| 技術以外にも、空を飛んで人を運ぶには障壁が多すぎる |
アウディは2018年のジュネーブ・モーターショーにて「空飛ぶ車」として「ポップアップ・ネクスト(Pop.Up Next)」コンセプトを発表し、イタルデザイン、仏エアバス社とともに航空産業へと参入することを表明しましたが、そこから1年ちょっとで「実現が非常に困難なことがわかった。計画を延期する」と発表し、事実上の計画凍結をアナウンス。
アウディはこの事業に大きな期待を寄せていただけに、社内でも失望とダメージが大きいとは思うものの、この計画は最初から困難だった、とも考えられます。
どうやってもスペースとコストが要求される
このポップアップコンセプトは、フライトモジュールと称する飛行ユニット、そしてグラウンドモジュールなど走行用ユニット、人が乗るキャビンの3点セットから成り、たとえば自宅からフライトモジュールの待機するスペース(ミニエアポート?)まではキャビンをグラウンドモジュールへ載せて走ってゆき、そこからはキャビンをフライトモジュールへとドッキングさせて空を飛んでゆく、という構想。
フライトモジュール、カーモジュールともに「フルエレクトリック」「フルオート(自動運転)」を目指していて、フライトモジュールは時速120キロにて50キロの距離を移動でき、充電にかかる時間は15分。
カーモジュールは130キロを走行できる、としています。
ただ、これにはいくつか問題があり、そもそもフライトモジュールを待機させるスペースが必要で、そこで「乗り換えた」グラウンドモジュールを保管しておく場所も必要。
おそらくこれらは「公共」でのシェアを考えているのだと思われ、全てのモジュールを待機させておく必要はないものの、「使用したいときに」モジュールがないと困るので、やはり一定数をストックする場所が必要になりそうです。
そして次なる問題は「キャビンのドッキング」。
グラウンドモジュールやフライトモジュールからキャビンを切り離し、それらを別のモジュールにドッキングさせるのは「全自動」とはゆかず、人の手を要することになりそう(技術的な意味でも、安全性の観点からも)。
さらには一度に複数のキャビンをドッキングさせるには無理があると思われ、「ドッキング待ち」が出たりという問題も。
そしていざ飛んだとしても、このキャビンは似人乗りなので「家族4人」での利用はできず、2人であっても個々が重いスーツケースを持っていると重量オーバーとなり、複数機を利用しなくてはならず、これだと費用的にも環境的にも「効率的」とはいいがいたいと考えているわけですね。
加えて豪雨だったり強風だったりすると「飛ばない」可能性もあり、それらを考えると、「クルマで目的地まで走っていったほうがええやないの・・・」となり、時間もお金もかかる、空飛ぶクルマを利用したいと考える人はいないんじゃないか、とぼくは考えています。
もちろん、墜落の可能性もゼロではなく、しかしこういった空飛ぶ車はいずれも都市部での使用を前提にしてますが、「街なかで飛ばす」のは到底認可がおりないのかも。
そんなワケでぼくは空飛ぶ車は「空を飛べるかどうかという技術の他にも」様々な問題を内包していると考えていて、自動運転同様に、「それ専用に設計された都市でないと」実用は難しいだろう、と考えています。
なぜ、大企業はこれを実現できると思うのか
そこで不思議なのは、アウディのような一流企業で、高い知能を持つ人々の集まる会社が、なぜ本気これを実現できると考えたのかということ。
アウディは「将来的にはクルマを個人で持つ時代ではなくなる」という危機感から、こういった公共でのモビリティを模索しているのだと思いますが、現在の自動車販売台数をこれに置き換えできるほど数が普及しない(上述のような、様々なハードルにて)のは明らかなはずで、これに取り組んだということ自体が疑問そのもの。
ちょっと前は「ドローンで宅配」が多くの会社の未来でしたが、結局それも規制等に阻まれて実現は遠く、自動運転もそれは同様。
もちろん技術的なチャレンジ無くして人類は前に進んで行けないことは理解しているものの、ちょっと「無謀」だったんじゃないか、とも考えているわけですね。
その意味においては、現在各社が取り組んでいる「空飛ぶクルマ」も、あと数年という短い期間で「やっぱり無理だった」という答えが出るものと思われ、さらに数年後には、各社とも「なんであのとき、空飛ぶクルマがイケると思ったんだろうな・・・」と首をかしげる事になるのかもしれません。