
| なぜV8エンジンには「低く響く音」と「高音で叫ぶ音」が存在するのか? |
それはV8エンジン特有の「フラットプレーンクランク」に由来する
V8エンジンと言えば低く重厚なサウンドでおなじみで、アメリカのトラックやマッスルカーに搭載されているV8は始動した瞬間に周囲へ存在を知らしめるようなグラベル感のある響きを奏で、この特徴的な「ドロドロ」としたサウンドは、多くのエンジンファンに愛されています。
しかし、V8エンジンにはもうひとつ、全く違う音を奏でる種類があり、たとえばフェラーリなどの高性能スポーツカーに搭載されるV8は、高回転・高音域で鋭く響くサウンドが特徴です。
同じV8というレイアウトにもかかわらず、どうしてこんなに音が違うのでしょうか?
その答えは、クランクシャフトの構造の違いにあります。
V8サウンドの正体は「クランクシャフト」にあった
V8エンジンとは、8つのシリンダーを2列(V字)に配置したエンジン形式で、この構造は同じでも、クランクシャフトの違いによってサウンドは大きく変わります。
まず、V8エンジンには大きく分けて2種類のクランクシャフトがあります。
- クロスプレーンクランクシャフト(Cross-Plane Crankshaft)
- フラットプレーンクランクシャフト(Flat-Plane Crankshaft)
ここでそれぞれの仕組みと音の違いを解説してみます。
低くうねる「クロスプレーンV8」の魅力
クロスプレーンクランクの特徴
- クランクピンが90度ずつ配置
- 見た目が“十字型”に見えるため「クロス」と呼ばれる
- 典型的なV8サウンド(ドロドロとした不規則な振動音)
音の秘密
クロスプレーンV8は、ピストンの燃焼順序が不均等で、例えば「左・右・左・左・右・左・右・右」というようにリズムが崩れ、この“ズレ”こそが、V8特有の重低音でうねるようなサウンドを生み出しているわけですね。
メリットと用途
- 低回転域で大きなトルクを発生
- 重量物の牽引や加速に適しており、トラックやマッスルカーに最適
- クランクシャフトが重く、高回転には不向き
高回転で叫ぶ「フラットプレーンV8」の魅力
フラットプレーンクランクの特徴
- クランクピンが180度ずつ配置
- 見た目が“フラット(一直線)”になることから「フラットプレーン」と呼ばれる
- 均一な燃焼順序(左・右・左・右……)によって高音・高回転の鋭いサウンドを実現
音の秘密
フラットプレーンV8は、完璧に規則正しい燃焼リズムを持ち、これにより、クロスプレーンのようなうねりはなく、高音で直線的に吹け上がるサウンドを生み出しますが、フェラーリやマクラーレンのようなスーパーカーが採用しているのはこのタイプ。
ただしデメリットも存在し、それは「振動が大きく、その振動がエンジン構成部品や補機類、ひいては車体にダメージを与える」というもので、これを嫌って多くの自動車メーカーはV8にクロスプレーンクランクを採用し、しかし一部の「パフォーマンスを最優先する」自動車メーカーや車種はフラットプレーンクランクを採用しています。※シボレーは初めて市販車にフラットプレーンクランクを採用するに際し、かなり苦労したことを明かしている。それでもZR1発売直後はトラブルが頻発したことも
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メリットと用途
- クランクシャフトが軽く、非常に高回転まで回る
- 低速トルクは控えめだが、高回転域の伸びは圧倒的
- スポーツカーやレーシングカーに多用される
まとめ:クロスプレーンV8とフラットプレーンV8の違い
項目 | クロスプレーンV8 | フラットプレーンV8 |
---|---|---|
クランク配置 | 90度間隔 | 180度間隔 |
サウンド | 重低音・うねる・アメ車的サウンド | 高音・シャープ・フェラーリてきサウンド |
得意分野 | 低速トルク・牽引・日常使用 | 高回転・軽量・サーキット向き |
採用例 | アメリカンマッスル、トラック | フェラーリ、マクラーレン、AMGの一部モデル |
V8エンジンは、単なるレイアウトではなく「音の文化」そのもの。
クロスプレーンのV8は「オペラのバリトン歌手」、フラットプレーンのV8は「ヘビーメタルのハイトーンボーカル」と表現していいのかも。
参考までに、同じ車種でも「フラットプレーンクランク」と「クロスプレーンクランク」を使い分けている例があり、C8コルベットだとベースグレードでは「クロスプレーンクランク、ZR1ではフラットプレーンクランク」。
メルセデスAMGでは先代GTにおいて「(走りを最優先した)ブラックシリーズ」にフラットプレーンクランクが採用されており、「明確に使い分けるだけの理由がある」のがクロスプレーンクランク、そしてフラットプレーンクランクということになりますね。
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参照:jalopnik