
| モントレーでは「マニュアル・トランスミッション」のオンパレードであったが |
まさかの「マクラーレン」もMT市場へと参入
今年のモントレー・カー・ウィークなど世界最高峰のモーターフェスティバルにおいて、ゴードン・マレー、マクラーレンといったハイエンドブランド、さらには新興メーカーまでもが続々とマニュアル・トランスミッション(MT)搭載モデルを発表し、限定車や超高額車を中心とした「3ペダルMTブーム」が再燃しています。
しかし、ランボルギーニの最高経営責任者(CEO)であるステファン・ヴィンケルマン氏は、同社がMTを復活させる計画が一切ないことを明言したといい、ここではなぜランボルギーニがファンの根強い熱望にもかかわらずMTを採用しないのか、その背景にある技術的ハードルやブランド戦略、そして次世代スーパーカーの展開について考えてみましょう。
-
-
ランボルギーニCEOが「第4のモデル=新型GT」計画を明かす。フェラーリの模擬MTを追わない独自のハイブリッド戦略とブランドの矜持とは
Life in the FAST LANE. | グッドウッドで語られた、猛牛ブランドの未来図 | ランボルギーニは大幅に計画を変更、その将来に期待がかかる 2026年の「グッドウッド・フェスティバル ...
続きを見る
この記事の要約
- CEOの明確な意思表示:ステファン・ヴィンケルマンCEOは「MT復活は優先リストになく、計画もない」と発言
- 過去の経緯:2014年のガヤルドを最後にMTを廃止。末期は注文があまりに少なく、CEO自身が”間違いでないか”注文書を確認していたほど
- 技術的課題(パッケージング):最新のPHEVモデル(レヴエルトやテメラリオ)は縦置きエンジン+リアトランスミッション構造を採用しており、MT化には膨大な再設計が必要
- 模擬MTへの不参加:フェラーリなどの「疑似MT/電子制御ギヤ」のようなギミックにも否定的
- 今後の注力分野:1,065馬力を誇る「レヴエルト SV」など、超高出力ハイブリッドや内燃機関のさらなるパフォーマンス追求に集中

なぜ今、ランボルギーニはMTを作らないのか?
現在のコレクターズアイテム市場では純粋なドライビングプレジャーを求める層を中心としてMT車が高値で取引されていて、しかしステファン・ヴィンケルマンCEOは「そうしたMT車は主にコレクター向けであり、現在我々には開発の予定はない」とコメントしたもよう。
ランボルギーニがMTを最後に設定したのは2014年の「ガヤルド」で、後継のウラカン以降は全車DCT(デュアルクラッチ・トランスミッション)またはISR(自律型マニュアル)へと移行しています。
MT廃止直前、MT仕様の選択率は全体のわずか数%以下にまで落ち込んでおり、同氏は「(MTのオーダーがあった場合)顧客が間違えて注文書にチェックを入れたのではないかと自ら確認した」という逸話を明かすほど、市場需要は限定的だったことについても触れています。
ちなみにですが、ステファン・ヴィンケルマン氏はガヤルドが後期型(LP560-4)にスイッチする際にランボルギーニCEOへと着任し、そこからアウディスポーツ(RS)、ブガッティを経てランボルギーニへとカムバックしています。

そしてぼくがガヤルドを購入したのはちょうどこの(ガヤルドが後期型にシフトする)タイミングであり、「MTも注文できたものの」MTとロボタイズドトランスミッション(AT)とを乗り比べた結果、MTでは「足元があまりに狭いこと」「ガヤルドは視界が限られ、車高が低くワイド、かつパワーもあって”運転中に気を使うこと”が少なくはなく、その状況でさらにMT操作で神経をすり減らしたくなかったこと」からATを選んでいます(おそらく、ほかのオーナーの多くも同じ理由にてATを選択したものと思われる。この場合、ATのほうがハンドリングはじめドライブに集中でき、より楽しい走りが可能であった)。
ハイブリッド化とミッドシップ・レイアウトの技術的障壁
現代のランボルギーニがMTを再現できない最大の理由は、パワートレインの構造とパッケージングにあり・・・。
- パワートレイン配置の変化:かつてのムルシエラゴやガヤルド等は、キャビンのすぐ後ろにトランスミッションが配置され、シフトレバーとの物理的リンクが容易であった
- 最新世代(レヴエルト/テメラリオ)の構造:レヴエルト(V12)やテメラリオ(V8)では、エンジンを縦置きにし、トランスミッションを車両後方に横置き配置するレイアウトを取っており(ガヤルド / ウラカンと同様)、さらに軸流モーター等の電動コンポーネントが緻密に組み合わさっているため、物理的なシフトリンクやクラッチ機構を割り込ませるスペースが存在しない
これらをMT化するには、プラットフォーム全体をゼロから再設計する必要があり、途方もないコストと開発リソースが消費されるため、経営判断として現実的ではない、というわけですね。
参考までに、ランボルギーニはウラカン / アヴェンタドール時代(非ハイブリッド時代)にもマニュアル・トランスミッション導入を検討したことがあると報じられ、しかしやはり「コスト」の問題にて断念した、とされています。

フェラーリの「疑似MT」アプローチ追従も否定
近年、一部の競合(フェラーリの「12チリンドリ マヌアーレ」等)では、実際のトランスミッションとは物理的に接続されず、コンピュータとロボット制御でシフトフィーリングを再現する「疑似MT」が試行され、しかし、ランボルギーニはこの手の電子ギミックによるMT再現にも関心を示しておらず、その理由としては、同社が目指すのはあくまで「最先端技術による本物の圧倒的パフォーマンス」だから。
-
-
フェラーリが12チリンドリ「マヌアーレ」で採用した”電子制御マニュアル”。今後一気に普及し「ハイパワー車を救い、環境規制からスポーツカーを守る」技術革新となるか
Image:Ferrari | 現在はその重要性に気づいていないかもしれないが | この技術はスポーツカーの歴史を変える可能性を秘めている 自動車業界では他社との差別化を図るため、常に新しい「業界初」 ...
続きを見る
車種概要、性能・デザイン・スペックなどの特徴、競合比較
最新フラッグシップ「レヴエルト SV」スペック表
ランボルギーニがMT開発にリソースを割かない代わりに生み出したのが、モントレー・カー・ウィーク(ザ・クエイル)で世界初公開された極限のPHEVハイパーカー「レヴエルト SV」で、「ランボルギーニはあくまでもパフォーマンスに注力する」という意思表示であるとも受け取ることが可能です。
| 項目 | 詳細スペック |
| パワートレイン | 6.5L V12 自然吸気エンジン + 3基のアキシャルフラックス電動モーター |
| 最高出力 | 1,065 hp(システム合計) |
| 最大トルク | 1,051 lb-ft |
| トランスミッション | 8速デュアルクラッチ・トランスミッション(DCT) |
| 駆動方式 | 4WD(フロントはモーター駆動) |
| 特徴的な新機能 | GT3レーシングカー由来の5段階トラクションコントロールを備えた「Pilotaモード」搭載 |

Image:Lamborghini
-
-
ランボルギーニ新型「レヴエルト SV」正式発表。ホッケンハイム「市販車最速」記録を打ち立てた究極のV12ハイブリッド、「1,065馬力、1,963台限定」
Image:Lamborghini | ランボルギーニ「SV」モデルは代を追うごとに過激になってゆく | ランボルギーニの市販車史上「最強」「最速」 ランボルギーニのフラッグシップV12ハイブリッドス ...
続きを見る
スーパーカー各社のトランスミッション戦略比較
- ランボルギーニ:
- 戦略:全モデルで電動化(PHEV)+超高速DCTを採用。
- 方向性:最高出力・ラップタイム・最先端制御技術(「Pilotaモード」など)の極致を追求。
- ポルシェ:
- 戦略:GT部門モデル(911 GT3/Carrera S等)で積極的に3ペダルMTをラインナップ。
- 方向性:モータースポーツ直系の走りとアナログな操作感の両立。
- ゴードン・マレー(GMSV) / アストンマーティン(限定車):
- 戦略:超高額な限定コレクターズカー専用に特注MTを開発。ATも用意していたが「オーダーが少ないので」今後はMTへと注力する見込み。
- 方向性:価格度外視の軽量化とクラシックなフィーリング。
- フェラーリ:
- 戦略:基本はDCTだが、一部限定車で模擬/電子制御MTの実験的試み。
- 方向性:最先端テクノロジーとドライバーエンゲージメントの融合。
そのほか、パガーニも基本的にMTを中心としたラインアップ(芸術性とドライビングプレジャーを追求)、そしてケーニグセグは「ATとMTとを行き来できる」トランスミッション、「The Worlds Most Powerful And Fastest Manual Production Car」=TWMPAFMPCの実装を行っており、マクラーレンは「McL 6GT」で機械式MT導入、アストンマーティンも「ヴァレン」にてMT継続、そして米ヘネシーそしてスパイカーも相次ぎマニュアル・トランスミッションを導入しており、ある意味で「MT全盛期」ともいえるのが今の状況かもしれません。※わずかこの1年の間でMTが飽和しようかという勢いである
-
-
アストンマーティン史上最強のV12、「Valen(ヴァレン)」世界初公開。850馬力を誇るグランドツアラーの頂点、限定わずか150台のコレクターズカー
Image:Astonmartin | アストンマーティンの伝統に則り「V」で始まるネーミングを採用 | アストンマーティンは直近での発表の通り「V12」を継続 アストンマーティンが2026年8月、米 ...
続きを見る
-
-
ディスプレイもナシ、ハイブリッドもナシ。米ヘネシーが解き放つ「850馬力 / MT搭載」究極のアナログハイパーカー「ブラックバード」が正式発表
Image:Hennessey | 今の時代だからこそ少量生産メーカーの「意義」が生きてくる | もちろんそのインスピレーション元は「ロッキード SR-71 ブラックバード」 アメリカのハイパーカーメ ...
続きを見る
結論
ランボルギーニがマニュアル・トランスミッションへ回帰しない選択をしたのは、時代遅れの懐古主義に頼るのではなく、「エレクトロニクスとV12/V8内燃機関の融合による未体験のパフォーマンス」を提供するという明確なビジョンがあるからだと考えられ、あくまでも優先順位とブランドとしてのコアを貫くためだと思われます。
実際のところ、3ペダルMTの途絶を惜しむ声がある一方、1,000馬力オーバーを自由自在に操る8速DCTや、モータースポーツ直系の高度な車両制御技術はランボルギーニでしか味わえない唯一無二の感動を生み出しており、年内には「テメラリオ」のオープンモデル(スパイダー)やさらなるハイパフォーマンス版の登場も期待されているというのが現在地。
そしてスポーツカー市場において、現在は「MTの選択肢が限られているから」「MTが希少だから」マニュアル・トランスミッションを求める声が強いのだとも考えられ、しかしこれがもし「どのクルマでもMTを選択できるようになったとしたら」再び(MTからATへと移行した2000年代はじめのように)MTを選ぶ層が減ってしまうのかもしれません。※かつて、カレラGTは、ライバルのフェラーリのようにロボタイズドクラッチを持たず、「MTしかない」ことで批判された

つまるところ、ぼくはMTは不純な動機ではなく、純粋な動機によって選ばれるべきだと考えていて、これはトランスミッション形式そのもの、クルマ本体でも同様であって、「運転を楽しむため」にあえてATを選ぶのもアリだというわけですね(シフトチェンジのみが運転の楽しみではなく、ライン取りやハンドリング、加減速など、ほかにもたくさん要素がある)。
そしてその「楽しさ」は人によって捉え方が様々であって(性的嗜好と同じである)、ある人の場合は「MTはその楽しさを損なう(ある意味で苦痛になったりストレスになったりする)」場合があるのかも。
よって現在の「MT礼賛(あるいは盲信)」的な風潮につき、(一時、ポルシェ911カレラはじめ、所有するクルマすべてがMTであったぼくにとっても)ちょっと違和感がないでもありません。

【知っておきたい関連知識&新提案】
なぜMT車の中古車市場(特にガヤルドやムルシエラゴ)が高騰しているのか?
ランボルギーニが今後一切MTを作らないことが確定したことで、過去に製造された「純正ガヤルドMT」や「ムルシエラゴMT」の希少価値は世界的に急上昇しています。海外オークションでは、同型のオートマチック(e-gear)モデルに対して2倍以上のプレミアム価格で取引されるケースも珍しくありません。「もう二度と作られない最後の機械式ランボルギーニ」としての歴史的価値が確固たるものになったと言えます。
-
-
クラシックカーのスペシャリストが公開する「来年はこのクルマが値上がりする」リスト。ランボルギーニ・ガヤルド(MT)、フェラーリ 400 / 412に加えホンダ・プレリュードやミニクーパーの名も
| いずれもまだ「コレクターが注目しておらず」しかし高いポテンシャルを秘めるモデルばかりである | ただしクラシックカー / ネオクラシックカーの購入には一定のリスクが伴うことも間違いない さて、ハガ ...
続きを見る
合わせて読みたい、関連投稿
-
-
フェラーリの中古相場は「マニュアル」「AT」で大きく異なる。フェラーリは2012年以降MT車を製造しておらず、最後のMT車であるカリフォルニアでは「MTを選択したオーナーはわずか2人」
| フェラーリ456GTだとMT車のほうがAT車の「倍」で取引されることも | そこには「希少性」「投資価値」「ドライバーエンゲージメント」など様々な思惑が渦巻いている さて、クラシックフェラーリが非 ...
続きを見る
-
-
フェラーリF430の「MT」の中古価格がさらに上がり続け、ついにはF1マチックの倍に!なぜ今になってマニュアル・トランスミッションの価値が上昇しているのか?
| おそらくはまだまだマニュアル・トランスミッション車の価値は上がり続けるだろう | いつでも世の中は予想だにしない方向へと動き出す さて、フェラーリF430は2004年から2009年にかけて生産され ...
続きを見る
-
-
現在、どれくらいの人が「MT」を選んでいるのか?ポルシェ、トヨタ、マツダ等での「マニュアル比率」を見てみよう。なおBRZは驚異の「90%」
| 全体的に「マニュアルトランスミッション」回帰の傾向が強く見られる | この記事の要点まとめ マニュアル需要が拡大: 多くの車種で2024年よりもMTの選択率が上昇 驚異の選択率: スバル・BRZは ...
続きを見る
参照:Carbuzz











