
| フェラーリはなによりもV12、そして自然吸気のままのV12エンジンを愛している |
この記事のハイライト
- V12を「なだらか」に: フェラーリが、自然吸気(NA)V12エンジンのトルク曲線の不均一性をリアルタイムで制御し、なめらかにする特許技術を検討中
- オーバーステアを抑制: トルクの急激な「湧き上がり(サージ)」や「落ち込み(ディップ)」は、高性能走行時に予測不能なオーバーステアを引き起こすため、ドライバーがより複雑な運転を強いられるという問題を解消
- 点火時期と吸気バルブで調整: ターボ車のようにブースト圧で制御できないNAエンジンでは、点火時期の微調整(高速応答)と吸気バルブのリフト量変更(中〜長期応答)を組み合わせて目標トルクを実現
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V12エンジンは暴れん坊?高性能走行の難しさを解消するフェラーリの挑戦
フェラーリの自然吸気V12エンジンはその官能的なサウンドと、回転数が上がるにつれて爆発的に湧き上がるパワーが最大の魅力です。
しかし、その「荒々しさ」こそが限界走行における繊細な課題を生み出していたことも事実であったようで、フェラーリが最近出願した特許から明らかになったのは、同社が現在も販売を続けるV12エンジンを「よりなめらかで制御しやすい」特性にする技術を模索しているという事実。
この技術は、トランスミッションを保護するローンチコントロールの一部なのか、それとも限界走行時のドライバーの安全性を高めるためなのか、その目的は両面から考えられますが、本質は「エンジンのトルク曲線を平滑化する」ことにあります。
なぜNAエンジンのトルク制御は難しいのか?
今回の出願内容を見るに、フェラーリは高回転型の燃焼エンジンは「比較的不均一なトルク曲線を示す可能性がある」と指摘。
スロットル全開であっても、回転数がレッドラインに向かうにつれ、わずかなトルクのサージ(急増)やディップ(急減)が発生すると述べています。
トルクの不均一性がもたらす課題
- ドライビングの複雑化: 突発的なトルクのサージはパワーオーバーステア(後輪の滑り)を引き起こし、逆にディップは異なる種類のオーバーステアを誘発するなど、限界での走行を予測しにくく、複雑にする
- ターボとの違い: 現代のターボエンジンでは、ブースト圧をリアルタイムで調整することでトルク曲線を完璧になめらかにできるものの、NAエンジンではそれが困難(スロットルを閉じると反応が遅れ、燃料噴射の調整にも限界があるため)
フェラーリの答え:点火時期とバルブ制御の合わせ技
そこでフェラーリは、ターボエンジンと同じ効果をNAエンジンで実現するため、「アクチュエーター」と呼ばれるトルクに素早く影響を与える複数の制御方法を組み合わせることを提案し、このシステムの目標はまず「瞬時のトルク制御値」という目標出力を算出し”そこに到達すること”。
1. 瞬時(高速)な調整:点火時期
最も高速にトルクを調整できる手段として、点火時期(スパークタイミング)の微調整が用いられます。
- 原理: 点火時期をわずかに進角させたり遅らせたりすることで、トルク出力を微細に変化させることが可能であり、これは瞬時に発生する
- 限界: ただし、この方法で変更できるトルクの幅には限界がある
2. 長期的な調整:スロットルとバルブ
さらにはより大きな、または予測に基づいた長期的な結果を得るために、以下の手段が併用されます。
- スロットルバルブ: スロットル開度を調整して吸気量を制御
- 吸気バルブのリフト量: より高度なバルブトレーン(動弁系)を持つクルマでは、吸気バルブの持ち上げ量(リフト量)そのものを変えてエンジンの吸気効率を調整し、目標とするトルク値を達成
このシステムは、既存のトラクションコントロールやスタビリティコントロールが介入する手前の領域、つまりドライバーが全開で走行している時にエンジン内部で動作し、制御しやすさを高めることを目的としています。
フェラーリの考えるV12エンジンの未来
このフェラーリの特許はV12エンジンの未来について非常に重要なメッセージを含んでおり、なによりも重要なのは「フェラーリがV12エンジンを諦めない」ということ、そして自然吸気のまま存続させようとしていること。
1. V12は「遺産」ではなく「進化」の途上にある
EVやターボエンジンへの移行が進む中、自然吸気V12は「最後の遺産」のように語られがち。
しかしフェラーリは、単に音やフィーリングを残すだけでなく、現代の技術(複雑な電子制御)を用いて運転の正確性や安全性を向上させようとしています。
- ポイント: 究極のパフォーマンスを追求するブランドであっても、「ドライバーがより安心してクルマを限界まで扱えるようにする」という方向に設計思想がシフトしていることも理解可能。実際のところ、マネッティーノや電制デフなどの電子制御も「どのドライバーであっても安全に攻めることができるように」という目的のもと進化を重ねており、市販車では「非常に珍しい」タイヤ温度表示が備わることも同じ観点からだと思われる
2. ハードウェアを変えずにソフトウェアで進化
特許では、このシステムが新しい部品や大きな計算能力を必要としないため、実装が容易であると述べられており、既存の制御ユニットのソフトウェアアップデートだけで古いフェラーリにもこのトルク制御技術を追加できる可能性を示唆しています。
この技術は、エンジニアリングの観点からNAエンジンの新しい可能性を開くものであり、フェラーリが伝統と革新を両立させながら、そのアイデンティティであるV12エンジンを守り抜くための「賢い戦略」であると言えるそうですね。
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参照:CARBUZZ


















