| それではBMW会社自体が成り立たなくなってしまう |
たしかにそれは完全なる正論ではあるけれど
さて、BMWのサステナビリティ・チームの責任者であるモニカ・デルナイ氏が「廃棄物や自動車が環境に与える影響を減らすためのシンプルな方法のひとつは、単純に自動車を長持ちさせることである」という衝撃的なコメントを発表。
自動車の製造時、そして廃棄時に多くのCO2を排出することは一般的によく語られるものの、「自動車を製造し、売らなければ会社が成り立たない」BMWの管理職からこういった発言が出ることは大いなる驚きでもあります(同氏がクビにならないことを願う)。
BMWのサステナビリティ・チームの責任者はかく語りき
加えてモニカ・デルナイ氏は、「自動車メーカーは、自動車を互いに売りあうのではなく、自動車の寿命を延ばすことを考える必要があります。たとえば、中古車のインテリアをリフレッシュさせるというアイデアもそのひとつです。たとえば、古いシートを取り外して、新しいシートを入れれば、新車のような中古車になります。あるオーナーが新車を買わなくても、BMWとしてのビジネスモデルは成立しますし、社会全体がその恩恵にあずかることができるのです」。
ここでいう「ビジネスモデル」とは、現存する車両の「リフレッシュ事業」なのだと思われますが、新車販売を大きく落としても会社が成り立つのかどうかについては正直理解が及ばず、傍から見ると「これは自動車メーカーの人として”言ってはいけない”ことなんじゃないか」と思ったり。
実際に自動車製造が環境に負荷をかけていることは事実である
自動車産業が環境に与える影響をいかに軽減するかという問題を追求するに際し、各国が(ガソリンやディーゼルエンジンを搭載する)内燃機関自動車から電気自動車への移行を模索している中で、「電気自動車の製造が、ガソリン車よりも環境に負担をかける」という事実は”事態をかなり複雑に”していますが、要は「環境に優しい電気自動車へと移行しようとなると、その段階でどうしてもCO2が(ガソリン車以上に)出てしまうということに。
参考までに、ボルボによると、鉄鋼の二酸化炭素排出量は、自動車製造において平均33%を占め、世界の鉄鋼業はワールドワイドでの温室効果ガス排出量の7%を占めている、とのこと(ガソリン車も含んだ自動車全体で)。
一方、EPAによると、2020年のアメリカの温室効果ガスのうち、運輸部門が占める割合は27%だという試算があり、CO2を排出する内燃機関搭載自動車を、CO2排出量のかなり少ない電気自動車に置き換えることは大きな意味を持ちます。
しかしながら、この27%のうち、少なくない比率をトラックなどの大型輸送車が占めており、現時点ではこれらをEVへ切り替えることはかなり困難であるため(重い荷物を積むと、航続可能距離が伸びない)、実際にこの27%を小さな数字とすることは簡単ではないかもしれません(テスラはこれに挑戦するため、セミを発売したのだと思う)。
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さらにボルボの試算によれば、EVの製造時には、ガソリン車の製造時に比較して1.7倍のCO2を排出するといい、これを帳消しにするには10万キロほど走らねばならないとされ(ただし充電に使用する電力が風力発電などのクリーンなものか、それとも火力発電などCO2を排出するものなのかにもよる)、そう簡単にEVへの移行によって環境をクリーンにできるわけではない(むしろ急激にEVが増えると短期的には悪化しかねない)ということもわかります。
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「個人向け自動車」を持てない時代は来るのか
そしてモニカ・デルナイ氏は、自動車産業をより環境に配慮したものにすることの重要性を指摘しており、しかし「大都市の人々が公共交通機関を利用するのは理想的かもしれませんが、すべての人にそれが通用するわけではありません」とも。
「すべての人を公共交通機関の利用へと誘導することは可能でしょうか?答えはノーだと思います。郊外では公共交通機関が発達していない地域もたくさんあります。よって、個人向けの自動車を廃止するという案は現実的ではありません」とも述べていて、これはまさにそのとおり。
世界の隅々にまで公共交通機関の網を張り巡らせることは(技術的に)不可能ではないかもしれませんが、そのためにまた大量のCO2を発生させることになり、さらに人が乗っていなくても無駄に運行させる必要も出てきたりして、「何をやっているのかわからない」ということになる可能性もあり、つくづくエコとは難しいものでもありますね。
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参照:AutoExpress