| ブガッティEB110はヴェルサイユ宮殿にて、エットーレ・ブガッティのちょうど110歳の誕生日に発表された |
過去のブガッティへのオマージュも盛り込まれ、未来のブガッティへと続く道を作った記念碑的存在だと言える
さて、近年急速に価値を上げているブガッティEB110。
その中でもさらに希少な「スーパースポーツ」、そして2台しか製造されていない「ビアンコ・モナコ」のボディカラーを持つ個体が11月の競売に登場する予定となっています。
なお、EB110の相場が急上昇したのは、フランス拠点である現在のブガッティ・オトモビルが、ブガッティの創立110周年記念の際に送り出す限定ハイパーカー、チェントディエチのモチーフとしてEB110にスポットライトを当てたためで、それによって「イタリア資本であり、現在のブガッティとは関連性のないアウトモビリ・ブガッティ」が世に送り出したEB110が再評価されたため。
-
今度はシルバー!ブガッティがチェントディエチの祖先、そして当時の革命児であったEB110とを並べ、その類似性、それを実現した手法について語る
| EB110の存在がなければ、現代のブガッティは今のような姿ではなく、成功もなかったかもしれない | ブガッティEb110とチェントディエチは見れば見るほどよく似ている さて、ブガッティは「ブガッテ ...
続きを見る
ブガッティEB110はこういった生い立ちを持っている
もともとブガッティはフランスにて、エットーレ・ブガッティが興した自動車メーカーですが、その後様々な事情によって業績が悪化して買収され、その時点で自動車事業からは事実上撤退することとなっています。
よって1952年以来、(EB110が登場するまでは)自動車ブランドとしてのブガッティは休眠状態であり新車も登場しなかったのですが、1980年代後半にイタリア人の実業家、ロマーノ・アルティオーリがブガッティの商標権を取得して(ブガッティを買収したわけではない)アウトモビリ・ブガッティを設立し、1987年10月にイタリアのカンポガリアーノに工場を建設。
ロマーノ・アルティオーリ氏はパオロ・スタンツァーニ、マルチェロ・ガンディーニといった、ランボルギーニ・カウンタックを設計・デザインしたメンバーを集めてこのEB110の開発にかかり、ついに1991年9月15日、およそ40年ぶりのブガッティの新車として、パリのヴェルサイユ宮殿の前にてEB110 GTがデビューしています。
-
ブガッティEB110の中古相場が10倍近くまで高騰し「第二のマクラーレンF1になる」とまで。なぜマクラーレンF1、そしてブガッティEB110はそこまで高く評価されるのか?
Image From : Bugatti | それはシンプルに、マクラーレンF1、そしてブガッティEB110が「ゲームチェンジャー」だったからだと思う | そして今後、こういった「歴史を変えた」クルマ ...
続きを見る
なお、EB110というのは、ブガッティ創業者である「エットーレ・ブガッティの生誕110周年記念」という意味があり、9月15日はドンピシャでエットーレ・ブガッティの誕生日です。
こういった命名からもわかるとおり、ロマーノ・アルティオーリという人物はそのブランドの歴史に対して忠実なクルマを作ろうとした人ということがわかり、後にロータスを買収した際に発売した「エリーゼ」もまた「E」ではじまるという伝統的なロータスの命名法則に則ったものであり、もちろん「軽量性がトッププライオリティ」というコンセプトもロータスのDNAそのもの。
-
ロータス公式!「ロータスの車名はなぜEではじまるのか」がついに明かされる
| そのはじまりは「マークXI」の「XI」をアルファベットにて「ELEVEN」と記載したことだった | 「イレブン」はシリーズ1、シリーズ2通じて270台が製造されるヒット作に さて、ロータス車のネー ...
続きを見る
ちなみにですが、ロマーノ・アルティオーリはフロントにブガッティ特有の馬蹄型グリル(ホースシューグリル)を与えたいと考え、しかしデザイナーのマルチェロ・ガンディーニがこれを不要だと論じ、どうしても意見が折り合わず、結果的にロマーノ・アルティオーリがブガッティらしさを追求したため、マルチェロ・ガンディーニがプロジェクトから去るという事態に発展しています(そうまでもしてもブランドアイデンティティを守りたかった)。
そういった強いこだわりとともにこのブガッティEB110は製造されているわけですが、そのため品質においても非常に高いレベルにあり、細部に至るまで非常にコストを掛けたクルマとなっていて、テールランプの中にはこういった立体のルーバー(ボディカラー同色)も。※たぶん、テールランプを目立たないように、そしてボディと一体化させ見せたかったのだと思う
このダクト形状はチェントディエチにも再現された「重要なアイコン」に。
ヘッドライトの内側にはインテークが組み込まれ、機能とデザインとを巧みに融合させていることがわかります。
ブガッティEB110はパフォーマンスも超一級だった
このブガッティEB110は3.5リッターV12エンジン、しかも「クワッド(4)ターボ」という独特なパワーユニットを持ち、これを車体ミッドに搭載し4輪を駆動します。
この「クワッドターボ、ミドシップ、4WD」は、こののち新しくフォルクスワーゲンが設立した(全く別資本の)ブガッティ・オトモビルから発売されたシロンにも引き継がれており、つまりそれだけ完成度が高く、究極のパッケージングを持っていたということになるのかもしれません。
ちなみにランボルギーニ・カウンタック設計時には「4WDも考慮され」、しかし当時は見送られたそうですが(技術やコスト的な問題からだと思う)、しかしこのブガッティEB110において、パオロ・スタンツァーニら元ランボルギーニの技術者たちは、「カウンタックでできなかったこと」を詰め込んだのでしょうね(たぶん開発作業は楽しかっただろうと推測)。
そうやって「半ばコスト度外視で」作られたこのスーパーカーは、「フェラーリF40や、ランボルギーニ・ディアブロでは満足できない」コレクターの目に新鮮に映り、大きな評価を得ることになりますが、ロマーノ・アルティオーリは現状に飽き足らず、さらに高いパフォーマンスを追求し、EB110 GT登場の半年後には、その発展版としてEB110スーパースポーツを登場させることに。
これは1992年のジュネーブ・モーターショーにて発表されていますが、ECUやインジェクターの大型化、排気システムの見直しなどにより、最高出力はEB110 GTの550psから603psにまで引き上げられ、さらにアルミパネルの一部をカーボンファイバーに変更するなど軽量化も追求されています。
これらの改良により、EB110スーパースポーツはは0-60 mph加速3.2秒、最高速度350km/hという驚異的な性能を発揮することとなったわけですね。
しかし時はブガッティに味方せず
ただ、その直後に発生した世界同時不況によってスーパーカー市場が一気に縮小してロマーノ・アルティオーリの夢は崩れ去ることになり、1995年には工場が閉鎖され、残された資産を買い取ったヨッヘン・ダウアーによって生産が続けられたものの、生産されたのはEB110 スーパースポーツ30台を含む「わずか139台」のみにとどまっています。
-
現ブガッティが公式に「2台しか製造されなかった」前時代のブガッティEB110スポーツ・コンペティツォーネを公開!かつては借金のカタとして押収されたことも
| 現ブガッティは「ブガッティ・オトモビル(仏)」、EB110を発売したブガッティは「アウトモビリ・ブガッティ(伊)」 | 両方ともブガッティの商標権を引き継いだのみで「別の会社」 さて、ブガッティE ...
続きを見る
この個体のインテリアカラーは(ブラックに見えますが)実はネイビーだと紹介されており、納車されたのは1996年4月だという記録が残ります。
引き渡されたのはモナコのオーナーで、その後2012年に現在のオーナーが入手したというので「ツーオーナー」ということになりますね。
走行距離は24,467km、直近でブガッティ・ロンドンにて点検を受けており、マイナートラブルも解消されていると紹介されています(整備費用は8,108ポンド)。
なお、このアウトモビリ・ブガッティが倒産した後、1998年にフォルクスワーゲングループがその商標権を買い上げ、全く別の組織と工場とともに設立したのが現在のブガッティ・オトモビル。
参考までに、もとのアウトモビリ・ブガッティのメンバーの一部は、オラチオ・パガーニを中心としてパガーニ・アウトモビリを設立しているので、資本関係、物理的な関係は絶たれたといえど、アウトモビリ・ブガッティの魂は現在でもまだ生き続けていると考えていいのかもしれません。
あわせて読みたい、ブガッティ関連投稿
-
かつては日本にも保管されていた「世界で最も走行距離が少ない」ブガッティEB110SSが過去最高記録の316万ドル(約4.4億円)で落札される!今年で3回目の記録更新
| 「もっともコンディションに優れる」ブガッティEB110スーパースポーツが競売に登場 | おそらくは今後も継続して価格を上げることになるだろう さて、今年はじめに連続して「過去最高落札記録」を塗り替 ...
続きを見る
-
ブガッティは「本」までもが高価だった!競売にEB110の開発背景を紹介する限定ブックが登場し640万円で落札される。著者は前ブガッティのブランディング責任者
| 当初、ブガッティEB110はかつてのブガッティのように「リアホイールカバー付き」でデザインされていたようだ | ここまでブガッティらしさを表現したクルマは近代に例を見ない さて、モントレー・カーウ ...
続きを見る
-
フェラーリ288GTO / F40の生みの親、ニコラ・マテラッツィ氏が83歳で亡くなる。ランチア・ストラトス、ブガッティEB110の開発や生産にも関わった生粋のカーガイ
| またひとつ、巨星墜つ | 思えば1970-1980年代は「大御所」が活躍した時代であり、またその土壌があった フェラーリF40生みの親とも言われるイタリアのエンジニア、ニコラ・マテラッツィ氏が8月 ...
続きを見る