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速さよりも「演出」を。ランボルギーニが戦闘機風”フラップ式”スタートボタンを絶対に捨てない納得の理由がデザイン部門責任者によって語られる

ランボルギーニ テメラリオのエンジンスタートボタン
Life in the FAST LANE.

| なぜランボルギーニは「走りに直結せず、重量が増えるだけ」のこのフラップを採用し続けるのか |

「効率」を重視するフェラーリやマクラーレンでは「絶対に」採用することはないだろう

シートベルトを締め、ステアリングホイールを握り、視線を前方へ――。

そして手を伸ばし、鮮やかな赤いフリップカバーを押し上げてスタートボタンを押し込む。まるで戦闘機のミサイル発射スイッチを操作するかのようなこの演出は、今ではランボルギーニを象徴する重要なインテリアデザインとして認識され、そしてエンジンをスタートさせる、あるいは車両を起動させる際の重要な儀式の一つにまで昇華しています。

「単にエンジンをかけるだけならもっと早い方法がある」「スーパーカーはグラム単位の軽量化を追求せねばならない」という状況において、なぜランボルギーニはなぜこの一見“回り道”にも思える仕掛けにこだわり続けるのか。

デザイン部門を率いるミッチャ・ボルカート氏(Mitja Borkert)の言葉から、その深層にあるブランド哲学を読み解いてみたいと思います。

【この記事の要約】

  • アイコンである「赤カバー付きスターターボタン」は今後存続:アヴェンタドール(2011年)以来親しまれる戦闘機風の点火スイッチは、今後も全モデルで継続採用。
  • 数値性能以上の「感情(エモーション)」を重視:ハイブリッド化やEVの台頭で誰でも速さを手に入れられる時代だからこそ、操作するプロセスや感動を最優先。
  • 全ラインナップに通底する「パイロット感覚」:V12フラッグシップからSUV「ウルス」まで共通の操作体系を維持し、ブランドの一貫性を担保。
  • 物理スイッチが与えるプレミアム価値:タッチパネル化が進む市場の潮流に反し、五感を刺激する物理的フィードバックを重視。
ランボルギーニ テメラリオのエンジンスタートボタン
Life in the FAST LANE.

「効率」よりも「感動」:デザイン責任者が語るスイッチの存在意義

2011年に登場した「アヴェンタドール」で初めて導入されて以来、ランボルギーニの「赤いカバー付きスタート/ストップボタン」は同社のコックピットにおけるひとつの代名詞ともいえる存在に。

電動化技術や高性能パーツの普及により、近年では手頃な価格のEVであってもスーパーカー並みの加速性能を実現できるようになっていますが、そうした時代においてランボルギーニが提示する価値は単に「0-100km/h加速の数値」「最高速」だけではないといい、チーフデザイナーのミッチャ・ボルカート氏はこのスタートボタンについて次のように語っています。

「確実に、もっと素早くエンジンを始動する方法はあります。しかし、そこに『楽しさ』はあるでしょうか? 私たちは適切な量の感情(エモーション)を創造しており、それこそがこのようなクルマにふさわしいものだと信じています」

ランボルギーニ・ウラカンのエンジンスターター
Life in the FAST LANE.

さらに「毎日エンジンをかける際に面倒だと感じられる危険はないか」という問いに対して、同氏は「そうは思わない」と一蹴。

「料理と同じです。上質なものを作りたいとき、ただ作業を速く済ませるだけでは美味しく感じられません。ほんの少し時間をかけ、自分自身がそのプロセスに関わっていると実感することが重要なのです」

これについてはぼくも全く同意見で、たとえば食事をするときの「明かり」だと、「LEDのほうが明るくて効率的」かもしれませんが、それでも「美しくカットされたガラスの中でろうそくを灯したほうが」ずっと雰囲気が出るのと同じなのかもしれません。

バカラ「Bバー」でのろうそくとカウンター
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そしてこの「フラップを跳ね上げてエンジンスターターを押す」というのは、ランボルギーという猛牛と向き合うための「覚悟」を決める儀式、あるいは準備としても必要なものなんじゃないかとも考えていて、「ある場面では、もっと無駄なものがこそが、もっとも必要になる」という事例を象徴しているのでは、とも捉えています。

ランボルギーニ・ウルスのエンジンスターター
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ランボルギーニの最新ラインナップとコックピット思想

ランボルギーニは現在、フラッグシップV12 PHEV「レヴェルト(Revuelto)」、V8ツインターボPHEV「テメラリオ(Temerario)」、そしてスーパーSUV「ウルス SE(Urus SE)」という3つのコアモデルを展開しています。

車種パワートレインシステム最高出力コックピットの特徴
レヴェルト (Revuelto)6.5L V12 NA + 3モーター (PHEV)1,015 PS究極の「シネマティック」演出、赤カバー付点火ボタン装備
テメラリオ (Temerario)4.0L V8 ツインターボ + 3モーター (PHEV)920 PSアテンションを集める六角形モチーフと共通の戦闘機風UI
ウルス SE (Urus SE)4.0L V8 ツインターボ + 1モーター (PHEV)800 PS普段使いのSUVでありながらスーパーカー同等の演出と操作体系

ボルカールト氏によれば、平日にウルスに乗り、週末にサーキットやワインディングでスーパーカーを走らせるオーナーであっても、操作に戸惑うことがないよう全モデルで一貫した「パイロットを包み込むアーキテクチャ」を採用している、とのこと。

ランボルギーニ・テメラリオのモード切替スイッチ
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そしてこの「パイロット」というのは非常に(現代のランボルギーニにおいて)重要なキーワードであり、同氏な常々「我々がデザインするのは宇宙船である」ともコメントしていて、そのため「一見、無駄のようにも思えるが、しかし気分が盛り上がる」様々な意匠がインテリアには組み込まれています(同氏は理屈よりも、「ただカッコいいから」という感情面を優先する稀有なデザイナーでもある)。

競合比較と市場での位置付け:液晶画面vs物理フィードバック

現代の自動車デザインは、大型タッチスクリーンが室内を覆い尽くす傾向にあり、しかし、ランボルギーニは必要な情報表示用の画面サイズを確保しつつも、象徴的な物理キーやトグルスイッチを頑なに残しています。

ライバルであるフェラーリが一部モデルで物理的なイグニッションボタンを廃止しステアリング上のタッチパネルへ移行した際、一部のファンから惜しむ声が上がったのは記憶に新しいところではありますが、ランボルギーニは自らのアイデンティティを再確認し、エレクトリックモーターだけで走行している時であっても「自分はランボルギーニを”操縦”している」と実感できる物理的な手応えを極めて大切にしている、というわけですね。

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スーパーカーにおける「演劇性(Pantomime)」の重要性

なぜ大富豪やコレクターは、数字上のスペック(馬力や最高速)だけでなく「操作の儀式」に惹きつけられるのか。

そこにはスーパーカーの本質に関わる歴史的・心理的背景があり・・・。

  1. 「パイロット体験」という伝統の継承:1970年代のカウンタック(Countach)時代から、ランボルギーニは地上を走る戦闘機や宇宙船(Spaceship)のような非日常感をデザインの核としており、赤いカバーを押し上げるという動作は、単なる始動作業を「旅やドライブの始まりを告げるシネマティックな儀式」へと変昇させる
  2. デジタル疲れに対する「アナログなラグジュアリー」あらゆるデバイスが画面上のタップで完結する現代において、心地よい重みや節度感を持った金属調の物理スイッチを操作することは、高度な贅沢(アナログ・ラグジュアリー)として評価されつつあり、完璧なデジタルよりも、感情を揺さぶる「触覚体験」こそが、他社との差別化を生む最大の武器となっている
ランボルギーニ テメラリオのドアインナーパネル
Life in the FAST LANE.

加えてですが、スーパーカーのほとんどは「公道」を走行して長い時間を過ごすことになると思われ、となるとスーパーカーの「パフォーマンス」をドライバーが体験し、そこから興奮を得ることは「まず不可能」だと思われます。

ただ、そこで重要になるのがこういった「視覚的、触覚的」演出であり、これらによって「いま自分はスーパーカーに乗っている」という高揚感を得ることができるのだとも考えています。

結論

数値的な速さやスクリーンサイズの大きさを競い合う現代の自動車業界において、ランボルギーニが提示する「笑顔と胸の高鳴り(goosebumps and a smile)」を重視する姿勢は、極めて明確で力強いメッセージともいえるもの。

赤いカバーを押し上げてエンジンに火を入れる――。そのわずか数秒間の「無駄とも言える優雅な儀式」こそが、時代がEVへとシフトしようとも、ランボルギーニがランボルギーニであり続けるための不可欠なソウル(魂)なのかもしれませんね。

ランボルギーニ テメラリオのセンターコンソール
Life in the FAST LANE.

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