
Image:BMW
| 各メーカーがSUVに集中した結果、セダンはモデル / パワートレーンの選択肢が減少することに |
この記事のハイライト:ヨーロッパ高級セダンの「異変」
- 衝撃のデータ: ヨーロッパのミッドサイズ高級セダン市場は、2025年10月までの10ヶ月間で販売が19%も急減
- ブランドの凋落: BMW 3シリーズは23%減、メルセデス・ベンツ Cクラスは14%減と、伝統的なアイコンが大きく販売を落とす
- 最大の要因: 法人顧客のフリート販売が30%も激減。これが市場全体の落ち込みを加速させている
- 消費者の選択: 顧客は高級セダンからクロスオーバーやSUVへ流出。SUVは実用性が高く、PHEVなど多様なパワートレインが揃っている
- EVは健闘: セダンセグメントの中で、EVであるBMW i4は1.6%減に留まり、唯一健闘している
なぜヨーロッパ市場は「BMW 3シリーズ」を捨て始めたのか?
ヨーロッパ、特にドイツはBMW 3シリーズ、メルセデス・ベンツ Cクラス、アウディ A4/A5といったミッドサイズ高級セダンの本場であり、同時にこれらは長らく自動車文化の象徴的な存在として捉えられています。
アウトバーンでの高速安定性、スポーティなスタイリング、そして成功のステータスを示すアイコンとして、これらのセダンは絶大な人気を誇ってきたわけですね。
しかしその牙城がいま音を立てて崩れ始めているという状況が報じられ、実際に2025年だとヨーロッパのミッドサイズ高級セダン市場は前年比19%減という大幅な落ち込みを記録することに。
この背景には単なる景気低迷ではない自動車市場の構造的な変化が隠されており、ここでは、この「高級セダン離れ」の具体的なデータ、そして顧客がセダンからクロスオーバー / SUVへと流れる核心的な理由を探ってみます。
詳細:市場を直撃した「フリート販売」の急減
伝統的セダンの苦境:販売台数データ(2025年1月〜10月 欧州)
| モデル名 | 販売台数 | 前年比増減率 | 特記事項 |
| BMW 3シリーズ | 60,237台 | -23% | セグメント最大手だが大幅減 |
| アウディ A5 | 53,483台 | New | 新型モデルで好調 |
| メルセデス・ベンツ Cクラス | 41,355台 | -14% | 大幅な減少 |
| BMW i4 (EV) | 36,982台 | -1.6% | セダンセグメントで最も健闘 |
| ボルボ S60/V60 | 16,476台 | -35% | 最も大きな落ち込み |
| ポールスター 2 (EV) | 14,099台 | -26% | EVだが大きく減少 |
| アウディ A4 | 3,467台 | -94% | A5への移行などで激減 |
(出典:Automotive News Europe、Dataforce)
このデータの注目すべき点は、新型のアウディ A5(セダン/クーペ)が好調な一方で、ほぼ全ての既存モデルが二桁減を記録していること。
特にBMW 3シリーズとメルセデス Cクラスという市場のアイコンが大きく失速していることがわかります。
崩壊の主要因:フリート(法人)顧客の離脱
この市場の急激な落ち込みの最も大きな原因として指摘されているのが、フリート(法人)販売の30%減。
ヨーロッパ、特にドイツでは、高級セダンは企業幹部や営業車のフリートカーとして大量に導入されてきたという歴史があり、しかしこの重要な法人顧客層が今、高級セダンからミッドサイズSUVへと急速に移行しているのだと報じられています。
SUVが法人に選ばれる理由
- 実用性の高さ(機能性):
- 広い荷室と高い積載能力は、ビジネス用途や出張、多様なライフスタイルに対応しやすい
- 多様なパワートレインの選択肢:
- セダンに比べ、多くのSUVモデルでプラグインハイブリッド(PHEV)の選択肢が充実。PHEVは、多くの国で税制優遇や企業へのインセンティブが適用されるため、フリートバイヤーにとって魅力的な選択肢に。
つまり、法人顧客は「ステータス」よりも「コストメリットと機能性の両立」を重視し、より実用的なSUVへと合理的に乗り換えているというわけですね。
駆動源のトレンド:セダン市場に残る内燃機関の根強さ
セダンセグメントに残っている顧客の駆動源別の選択は、まだまだ内燃機関が主流であり、ディーゼルやガソリン車が依然としてシェアの過半数を占めていますが、これは長距離移動が多いフリート販売のニーズを反映したものだと推測されます。
ただ、上述の通り「ほぼ内燃機関モデルしか選択肢がない」結果だとも考えられるので、ここでPHEVが拡充されればまた違った結果となるのかもしれませんが、「セダン縮小、SUV拡大」というトレンドの中では各社ともセダンに注力することもできず、「負のスパイラル」によってセダン市場がこのままシュリンクしてゆくのかもしれません。
なお、この状況の中でもEV(BEV)は22%と健闘しており、特にBMW i4が1.6%減に留まっているのは、EVへの関心が高まりつつあることを示していて、ここはひとつの「活路」なのかもしれませんね。
| 駆動源 | セグメント内シェア |
| ガソリン | 33% |
| ディーゼル | 27% |
| EV(BEV) | 22% |
| PHEV | 19% |
関連情報:市場の地理的偏り
更に興味深いのは、この「高級セダン市場の変化」につき、地理的にも偏りが顕著であること。
- ドイツ: 依然としてこのセグメントの最大の市場であり、37%のシェアを占めている
- イギリス: 16%で2位
- イタリア、スウェーデン、ポーランド/フランス: 6.2%以下
ドイツという「ホーム大陸」での需要が市場を支えていますが、そのドイツ国内の顧客までもがセダンからSUVへとシフトしていることが今回の市場崩壊を加速させる決定的な要因となっています(ドイツ市場以外ではセダン人気減退が顕著であり、ここからさらにドイツ市場での人気が落ちるようなことがあれば、セダン市場全体が絶滅の危機に瀕することになるだろう)。
結論:セダンの未来は「高性能EV」のみが救う?
いずれにせよ、BMW 3シリーズやメルセデス Cクラスといった伝統的な高級セダンがヨーロッパで消費者に「見放され」ているのは紛れもない事実。
Image:Mercedes-Benz
これは、セダンが単にSUVに実用性で負けただけでなく、法人顧客がコストとインセンティブの観点からSUV(特にPHEV)を選び始めた、という市場の合理化の結果です(さらにはSUVのほうがリセールがいいという判断が働いているのかも)。
その一方、EVであるBMW i4の販売が微減に留まっていることは、セダンという形状の「静かでスポーティな走行性能」を求める層が一定数存在し、EVという新しい価値と結びつくことで生き残りの道があることを示唆しています。
高級セダンが再び市場の主役になることは難しいかもしれませんが、今後は「高性能なEVセダン」として、従来のセダンでは味わえない新しい魅力を提供することにより、ニッチな高性能市場での地位を確立してゆくこととなるのかもしれません。
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参照:Motor1
















