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| 自動車メーカーが“クレイモデル”を捨てない理由とは?100年続くデザイン手法の本質 |
自動車業界は変化しても、デザインの原点は変わらない
ディーゼル推しの時代が過ぎ去り、内燃機関の終焉が語られたと思えば、近年では電気自動車(EV)計画の縮小を発表するメーカーも出てくるなど自動車業界は”行ったり来たり”激しく揺れ動いています。
一方で約100年前から今も変わらず自動車メーカーが採用し続ける手法もあり、それが クレイモデル(粘土モデル)。
この技術を導入したのはGMの伝説的デザイナー、ハーリー・アール(Harley Earl)だとされますが、彼は1930年代、木材や金属でデザインを行っていた時代に「流れるような曲線が求められるアールデコ時代のクルマには書の手法が不向き」だと考え、新たに「クレイ(年度)」で造形する方法を開発しています。
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コンピューターが発達し、バーチャル空間にてデザインを行う現在、クレイモデルは時代遅れに見えるかもしれません。
しかし実際には、ほぼすべての自動車メーカーが今もこの技法を採用しており、そしてその理由は驚くほどシンプルです。
クレイモデルが今も重宝される理由
クレイモデルが今でも重宝される理由、その答えは「実物を“目で見て触れる”ことができるから」。
デジタルでは見落としがちなボリューム感やプロポーションを「クレイモデルは極めて自然に伝えてくれ」、その“アナログならではの強み”が、今なおデザイン現場で欠かせない理由だとされています。
- クルマの実物大モデルを歩きながら確認できる
- 光の当たり方によるボディラインの表情変化を把握できる
- モデルを部分的に削ったり盛ったりしながら、直観的にデザインを修正できる
- 仕上げを施すことで、市販車のような質感で確認できる
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クレイモデル制作の工程
① デザイン案の作成
このクレイモデル制作の工程ですが、まず紙またはデジタルでデザインを作成し、上層部の承認を得た後に実寸のクレイモデル制作へと進みます。
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② アルミの“アーマチュア(骨格)”を作る
全体をクレイで作ると巨大な重量になるため、内部にはアルミ製のフレーム(アーマチュア)を組み、その上に発泡材やボックス構造を積み重ね、その外側にクレイを盛っていきます。
③ クレイ(実際には特殊プラスチック)を盛り付ける
温度管理された部屋で柔らかくしたクレイを貼り付けていきます。
④ 5軸ミリングマシンで荒削り
コンピューターに基づいて5軸ミルが大まかな形を削り出し、自動車の“原型”が現れます。
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H3:⑤ 職人による手作業で最終仕上げ
最後は熟練したクレイモデラーが手作業でラインを整え、塗装を行ったりフィルムを張ったり、本物のホイールを装着したりして完成モデルに近い姿に仕上げるわけですね。
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クレイモデルがもたらすメリット
クレイモデルには以下のようなメリットがあり、そのため、コンセプト段階から量産直前の微調整に至るまで、クレイモデルは欠かせない存在であり続けています。
- 設計段階で大きな変更が容易
- 開発陣がリアルな立体物を共有できるため意思決定が速い
- コンセプトカーの“見せるツール”としても強力
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まとめ:100年経ってもクレイモデルは生き続ける
デジタル技術がどれだけ進化しても、「人がクルマを“感じる”ためには、実物大の立体物が必要」という根本は変わりません。
ほぼ全メーカーが今もクレイモデルを採用し続けているのは、この手法が“最も本質的なデザイン確認方法”だからであり、よって「この100年間にいかにデザインや開発技術が進歩したとしても」自動車のデザインの現場における主要な方法であり続けるわけですね。
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実際のところ、どれだけたくさんの写真を見ても、どれだけ精巧な3Dグラフィックスにてそのクルマのデザインを見たとしても、「実際に、実車を自分の目で見てみるとまったく予想していたのと違う」例も少なくはなく、とくに近年のクルマのように素材や塗装技術が多様化し、繊細な表現が可能になった状況においては「百聞は一見にしかず」が顕著になっているように思います。
実際に自分の目で見ると、映像ではわからなかった「ライン」が隠れていたり、角度を変えてみることで発見できる要素を見出すこともでき、人間の感覚というのは今の時代にあっても「デジタルでは追いつかない」素晴らしいものなのかもしれませんね。
そしてデジタルそしてAI全盛の時代だからこそ、ぼくら人間はその「感性」を生かした仕事を追求し、(現時点では)デジタルのみでは生み出せない創作活動に注力すべきなのかもしれない、と考えたりする今日このごろです(正確に言うならば、デジタルの長所、人間の持つ長所を活かしつつ、それぞれ単体では生み出せない創作物を生み出すことを考えてゆくのが今の時代の正しい活動だと思う)。
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