ斜めに開く。マクラーレン各車やフェラーリの限定車(ラ フェラーリ等)が採用。ディヘドラルドアとも。
- スワンスイングドア(Swan Swing Door):アストンマーティンが採用。「真横」ではなく「ちょっとだけ上」に開くことで足元の乗降スペースを確保できる。
そのほか、ケーニグセグ(ディへドラル・シンクロ・ヘリックス・アクチュエーション・ドア)や一部レズバニ(サイドワインダー・ドア)のように「いったん外に出てから上に開く」ものもあり、実にさまざまな形式があることがわかります。
なお、カスタムカーの世界では、一般的な乗用車のドアを後付けキットでシザードア化するチューニングを「ガルウィング化」と呼ぶことが多いものの、正確には「ランボドア(Lambo Doors)」と呼ばれるシザースドア化キットであることがほとんどです。

結論:半世紀を経てヘリテージへと昇華した「動くブランド表示」
1974年のカウンタックにおける「狭い室内とミドシップレイアウトの制約を克服するための工夫」から始まったシザースドアではありますが、50年の時を経て単なる機能部品を超えた「ランボルギーニという存在を世界に宣言する動くアイコン」へと進化したというのが現在地。
サーキット走行専用モデルのエッセンツァSCV12、そして最新のプラグインハイブリッド・スーパーカー「レヴエルト」にもこの伝統はしっかりと受け継がれており、エンジンを始動する前から所有者を非日常へと誘う特別な仕掛けとして、これからも世界中の車ファンを魅了し続けることとなりそうですね。

合わせて読みたい、関連投稿
-
-
かつてのスーパーカーの代名詞、ポップアップヘッドライトはなぜ「禁止されていないのに」消滅したのか?そもそもの生い立ち、そして消滅の理由を考える
| 近年、ポップアップヘッドライト(リトラクタブルヘッドライト)は別の形で一部復活しつつある | やはりスーパーカーにポップアップヘッドライトは欠かせない さて、ポップアップヘッドライト(あるいはリト ...
続きを見る
-
-
近年否定されがちなトレンドのひとつ「フェイクテールパイプ」の元祖はなんとランボルギーニ・ミウラだった。「初のスーパーカー」が「初のダミーパイプ」を持つという衝撃の事実
| ランボルギーニは1966年から1970年までこの「フェイクテールパイプ」を採用し続ける | 1971年に廃止されているところを見るに、当時としても論争の的となったのかも さて、近年の自動車業界にお ...
続きを見る
-
-
スポーツカーの足回りにおける「メカニカルグリップ追求」の時代はもう終わった?現代のハイパフォーマンスカーを支配するソフトウエアの「見えざる手」
Life in the FAST LANE. | 日産GT-Rが仕掛けたソフトウェア革命の真実 | スポーツカーのハンドリング性能を決するのはもはや「ソフトウエア」である 現代の高性能スポーツカーに乗 ...
続きを見る
参照:Motor1











