| 今後、様々な場面において「サシャ・セリパノフ」の名を聞くことになるだろう |
サシャ・セリパノフ氏は「クルマのデザインと設計は一緒に行われるべきだ」と考えている
さて、ランボルギーニ、ブガッティ、ジェネシス、そしてケーニグセグにてデザイナーを努めてきたサシャ・セリパノフ氏がついに自身のデザイン事務所「ハードライン27(Hardline27)」をオープン。
同氏はランボルギーニではウラカン、ブガッティではシロン、ジェネシスではエッセンティア・コンセプト、ケーニグセグでジェメラとCC850のデザインを手掛けていますが、2022年にはケーニグセグを辞しており、その後の去就に注目が集まっていた人物です。
ハードライン27(Hardline27)では一体何を行うのか?
そしてこのハードライン27(Hardline27)を通じてサシャ・セリパノフ氏が行おうとしているのは「デジタルでクルマをデザインすること」。
デジタルデザインは物理的なプロトタイプ、コンポーネントの試作の必要性を最小限にまで減らすことができるためにコストの大幅削減が可能となり、設計段階から完成品までの時間を大幅に短縮することが可能です。
すでに多くの自動車メーカーがこれを取り入れていますが、日産やトヨタもその手法を一部公開していますね。
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現在の自動車業界は「誰にでも」チャンスがある状況だとも考えられ、というのも現在の電動化への移行によって多くの振興自動車メーカーにその扉が開かれることになったため。
以前だと自動車業界、とくに車体製造に新規参入するのは非常に困難であったものの、EVであれば参入障壁が大きく下がり、これによってデザイン事務所の仕事が急増しているとも言われます(新興メーカーの場合、もっとも有用な武器が”デザイン”である。そして資金に限りがあるためにハードラインのような存在はありがたい)。
よって、おそらくサシャ・セリパノフ氏がターゲットとするのは主に振興EVメーカーなのだと思われますが、自動車市場以外における製品のデザインプロセスを再考することも視野に入れているといい、産業界全体に革命をもたらそうとしているのかもしれません。
「ハードラインでは、クルマのデザインを原点に戻したいと考えています。機能、性能、芸術の交差点における妥協のない自動車の美しさです。「美は見る人の目の中にある 」という表現はナンセンスです。真の美は確かに絶対的なものです。それを追求することが私たちの使命なのです。
車両とブランドのアーキテクトとして、私たちはプロジェクトに総合的にアプローチします。私たちのデジタル・オンリーのプロセスは、自動車業界だけでなく、隣接する業界のクライアントにも品質、効率、洗練性を提供します。私たちは、最高水準のみが許容されるバックグラウンドを持っており、そのたゆまぬ倫理観をすべてのプロジェクトとすべてのクライアントにもたらします。
なお、同社は「デジタル」のみにとどまらず、実際のデザインモデル、ショーカー、プロトタイプのデザインと製作も行うといい、現在スタジオはロサンゼルスとベルリンに設立されており、数十人の従業員を抱えているようですね。
サシャ・セリパノフとはどんな人物なのか?
サシャ・セリパノフ氏の本名はアレクサンダー・セリパノフといい、カリフォルニアにあるアート・カレッジ・オブ・デザインで車両に関するデザインを学んだのちにフォルクスワーゲングループへと加入し、2010年には(VWグループ傘下の)ランボルギーニのデザインチームへと配属され、その後はやはり同グループに収まるブガッティへと異動。
そこでまずは2014年にブガッティ・ヴィジョン・グランツーリスモを手がけ、その後にはシロンのデザインプロジェクトに携わっています。
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その後2016年にはヒョンデの高級ブランドであるジェネシスのチーフとして引き抜かれ、2019年にはケーニグセグへ、そして2022年にはフリーのデザイナーへ。
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なお、ケーニグセグを辞した後にはカーメディアのインタビューに登場しており、そこで述べていたのが「もっとクルマの本質的なデザインに関わりたい」。
現代の自動車メーカーはあまりに巨大化し、そのためデザインとエンジニアリングとが分断されていて、さらにはデザイナーの仕事も「ドアミラーだけ」「ランプだけ」など細分化されており、クルマを作るというダイナミズムに欠けるということを指摘しています。
一方で、1960−1970年代のスーパーカーのように「デザイナーとエンジニアとが同じ現場にて課題を解決するために働き、お互いがそれぞれの領域に踏み込み、しかし尊重することで可能性を高めていった」時代のようなクルマづくりを行いたい、とも。
そしておそらく、今回のデザイン事務所の設立によってそれを実現しようと考えているのだと思われますが、今後はクライアントともに、「ああでもない、こうでもない」と喧々諤々しつつ、より優れたクルマをデザイン・設計してゆくことになるのかもしれません。
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