| 数え切れないほどの転売が繰り返されたこのフェラーリ・デイトナ・スパイダーには「17年の空白」がある |
それでも現在は「世界でもっとも価値の高いデイトナ・スパイダー」の一台として認識されている
さて、非常に希少なフェラーリ365GTS/4デイトナ・スパイダーが競売に登場。
フェラーリ365GTS/4デイトナそのものは非常に興味深いバックボーンを持っていて、というのも先代モデルである275 GTB/4と、その後に発売する予定であったV12ミドシップモデルとの「つなぎ」として発売されたため(フェラーリはフロントエンジンからリアミッドへと移行することがすでに決まっていた)。
しかしながらレオナルド・フィオラバンティのデザインによる革新的なシャークノーズをはじめとしたボディワークが好評を博し、かつモータースポーツにおいても華々しい戦果を挙げたことで商業的に大成功を収めることになるわけですね。
フェラーリ365GTS/4デイトナは「最後のV12フロントエンジン・グランドツーリング・マシン」
ただ、いかに大成功を収めたといえど次のミドシップカーの開発が進められていたため、フェラーリは「V12フロントエンジン」を継続させることはできず、よってこのフェラーリ365GTS/4デイトナは「最後のV12フロントエンジン・グランドツーリング・マシン」となり、これがまたフェラーリ365GTS/4デイトナの価値を押し上げます。
352馬力という(当時としては)驚異的な出力を誇るV12エンジンによって365GTB/4はランボルギーニ・ミウラを抑えて世界最速の市販車となり、ドライサンプによるエンジン搭載位置の低下とそれによる低重心化、トランスアクスル採用による前後50対50という理想的な重量配分、そして全輪独立懸架の採用によって優れたハンドリング特性を実現することにも成功しています。
さらにはワイドボディとワイドトレッド化の恩恵によってタイヤの接地性も向上し、4輪ディスクブレーキの採用による強力なストッピングパワーの獲得と相まってル・マン24時間レースにおいてはで3度のクラス優勝を果たし、グループ4GTレースでも数年にわたり圧倒的な強さを証明することとなっています。
なお、フロントエンジンではもはやライバルに対して高い戦闘力を発揮できないという理由にてミドシップへの移行を決意したフェラーリではあったものの、その”最後の世代”として投入したフロントエンジン車が優れた成果を挙げたのは皮肉な話であったのかもしれません。
そしてこの「デイトナ」という名称につき、1967年のデイトナ24時間レースで1-2-3フィニッシュを飾ったことにちなんで "デイトナ "という愛称が付けられたことは有名な話ですが(つまりフェラーリが命名したわけではない)、フェラーリもこのエピソードについては認めており、しかし近年ではまた違った解釈も登場しています。
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その後1969年に開催されたフランクフルトモーターショーにて発表されたのがこの365GTB/4 デイトナ「スパイダー」。
このデイトナ・スパイダーの生産はわずか121台にとどまっていて、これが結果としてコレクターズアイテムとしての価値を保証することとなり、実際のところ売り物がめったに出ないことでも知られます。
搭載されるのはジョアッキーノ・コロンボの設計による古典的なショートブロックV型12気筒エンジンで、約20年にわたる開発がもたらした究極の進化形であり、V12フロントエンジン「最後の」モデルに積まれるのにふさわしいユニットでもありますね。
このフェラーリ365GTS/4デイトナ・スパイダーはこんな経歴を持っている
このフェラーリ365GTS/4デイトナ・スパイダーのシャシーナンバーは「15147」で、マイル表示の計器類を装備したアメリカ向け仕様として製造され、エアコン、電動アンテナ付きヴォクソン・ソナー・ラジオ、トノカバーがフェラーリの工場にて装着済み。
1972年4月に工場での組み立てが完了し、その6ヵ月後にアメリカのルイジ・チネッティ・モーターズへと納品されるべくローマからニューヨークまで空輸されたという記録が残ります。
このデイトナ・スパイダーは当初、フロリダを拠点とする化学会社アッシュ・スティーブンス社の創業者であるカルヴィン・スティーブンス博士が注文したものだったそうですが、博士に納車された後ほどなくして1973年3月にオハイオ州ダブリンに住むウィリアム・ホワイトロー・ジュニアに新車のまま売却され、しかし1年も経たないうちにイリノイ州ヒンズデール在住のロバート・スミスの手に渡ったのだそう。
なぜ短期間で幾度となく転売されることになったのかは不明ではあるものの、当時このデイトナ・スパイダーの人気は「異常」なレベルにあったといい、「プレミア価格で取引されるはじめてのフェラーリの新車」であったとも言われるので、この転売の理由は単に「売却益」を求めた結果であったのかもしれません。
ただしそこから17年間、このフェラーリ365GTS/4デイトナ・スパイダーの詳細については記録が残っておらず、しかしようやく表舞台に出てくるのは1991年12月にアメリカ麻薬取締局に押収された後。
その際のオーナーの職業は「推して知るべし」といったところですが、その1年後にはフロリダ在住のサム・リヒターなる人物が購入し、さらに1995年にはニュージャージー州テナフリーのジェフリー・シュワルツに売却されることに。
そこでジェフリー・シュワルツ氏はフルレストアを行うことを選択し、1998年から2000年初頭にかけ、ニュージャージー州エリザベスタウンにあるクラシック・コーチ・リペアによって全面的に改装され、現在の「ネロ」エクステリア、「タバコ」インテリアが与えられることとなります。
なお、テールパイプも見てのとおり新車同様というか「新車以上」なので、このショップはとんでもなく腕利きだと考えていいのかも。
その後まもなく、このフェラーリ365GTS/4デイトナ・スパイダーはフロリダを拠点とするコレクターに譲渡され、12年間にわたり大切に保管されたそうですが、このオーナーは、(せっかくなされた)レストア状態を可能な限り最適な状態で保存しようと努めたといい、その結果(所有していた十数年の間で)デイトナを走らせた距離はわずか150マイル=約241kmほどだったと伝えられています。
その後2011年、このデイトナ・スパイダーはフェラーリのクラシックカー部門、「フェラーリ・クラシケ」へと申請され、そこでついに価値あるレッドブックが発行されることに(ナンバーズ・マッチのエンジンを維持していることが証明されている)。
そしてフェラーリ・クラシケの認定を受けた後の2012年3月、この美しいフェラーリ365GTS/4デイトナ・スパイダーはRMサザビーズの主催するアメリア・アイランド・オークションに出品され、コネチカット州ニューカナンに住むコレクターによって落札されています。
その2年後、RMのアメリア・アイランド・オークションへと再び出品され、英国リバプールのコレクター、デビッド・ムーアがこれを購入することとなり、同氏の所有期間中にインテリアが(製造当初の仕様であったとされる)ベージュ・スクーロに張り替えられ、その後2018年9月にブレナム宮殿で開催された超高級イベント、サロン・プリヴェ・コンクール・デレガンスでこのデイトナ・スパイダーを披露したのだそう。
そして今回あらためてRMサザビーズ主催のオークションへと登場することになりますが、このデイトナ・スパイダーはフェラーリ・クラシケの認定を受けており、最も目の肥えた人々の集まるイベントにも出品され、その結果として(121台の)デイトナ・スパイダーの中でも特に好ましい一台として知られるまでになった個体です。
フェラーリのエキスパート、マルセル・マッシーニの調査によると、このシャシーナンバー15417は49番目に製造されたデイトナ・スパイダーであり、ベージュのスクーロ・レザー・インテリアにネロ・ペイントというカラー・コンビネーションで仕上げられたわずか2台のうちの1台であることも明らかに。
デイトナ・スパイダーは、クローズドボディ(ベルリネッタ)とは大きく異なるドライビング・エクスペリエンスを提供することとなり、というのもひとたび幌を下ろせば、ドライバーは爽快な風の奔流と周囲の風景を楽しむことができるだけでなく、轟音を響かせる”12シリンダー・シンフォニー”をあますところなく堪能することが可能だから(だからこそ、フェラーリはオープンモデルを特別視してきたのだと思う)。
さらにこのデイトナ・スパイダーの場合、希少かつ非常に望ましいカラーコンビネーションを持つばかりか、新車並みのコンディションを誇り、いったんコンクールに出展すれば非常に高いレベルの賞を獲得できる可能性が高く、つまりどんどん価値を高めてゆくことができる個体であるとも考えられます。
実際のところ予想落札価格は最高で320万ドル(現在の為替レートで4億5400万円くらい)という超高額エスティメイトが出されていて、それでも「将来的な価値を考えるならば」高い買い物ではないのかもしれません。
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参照:RM Sotheby's