さて、アウディR8に試乗。
アウディR8はランボルギーニ・ウラカンと同じ5.2リッターV10エンジンを搭載するモデルで、プラットフォームやトランスミッション、駆動方式など、そのほとんどにおいて「共通」点がある、と言えます。
もっと簡単にいうならば、「ランボルギーニ・ウラカンのアウディ版がR8である(もしくはアウディR8のランボルギーニ版がウラカン)」ということに。
今回試乗したのは現在R8において「エントリーグレード」となる「V10(5.2 FSI quattro)」。
このグレードは540馬力を発生し、さらにこの上にはウラカンと同じ610馬力を発生する「V10 Plus」が存在。
ただしエンジン型式や駆動方式は同一で、単純に「パワーや装備が違うだけ」と考えてよさそうです。
このアウディR8 V10 5.2 FSI quattroの価格は「24,560,000 円」。
エントリーグレードと言えども価格は全く「可愛くはなく」、ホンダNSX(573馬力)の2370万円、ポルシェ911ターボ(540馬力)の2267万円、マクラーレン540C(540馬力)の2242万円、という錚々たる顔ぶれがライバルと言えそうですね(フェラーリ・カリフォルニアT、アストンマーティンDB11、AMG GT Sあたりも)。
ボディサイズは全長4425、ホイールベース2650、全幅1940、全高1240ミリ。
トランスミッションは7速Sトロニック(デュアルクラッチ)、エンジンは上述の通り5.2リッターV10、駆動方式は4WD(quattro/クワトロ)、0-100キロ加速は3.6秒。
アウディではR8を「スーパースポーツ」と定義しており、その実力はまさに「スーパーカー」。
一方でアウディらしい実用性と快適性、信頼性や安全性を持つのがR8だと言えそうです。
アウディによると、その特徴はいくつかあり、アウディの言葉を借りるならば、それらは下記の通り。
・高級セダンを思わせる、街中での滑らかな走り
・ドライバーのどんな要求にも応えるV10エンジン
・強大なパワーを巧みにコントロールする全天候型パワートレイン
・スーパースポーツの概念を変える快適装備群
・機能と感性を両立させたインターフェイス
アウディR8の製品ページやカタログを見ると、「ル・マンの参戦によって培われた技術」を前面に押し出しており、それは「疲労軽減(長時間走りきるにはかなり大事)=マグネライド、シート、インターフェース」、「どんな環境でも確実にトラクションを得られる駆動力伝達=クワトロ」、といったところが核になっている模様。
加えてモデル/オプションによってはレーザーヘッドライトやセラミックディスクブレーキなどの装備がさらにR8のキャラクターを補強する、ということになりそうです。
マクラーレンやフェラーリが「F1」をバックボーンとするのであれば、アウディは「ル・マン(もう撤退しましたが)」をその背景に持つスポーツカー/スーパーカーの開発を行っていると考えられ、ここはアウディ独自のスタンスだ、と言える部分ですね。
そういった背景について理解したところで(ぼくは試乗前には可能な限り情報を集めてその車の設計意図や想定する用途を理解するようにしている。言うなれば”予習”)さっそく試乗。
アウディらしくない、ドアハンドルのないドアを開けて乗り込みますが、意外とサイドシルが低く、そしてシート座面も低くなく乗り込みは容易。
乗って気づくのは「囲まれ感が強い」ということで、大きくラウンドしたダッシュボード、太く厚いセンターコンソールが特徴的で、やはりTTはこのR8から多くのデザイン的インスピレーションを受けている、と感じます。
エンジン始動はほかRSモデル同様、ステアリングホイールに装着したスタートボタンにて。
ボタンを押すと一瞬でエンジンが目覚めますが、この時の振動はかなり小さく、拍子抜けするほど。
音についても相当に静かに感じるものの、試乗のために担当さんが車を回してくれる際にはかなり大きな音が外に響いていたので、コールドスタート時はやはり大きな音が出る(欧州車は触媒をすぐに暖めるために始動直後のエンジン回転数が高い)、そして車外にはけっこう大きな音が響いていると考えられます。
ウラカンより少しだけ幅が広い車ですが、乗った感じでは逆に「コンパクト」に感じられ、これはおそらくAピラー左右の距離が近いこと、そしてウインドウ面積が小さいことがその理由と思われます(こういったことが理由で、感覚的な車体サイズの大小が変わることをぼくは初めて知った)。
ギアのセレクトはセンターコンソール上の「シフトレバー」。
これをDに入れて走り出すのはほかのアウディ車と同じですね。
パーキングブレーキを解除して走行しだしてすぐに気づくのは「R8はほかのアウディとは決定的に異なる車体構造やレイアウトを持つのに、紛れもないアウディ」ということ。
R8はアウディ唯一のミドシップで、そしてフレームにカーボンファイバーを持つ(モノコックの後ろ半分がカーボン)車。
そういった特殊性にも関わらず、乗り味は安心かつ安定のアウディらしさを持っており、そこに不安は一切ない、ということです。
ぼくはけっこう小心者なので、試乗の前にはどうしても不安を感じます。
とくに大パワー、ミドシップスーパーカーともなると前の日から不安になる(事故を起こしたらどうしよう、自分にちゃんと運転できるか、など)のですが、走り出して50メートルほどでそういった不安が霧散するほど乗りやすい車で、アウディ自らがR8を「高級セダンを思わせる、街中での滑らかな走り」と表現するのにも全面的に納得できるところですね。
試乗コースは市街地~高速道路~峠、という「全部入り」。
試乗と言うには十分以上の時間をいただき、アウディ東大阪さんには感謝せねばなりません。
そして、いつもであればドライブモードはまず慣れるために「ノーマル(メーカーによって呼び方は違うが、アウディの場合はコンフォート。つまり標準)」でしばらく走るのですが、R8ではあまりの安心感からすぐに「ダイナミック(ほかメーカーで言うところの”スポーツ”」へ入れて走行。
なお、この「アウディドライブセレクト」も他のアウディ通常モデルとは異なり、R8やRSモデルではステアリングホイール上に設定され、これは気分が盛り上がるところですね。
この「ダイナミック」へと入れることでサスペンション設定、ステアリング設定(反応や重さが変わる)、スロットル/エンジン設定(レスポンスが鋭く、各ギアでの回転数が高く設定される)、エキゾースト設定(音が大きくなる)がよりスポーツ寄りに。
おそらくは4WDシステム「クワトロ」の設定も変更されていると思われます(ウラカンだと、このモードでは駆動力がリア寄りに配分される)。
「ダイナミック」ではかなり足回りが固くなるので、街中では車体が揺さぶられることにはなりますが、それでも内装ではきしみ音やビビリ音が出ないのはさすがアウディ。
R8というスーパースポーツと言えども快適性や高級感は微塵も犠牲になっていない、と感じるところです。
そのまま街中をぬけていざ高速へ。
高速走行に移ると、街中では「重く」感じられたステアリングホイール、「硬い」と感じられた足回りがちょうど良く感じられ、それらが「安心感」へと変化(そう考えると街中では「コンフォート」を選択するのが無難といえる)。
エンジンは自然吸気ではありますが、低回転からターボのようにモリモリとトルクが出てくる設定で、非常の乗りやすいキャラクターを持っています。
坂道をのぼりながらの車線変更からの追い越し、平地でもタイミングを見計らっての車線変更からの加速などフレキシビリティに富んでおり、非常に扱いやすく、意のままに車を加速させることができる、という印象。
ランボルギーニ・ウラカンと同じエンジンのはずですが、アウディR8ではおそらくトルクカーブがより台形に近く、低速域での扱いやすさが増しているようですね。
そこにはスーパーカーならではピーキーさはなく、一旦回転数が落ちたとしてもすぐに加速に移れるというトルクの太さがあり、「無理に高回転を維持しなくても」十分以上に走りを楽しむことが可能。
これはちょっとびっくりで、「ウラカンとはここまで性格が違うのか」ということには驚かさされます。
なお、高回転でのパンチはウラカンに譲ることになりますが、これはR8のトップグレード「V10 Plus」がそこを補っているのかもしれません。
そしてやはり「クワトロ」は秀逸としかいいようがなく、車線変更や高速カーブ、上りや下りでの狭いカーブにおいても威力を発揮。
加えてミドシップということで回頭性に優れ、ほかアウディのRSモデルでは限界を超えると出て来る「アンダーステア」も感じられないようです(もちろん公道でそこまで踏めませんが)。
つまりステアリングの応答性、「曲がる」ということについては非常に高い性能を持っていると言え、ステアリング操作やカーブの状況によって「フロントタイヤの駆動力で引っ張る」「リアタイヤの駆動力で車体の向きを変える」という動き自然に行われており、「あれ?運転が上手になったかな?」と感じるほど。
その自然さは「サスペンション」においても同様で、細かい凹凸がある路面でも「張り付く」ような緻密な制御を見せ、しかし「しっとりとした」乗り心地も実現。
高速コーナーにおいても車体の「傾き」がほとんど感じられず、試乗を終えてちょっとした後に「そういえば全然車体が傾くような場面がなかったな」と思い出すことに。
なおメルセデスAMGモデルだと「コーナリング中に車体が傾くのを無理に押し戻している」感覚がありますが(GT除く)、R8にはそれがまったくない、と言えます(加速中のノーズリフトもなく、R8はまさに”フラット”な姿勢を終始保っている)。
ブレーキはスチールローター(V10 Plusはカーボンセラミック)を採用しており、これは非常にコントロール性に優れるもの。
強くブレーキを踏んでもノーズダイブすることはなく、しかし強力なストッピングパワーを発揮。
雪道、そして低ミュー路での性格なコントロールが要求されるシーンでの走行が多いヨン・オルソン選手(スキー)がウラカンのブレーキを「カーボンセラミック」から「スチール」へと変更していましたが、ぼくも実際にスチールのほうがコントロール性が良いと考えていて、ブレーキダストや見た目の汚れ/サビ、重量を考慮しなければスチールローターのほうが(通常走行では)優れるとも言えそうです。
ざっとまとめると、R8は非常に扱いやすいトルクフルなエンジンを備え、扱いやすいブレーキが与えられ、クワトロシステムと連動したコーナリング性能と安定性は非常に高いレベルにある、と言えます。
加えてセダンで培ってきた「フラットライド」「静粛性」「快適性」を併せ持ち、それらはスーパーカーとしては「群を抜いている」のは間違いのないところ。
アウディがこれまでのレース、とくにル・マンを通じて得た「車両コントロール技術」「ドライバーへの負担をいかに軽くするか」ということ、それらが「速く走る」にはもっとも重要であるという考え方が反映された「集大成」と言ってよく、その意味では”もっともアウディらしい”車なのかもしれない、とも思います。
一見するとアウディR8のみがアウディのラインアップにおいては「特殊」で、共通パーツもほぼ無いように思えますが、ほかのアウディそれぞれからの「エッセンス」のみを抽出し、それをスーパーカーとして機能や形を整えると「こうなる」のかもしれない、ということですね。
その意味では他のスーパーカー/スポーツカー専業メーカーには作れない車であることには間違いなく、「アウディだからこそ作れた」車だと言えるでしょう。
↓こちらはル・マンがどれほどドライバーに負担をかけるかという動画
一般道や高速道路、つまりサーキットではない環境では法規を守る必要がありますし、何が起きるかわからない、そして様々な性能の車と一緒に走っている、という事情があります。
そういった環境において常に車の性能を引き出せる状態にエンジン回転数を維持するのは至難の業ですが、アウディR8ではそういったことを気にせず、「アクセル、ステアリング、ブレーキ」だけ操作していれば、意のままに車を操れるということになり、アウディの美点のすべてをほぼ兼ね備え、そしてポルシェやランボルギーニという、同じグループ内のスポーツカー/スーパーカーブランドにて培われたノウハウが反映されているという点においても、「ほかライバルよりも、近代のスーパーカーとして一歩リードしている」と考えられるかもしれません。
ちなみにランボルギーニ・ガヤルドが登場した時に「スーパーに乗って行けるスーパーカー」と表現され、それはウラカンにおいてさらに磨きがかかったものの、この表現”スーパーに乗って行けるスーパーカー”はどうやらR8に譲り渡す必要がありそうです。
上にあげたライバルたち、「ホンダNSX(これだけ運転したことがない)」「ポルシェ911ターボ」「マクラーレン540C」「フェラーリ・カリフォルニアT」「アストンマーティンDB11」「AMG GT S」、そして「ランボルギーニ・ウラカンRWD」に比べると格段に扱いやすく、格段に快適で、そして通常の環境では格段に安心して速く走れるのがアウディR8だという印象であり、ウラカンと「ほぼ同じ」コンポーネントを持つという事実に反し、「全く異なるフィーリング」を持つことに驚かされた試乗となりました。
※アウディR8と比較できるようにランボルギーニ・ウラカンに乗って試乗に行ったので、改めてその「比較」については別に公開の予定
なお、上記ライバルについても想定する速度域や環境、ドライバーのスキルが異なるので、一様に「優劣」を判断することはできず、それぞれの車の設計された意図を理解して試乗し、そのなかから自分に合う車を選ぶと良さそうです。
以下、アウディR8の実車を見て気づいた細かいところ。
これはディフューザーですが、けっこう大きく、かなり下にまでフィンが。
ランボルギーニ、フェラーリ、アストンマーティンと比べても相当にレーシングカーライクな構造やサイズを持っており、サスアームの下までカバーされているのは他メーカーでは見られない部分(ウラカンですらここはカバーされていない)。
これを見るに、アウディの言う「ル・マンがベース」はダテではない、ということですね。
フロントの左右は相当に角度がついており、つまり「中央が突出した」部分。
むしろオーバーハングを見る限りでは中央が出っ張っているというよりも左右が削られていると考えるべきで、もちろんこれはオーバーハングの重量を軽減すること、街中で乗る際にも取り回しが楽、ということを意味します(ぼくは普段使いの容易さのほうにメリットを感じる)。
これはアウディの重要視する「日常性」がよくあらわれた部分かもしれませんね。
リアのグリルを見ると、先代には装備されていた放熱用のファンがなくなっています。
エアフローの改善によってファンが不要になったものだと思われますが、これもリアオーバーハングの重量低減に役立っていそう。
今回R8をお借りしたのはアウディ東大阪さん。
おかげで楽しい体験ができ、改めて感謝です。