| 86は意図しない「未完成商品」だった? |
イギリスのチューナー、「326パワー(326Power)」がトヨタ86(おそらくはBRZにも対応可能)のカスタムボディキットを公開。
見ての通り「超ワイド」で、フロント15センチ、リア20センチという張り出しを持っています。
装着されるホイールも超ディープリム、そして鬼キャン(投げtぃ部キャンバー)、さらに引っ張りタイヤ。
欧州では一般に「暴走族スタイル」が敬遠される傾向に
こういった「暴走族」っぽいチューニングはもともと日本独特の風潮だと考えてよく、それがリバティーウォークのオーバーフェンダーキットとともアメリカ西海岸でブレイクし、かの地での「Boso-Zoku Style」をして人気化しています。
アメリカはクルマを「見て楽しむ」という風潮があるものの、欧州では一般に、クルマをイジるのは「性能向上のため」と捉えており、よって性能をダウンさせるようなチューニングは敬遠される傾向にあるようです。
そのため欧州ではこういった「暴走族スタイル」が受け入れられにくい傾向にあると認識していますが、今回の326パワーのほか、Prior Designなどいくつかのチューナーがこういったキットを発売しているようですね。
今回の86「ワイドボディ」は日本で登録するのが難しそう
そして今回公開されたトヨタ86向けのワイドボディキットですが、フロントリップスポイラー、前後オーバーフェンダー、サイドウイング、リアウイング、リアスカートで構成されていて、見ての通りトヨタ86を「異次元」へ。
日本の法規だと、たとえ構造変更申請を行ったとしても、このリアウイングの出っ張りを見るにまず「登録不可」。
ただ、世界中のカスタムカーを見るに、これでも合法に登録できる地域があるのかもしれません。
ホイールはルム幅などをカスタムできるタイプだと思われ、このエアロキットにベストマッチ。
さらに車高がベッタリ落ちており、これはおそらくエアサス(通常走行時には車高を上げることができる)を装着しているものと思われます。
このエアロキットの価格は邦貨換算にて約67万円、そして受注生産のために納期は3週間ほど必要、とのこと。
なぜトヨタ86は世界中で人気化?
トヨタ86については、世界中でこういったカスタムが見られ、日本はもとより東南アジアでもカスタム熱が高く、様々な楽しみ方がなされているようです。
登場初期は「手頃な価格で購入できるFRそしてスポーツカー」ということで人気を博し、その後様々なチューニングパーツが登場することで「盛り上がってきた」ようにも。
なお、86は「手を加える余地」を残したまま世に出たことが成功の秘訣だったのでは、と考えることがあります。
どういうことかというと、「消費者がクルマに手を加えたくなるような」余地が86/BRZには残されていて、そしてそこを補うためのパーツをショップやチューナーが発売し、それらパーツ装着することでドライバーもクルマも成長し、さらにオーナーはクルマに愛着を抱き、また次なる欲求を満たすために別のカスタム/チューニングを行う、ということですね。
なお、この「手を加える余地」というのは、トヨタ/スバルが意図したことではなく、「そうならざるをえなかった」のだと考えています。
スポーツカーというのは通常の車とは異なる使われ方をする場合が多く、つまりスポーツ走行によって大きな負荷がかかることになりますが、そのため多くのパーツが「専用開発品」に。
よってメーカーにとっては開発や製造コストが非常にかかるクルマとになりますが、そのコストを下げるための手段のひとつが「速度域を上げない」。
スポーツカーなのに対象速度域を上げないというのは大いなる矛盾ではあるものの、対象速度域を低く設定しておけばクルマにかかる負担も小さく収まり、そこでパーツのコストを削減できるわけですね。
実際のところ、トヨタ86/スープラの開発主任、多田哲哉氏も「スープラにターボを装着しないのか」と聞かれ、これに対して「ターボを装着するとパワーが出ることになり、それに耐えうる車体をもたせようとするとコストが嵩み、容易に購入できる価格ではなくなる」と回答。
つまり「ターボを取り付ける」のはターボチャージャーの価格が車体に反映されるだけではなく、それが発生するトルク/パワーに対応できるクーリング、ブレーキ、車体、サスペンションなど「すべて」のグレードを上げる必要があって、それらによってコストがどんどん上昇する、ということに。
そのため、トヨタ86/スバルBRZは「スポーツカーとして極限の性能」よりも”買いやすさ”を重視し、あえてアンダーパワーにとどめたのだと思われますが、パワーとのトレードオフでこだわったのが「ハンドリング」。
これはマツダ・ロードスターも同じだと思われますが、絶対的な「加速」「スピード」よりも運転し、操る楽しさを押し出した、ということになります。
実際に86/BRZを購入した人々がそのハンドリングに心酔し、しかしその素性の素晴らしさゆえ「もっとパワーを出せないか」「もっと強力なブレーキを」「もっと車体剛性を」「もっと締め上げた足回りを」考え、自分の好みにあわせてカスタム/チューンしはじめたことが86/BRZの市場活性化に繋がっていると考えていますが、これは(たぶん)トヨタ、スバルも予期していなかったことで、「嬉しい誤算」だったのかもしれません。
なお、トヨタはこういった状況を客観的に捉えているのか、GRスープラでは「カスタム/チューン歓迎」の姿勢を打ち出しており、発売前からチューナーへと(パーツの)開発用車両を提供するなど、アフターマーケットを盛り上げようとする動きが見られます。
一般にスポーツカーは「登場初期は売れても、その後の人気が続かない」クルマであり、ここは実用車であるコンパクトカーやミニバンとは大きく異るところ。
しかし「オーナーが愛着を感じる」クルマを作ること、オーナーが投入後も費用を投じたくなるクルマを作ることでアフターマーケット市場が盛り上がり(パーツを発売→装着する人が出る→さらにパーツが増える→さらに追加で装着する、というサイクル)、それによって新車/中古車市場も「人気を維持」できることになるのかもしれません。