| どうりでフォルクスワーゲングループはランボルギーニの売却を考えるわけだ |
さて、日経やブルームバーグによって広く報道されているのが「フォルクスワーゲンに200億円もの罰金が課された」というニュース。
これはなにか悪いことをしたわけではなく、「EUにて導入されている、CO2排出規制に適合できなかった」ために課されたものです。
現在欧州では「メーカーごとに1台あたりのCO2排出量をどれくらいに抑えるように」という数値が決められていて、しかしフォルクスワーゲンは「1台あたり0.5グラムオーバーしてしまった」ために1億5000万ユーロ(日本円で約200億円)を支払わなくてはならなくなったわけですね。
その達成レベルはかなりハードルが高い
報道によれば、2020年の欧州において、新車1台あたりの平均CO2排出量を95グラム(基本)に抑えるべしという規制が敷かれており、しかしこれはメーカーによって異なっていて、フォルクスワーゲンの場合は「99.3グラム以下(しかしながら2020年を終えてみると99.8グラムだった)」。
ちなみに2019年の1台あたり平均排出量は124グラムだったとされるので、実際には大きく削減に成功したものの、ちょっと残念な結果に終わっています。
ただ、フォルクスワーゲンは2020年に相当額の罰金を支払う必要があることは「計算済み」だったようで、これだけの罰金を支払おうとも経営に影響は出ない、とコメント。
実際のところ多くの自動車メーカーがこれを達成できずに罰金を払っていると報じられているので、当初から罰金を計上した経営計画を練っていたのでしょうね。
フォルクスワーゲンのPHEV販売台数は2019年比で4.3倍へ
そして報道では、2020年のVWグループにおけるPHEV販売は2019年比の4.3倍である325,400台だったと述べていますが、これによって「前年比マイナス20%」のCO2排出量を達成したということに。
ちなみに「1台あたり95グラム」がどういうレベルなのかということに付いて触れておくと、カイエン(ガソリンエンジン)のCO2排出量が210グラムなのに対し、カイエンEハイブリッドは58グラム。
マツダ・ロードスター(1.5リッター)のCO2排出量は138グラムなので、ガソリン車である限りはどれほど排気量を小さくしようとこの95グラムをクリアできず、これが「各社とも、PHEVやEVを急いで発売する」理由でもあるわけですね。
そして今回の数値については、おそらくフォルクスワーゲン「グループ」全体での数字だと思われ、つまりアウディ、ポルシェ、ベントレー、ランボルギーニ、ブガッティ等も含んだ数字だと考えられ、そこで足を引っ張ったのがランボルギーニやブガッティというプレミアムカーメーカーだと言えそう。
たとえばランボルギーニ・ウルスだと325グラム、ウラカンEVOが332グラム、アヴェンタドールSが499グラム。
ランボルギーニはフォルクスワーゲングループにとっても「ドル箱」ではあるのですが、同時にCO2排出規制に関しては頭の痛い存在であるとも考えられます(まさに諸刃の刃)。
2020年の規制だと、「超過分(グラム数)あたり95ユーロを支払わねばならない」ので、ウラカンEVOの場合は332グラム引く99.3グラム=232.7グラム。
この232.7グラムに95ユーロをかけると22,106.5ユーロということになって、これは日本円にすると約280万円。
つまりフォルクスワーゲングループは「ランボルギーニ・ウラカンEVO1台を売るごとに、280万円の罰金を支払っている」ということになりますね(アヴェンタドールSだと480万円の罰金!)。※実際には、ほかブランドの「貯金」をランボルギーニやブガッティが「食いつぶしている」ことになるので、もっと多くの罰金を支払っているのと同じ計算になる
こういった数字を見るに、フォルクスワーゲングループ内で「ランボルギーニを売却するか・・・」という議論がなされるのは十分理解のできる話だと思います(しかもこのCO2排出量規制は年々厳しくなるので、ランボルギーニ一台あたりの罰金も増えてゆく)。
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罰金は「オープン・ルール」で回避可能
なお、多くのメーカーが「罰金を予め想定している」というのが実情ですが(トヨタ、PSA、メルセデス・ベンツはこれをクリアしたらしい)、この「CO2排出量はお金での売買が可能」。
これはオープン・プールと呼ばれ、たとえばテスラのように「全車CO2排出量がゼロ」のメーカーは、自身の持つ「95グラム枠」をほかメーカーに売ることが(合法に)できます。
よって、最初から罰金を支払うことが確定している自動車メーカーは、テスラのようにクリーンな自動車メーカーから「CO2排出量削減枠」を購入することになるわけですね。
ちなみにテスラはこの枠を販売することで年間数百億円の利益があるといいますが、これもまた多くの自動車メーカーがEVを発売したい理由なのかもしれません(EVそのものの販売は赤字でも、CO2削減枠を他社に販売することで黒字転換できる可能性がある)。
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参照:NIKKEI