
| そしてトヨタはいま、センチュリーにて再び世界を驚かせようとしている |
日本のメーカーがいかにして欧州の高級車ブランドに対抗し、独自の地位を築き上げたのか。
その歴史的背景には、単なるビジネスの拡大だけでなく、国家間の外交、経済的圧力、そして「信頼性」を武器にした緻密な戦略が存在します。
2026年現在、トヨタが「センチュリー」を独立ブランド化し、ロールス・ロイスに挑むという新たな局面を迎えている今、改めてその原点を振り返ってみましょう。
記事のポイント(要約)
- 外交の産物:1981年の「輸出自主規制(VER)」が薄利多売から「高付加価値」への転換を強いた
- アキュラの衝撃:1986年、ホンダが先陣を切って欧州車より「壊れないラグジュアリー」を確立
- レクサスの完成度:1989年、メルセデス・ベンツを凌駕する静粛性で世界の高級車基準を塗り替えた
- 次なる標的は超高級車:2026年、トヨタは「センチュリー」をレクサス以上の最上位ブランドとして世界展開へ
欧州の「牙城」に挑んだ日本メーカーの勝算
1980年代初頭まで、アメリカ市場における日本車は「安くて壊れない経済的なクルマ」の代名詞でしたが、その爆発的な普及が日米貿易摩擦を引き起こし、ホワイトハウスとの交渉によって「年間168万台」という輸出自主規制(VER)が課せられてしまいます。
台数を売れないなら、1台あたりの利益を上げるしかない——。
この「背水の陣」が、アキュラ(ホンダ)、レクサス(トヨタ)、インフィニティ(日産)を生む原動力となったことは意外と知られていない事実です。
日本発ラグジュアリー・ブランドの歩みと特徴
当時の「高級車」といえばメルセデス・ベンツ、アウディ、BMWといった「ジャーマンスリー」がお約束。
よって日本の自動車メーカーはこれらに対抗できる製品をもって米国市場を攻略しようと考えますが、その”武器”を選択するに際して、欧州車のような「伝統」がない代わり、「圧倒的な品質」と「おもてなしのサービス」を選択し、これらをもって市場を切り拓くことを決意します。
日本の3大高級ブランドと次世代の覇者
| ブランド | 誕生 | 親会社 | 当時の戦略・特徴 | 2026年現在の動向 |
| Acura(アキュラ) | 1986年 | ホンダ | 「精密なパフォーマンス」。V6搭載のレジェンドで欧州勢を圧倒。 | 電動スポーツ「RSX」復活などEVシフトを加速。 |
| Lexus(レクサス) | 1989年 | トヨタ | 「圧倒的静粛性」。メルセデスの半額近い価格で最高の信頼性を提供。 | 世界的なプレミアムブランドとして確立。EV「Rz」等へ展開。 |
| Infiniti(インフィニティ) | 1989年 | 日産 | 「情緒的なデザイン」。Q45での和の美学と走りの融合。 | 次世代EVや「Q50」後継機で再起を図る。 |
| Century(センチュリー) | 2025年 | トヨタ | 「日本独自の静寂」。レクサスを超える世界最高峰ブランド。 | ロールス・ロイス、ベントレーを競合に見据えた世界展開。 |
歴史を塗り替えた「LS400(初代レクサス)」の衝撃
1989年に登場したレクサスLS400(日本名:セルシオ)は、当時の高級車の概念を破壊するに十分な存在で、世界的に見ても高級車は「LSが登場する前」と「LSが登場した後」に分類していいのでは、とも考えています。※レクサスLSの登場は「レクサス・ショックとしても知られる
それまでのメルセデス・ベンツやBMW、アウディは、たとえ上位モデルであっても「ドライバーズカー」としての性格をあわせもっており、一定の振動やノイズについては、「インフォーメーションの一環として、ドライバーに伝えて当然のもの」として捉えられていたわけですね。
つまり「外界とのコネクション」を大切にしていたとも考えることができますが、そこへきて登場したのが「それらのインフォーメーションを徹底的に抑え込み」、外界との関係性を絶ったと表現していいほどの静粛性を持つレクサスLS。
要するに、レクサスLSはそれまで「当たり前」とされてきたことを真っ向から否定し、その一方で「静かさ」という新しい価値観を提示したことに意義があると考えています。
そしてこの新しい価値観についてはすぐさま市場に受け入れられ、つまりそれだけ「静かさを求めていた人が多かった」ということになるのかもしれません。
それまで、高級車市場には(大衆車よりも静かではあるが)ある程度の振動とノイズを許容するクルマしか存在せず、そしてそれが当たり前だったので、消費者は「とんでもなく静かな」クルマを欲していたことすら自分自身でも把握しておらず、しかしそれに気づかせてくれたのがレクサスという存在。
まさにスティーブ・ジョブズのいう「客は、目の前にそれが出されるまで、自分が何を欲しがっているのかすらわかっていない」状態であったのだと考えられ、そしてこれに気づかせてくれたのがレクサスなのだと思われます。
そして人というものは、自分が知らなかったことを教えてくれたり、初めての体験をさせてくれた人やモノに帰属意識を抱く傾向があり、これが「カリスマ」や「ブランド」を形づくってゆくのだとも考えていますが、まさにレクサスのブランド形成と成功は「それまで思いもよらなかった価値観を提供し、体験させてくれた」ことによるのかもしれません。
- 圧倒的な静粛性:時速200km以上で走行しても車内で囁き合える静かさ
- 故障のなさ:欧州車では当たり前だった「維持費の高さ」を解消
- 価格破壊:当時のメルセデス・ベンツ 420SELが約6万ドルだったのに対し、LS400は約3.5万ドル
一方、「アキュラ」「インフィニティ」は現在苦しい状況にあり、レクサスのような継続的な成功を掴み取ることができておらず、その理由は「レクサスがそうしたような、価値観のパラダイムシフト」を起こせず、あくまでもレクサスと同じ路線で、さらにはその路線においてもレクサスには及ばなかったからなのかもしれません(ただ、展開順ではアキュラ→レクサス→インフィニティである)。
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とにもかくにも、レクサスの成功は「静かで快適」「品質が高い」「価格が安い」ということよりも、「新しい選択肢が存在することを教えてくれた」という価値の提案にあるのだと考えています(それによって、新しい市場=生息域を創造し確保したと考えていい)。
「いい素材を使用して、高い品質で組み立てれば高級車になるわけではない」。
レクサスの成功、そして現在のアキュラとインフィニティの状況はこの事実をぼくらに教えてくれ、「高級車が高級車として成立するには、それなりの理由が必要である」というわけですね。※モノを作ろうとしたアキュラ / インフィニティと、ブランドを作ろうとしてきたレクサスとの差であるとも考えられる
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なぜ今「センチュリー」がレクサスの上に君臨するのか?
そしてトヨタは2025年、ジャパンモビリティショーにて「センチュリーを独立ブランド化する」と発表。
- Lexusとの違い:レクサスが「最先端技術とグローバルな豪華さ」を追求するのに対し、センチュリーは「日本の伝統美、静寂、そしておもてなし」に特化。
- 市場の狙い:世界中の富裕層が「単なるパワー」よりも「心の平穏(Stillness)」を求める中、V12や爆音ではなく、極上のハイブリッドと職人技による「動く茶室」のような体験を提供。
- 競合:メルセデス・マイバッハはもちろん、価格帯と格式においてロールス・ロイス・スペクターやベントレーを明確なターゲットに
Image:TOYOTA
ただ、上述の理論に従うならば、いかに品質が高く、贅を極めていたとしても、既存の価値観の延長線上にとどまるのであれば「大きな成功」は望むことができず、しかしレクサスを成功させたトヨタだけに、センチュリーにおいても「再び」革命を起こしてくれるのかもしれません。
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結論:日本車は「伝統」さえも作り出した
かつてボルボの北米社長は「日本車がラグジュアリー市場に食い込むことは不可能だ」と断言したことがあり、しかしそれから40年。
日本車はもはや「安い足グルマ」ではなく、「最高の選択」として選ばれています。
そしてさらにここからは、トヨタが「センチュリー」を世界へと放つことで、自動車の最高峰とされる「超高級車(ウルトラ・ラグジュアリー)」の勢力図が、再び書き換えられようとしているのが現在地。
かつてLS400がそうしたように、日本独自の価値観が世界のスタンダードになる瞬間がすぐそこにまで来ているのかもしれません。
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参照:jalopnik





















